田中良介
目次
野鳥録音のおすすめ(第二回)
野鳥好きの皆さんに、彼らの鳴き声の録音をお勧めしたいと思って書き始めたシリーズの第二回目です。前回最初の回では、なかなか本題に入らないで脱線と寄り道を繰り返してしまいました。今回からはもう少しまじめに本題のお話をしたいと思っておりますが、野鳥についての話題は私にとってとても楽しいものなので、書いていてもすぐに余談のほうへ入りがちです。その辺をご承知頂き、読み進めてくだされば幸いです。
ところで、ウォッチャーやカメラで野鳥を楽しんでおられるベテランの皆さんの中には、すでに録音機を購入されて、いつも鳥見の時には携行されている方が多いと想像しています。各地の野鳥の会報などにも録音に関する報告などちらほらと話題に上るケースが目に付くようになりました。中にはかなり専門的に突っ込んだ取り組みをされている方があるかもしれません。このシリーズで、私が生半可な知識を披露すると恥ずかしいことになるかもしれませんが、知識の深さはともかく、もう長くやっていることに自信を持って、実戦で体験したことの中から皆さんに少しでも役に立つ情報をお伝えできればと考えております。
さて、バードウォッチングの折に皆さんはどうやって最初に野鳥を発見されるでしょうか? 日本野鳥の会発行の「野鳥」誌に昨春から「野鳥の声を聴く楽しみ」と題して、野鳥録音のノウハウを連載されている松田道生氏の文章からの引用ですが、次のような部分があります。
『どうやって野鳥を発見したか分析したことがあります。都内の公園における記録ですが、70%が声による発見でした。(中略)いかに姿ではなく声で見つけているかわかります。』また、『野鳥の声を聴き分けられない、(中略)実際に声を聴いておぼえるのがいちばん確実な方法なのです。そして、おぼえる早道は「野鳥録音」をすること』
私もまったく同感です。
前回も書きましたが、ここ数年の間に、録音機器には驚くほどの発展がありました。いろいろと不便だったカセットテープによる録音機はとっくに姿を消し、一時は画期的ともてはやされたMD(ミニディスク)プレーヤー兼レコーダーの時代も三年ほどでブームは去り、いまや録音機の記憶媒体はメモリーに移行し、いわゆるアイシー・レコーダー、さらにはその延長線上のリニアPCMレコーダーの時代が到来しました。これらの機材は安価で小型、買い求めやすく、軽量で携行するのも容易です。また、パソコンを使えば編集も自由自在、編集した成果をCDに書き込むことも簡単にできて、自作のCDを繰り返し聴くことにより野鳥の声を覚えることにも役立てることができます。また、私のように自分の声で解説のアナウンスを入れて編集し、自然の中で行動することが困難な人々に聞いて楽しんでいただくことも楽に作業できる時代となりました。
松田氏の言葉を借りれば『今、野鳥録音を始めない手はない』そして、まさに『野鳥は鳴くもの 録るもの』なのです。
ところで、野鳥の声を録音するとして、まず相手(野鳥の鳴き声や行動)について知っておく必要があります。これらの知識を踏まえて、レコーダー(録音機)や必要ならば外付け用のマイクロホンの購入などを検討されると良いと思います。
まず始めに、野鳥たちはどんな[周波数]の声で鳴いているのかをおおまかに知っておくことも大切です。こうしたことは、録音のあとにその音声ファイルを編集する時にも役立ちます。
今回は、私たちが耳にする可能性が多い鳥たちを選んで、高い声の鳥から、低い声まで代表的な鳥種と鳴き声の周波数帯を記してみます。(参考にしたのは「日本野鳥大鑑・鳴き声420増補版」)
声が高いほうから順番を追って見てみましょう。これは私の個人的な印象も入っていて、正確に科学的な根拠に基づいたものではないことをお断りしておきます。
①から⑩までは高い声の代表的な鳥たち。⑪からは低い声の鳥たち。
以上で分かるように、鳥たちの低い音は500Hz前後、もっとも高い音でも9000Hz位なのです。
一方、レコーダーに内蔵されているマイクでも、私が外付けで主に使っているマイクでも、録音可能周波数帯域はどのメーカーのものも価格に関係なくおよそ80~17000Hzですから、野鳥の鳴き声の周波数の幅を楽々とクリアしています。つまり簡単に言えば、録音できない鳥はないということになります。
ここで、また余談ですが、上の鳴き声の例にあげたもっとも高い声はヤブサメでした。
ヤブサメはご存知のように潅木の茂みでシシシシシシ・・・・と虫のような声で鳴いています。この声を最近さっぱり聴くことが無くなった、と嘆いたら録音を趣味にしている仲間の山口氏は「いや、よく声を聞きましたよ」と言います。皆さんはいかがでしたか、つまりヤブサメは以前と変わらず季節には声を聞きましたか?
次の季節が来て、仮に私が山道を歩いている時、至近距離でヤブサメがシシシ・・・と鳴いてくれたとしても、じつは私の耳には残念なことにそれが聞こえないのです。
インターネットで可聴周波数テストなるものがあって、ほんの遊び心で孫娘たちとやってみて愕然としました。私の耳には8000Hzがギリギリで9000Hzはどうしても聞こえないのです。つまりヤブサメが間近で鳴いてくれたとしても、それに気がつかない可能性が高いということになるのです。
ちなみに私のアラフォーの長女は13000Hzが、そして驚いたことに小4と中1の孫娘たちは17000Hzが聞こえると言います。私は悔しくて「ネットのゲームのようなもので何が分かる」と思って、数日後に耳鼻科に行き、本格的に聴力検査を受けてみました。
その結果は「ああーっ」出るのはため息のみ、ネットのゲーム感覚で出た数値と同じだったのです。
「田中さんの年齢を考えると、まだ少しですが良いほうですよ」と耳鼻科の先生が慰めてくれた言葉も私には空虚なものでした。この結果を音にうるさい別の友人に話すと、「あのね田中さん、自分の耳が悪いからと言って悪い音の録音で甘えていたらあかんですよ。あなたの作るCDを聴く人たちは、皆耳が良い人ばかりなんだから。」と言われたのにはショックを受けました。でも、本当にその通りで、自分の耳が悪いからと言ってそれに甘えることなく、良い音を作ることに今後も努力しなくてはと、悔しい出来事をきっかけに改めて誓ったことでした。それは人様に聞いていただくためだけでなく、野鳥の鳴き声を録音した音声資料を後世に残して行くためにも大切なことだと思います。
今回は具体的なレコーダーの選定や録音の簡単なテクニックについてもお話しするつもりでしたが、例によって無駄話が多くて書くページが足りなくなりました。次回こそ実践論に入りたいと思います。
幸か不幸か、八月のこの暑い季節になると野鳥もほとんど鳴くことはありません。七月の半ばまで葦原で「ギョギョシ、ギョシギョシ・・・」と大声を上げていたオオヨシキリも今月始めに同じ場所に行ってみたら、そこは無音の世界と化していました。やがて秋の渡りの頃になると、また鳴く鳥たちもあるので、それに間に合うように、次回に続きを書くことにいたします。
(第二回終わり)
(「野鳥だより・筑豊」2013年9月号 通巻427号より転載 2013-08-19)
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