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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

野鳥録音のおすすめ(第三回)

野鳥の鳴き声を録音することを一人でも多くの皆さんにお勧めしたいと思って書き始めて今回が三回目。

一回目が七月でしたから、皆さんのお手元に本誌(注:「野鳥だより・筑豊」連載)が届く頃は、大部分の野鳥たちがもっとも賑やかに鳴く季節が終わる頃でした。その意味では本稿の掲載時期はまことに時期外れであったと言わざるを得ません。今月九月も野鳥はほとんど鳴いてくれません。そんな季節に野鳥の鳴き声を録音しませんか、とお誘いするのは冬鳥たちが皆北の国々に返ってしまった5月に冬鳥のバードウォッチングの楽しみ方をお話するようなもので、興が乗らないこと甚だしいことかもしれません。

しかし、九月になればモズの高鳴きも聞けるし、10月に入ればまた冬鳥たちが帰って来ます。夏鳥とは違い、繁殖のためではありませんから、初夏のころのような賑やかで華やかな歌声は聞けないまでも、とくに干潟では渡り途中のシギ類の意外に面白い声を耳にし、録音も楽しみになります。

私は録音を始めた頃、初夏の山にばかり出かけていました。オオルリやキビタキをはじめ夏に渡ってくる鳥たちやメジロ、ウグイスなどの多彩な鳥たちの声が録音できて、楽しいことこの上もありませんでした。でも一通り私でも録音出来る初夏の鳥たちの声を録り尽くすと(と言っても、実際にはまだまだ録音できてない鳥はいっぱいありますが)、こんどは秋から冬に録音出来る鳥はないかな、そう思って出かけたのは干潟でした。干潟では春の渡りの時期に多くの種類のシギ、チドリ類に出会え、声もよく聴くことが出来ます。一方、秋にやって来るシギたちもそれぞれ結構楽しくて興味深い鳴き声をよく出してくれます。

干潟で良いことは風が強くなければ、の条件付きですが、水面では遠くからの声でもよく届いて来ると言う利点があることです。ただし、利点をひっくり返せば弱点にもなります。対岸に、もしも車が頻繁に通る道路があったりすると、その通行音がノイズとなりやすいということも言えるわけで、この点は要注意です。私たち人間の目や耳の特徴として、自分が見たい、あるいは聞きたいものだけを上手に拡大して脳に伝えていることは皆さんもよくご存知だと思います。写真をされる方で、あとでよく見るとバックに不要なものが写りこんでいることに気がつくことがあるのと同じで、音の場合も不要な音や必要以上にノイズが録音されていてガッカリすることがあります。

ところで、干潟にやって来るシギ類は夜によく鳴きます。ウォッチングや写真と違って、ここで録音は強みを発揮できます。つまり明るさに関係なく音さえあれば録音ができるという点です。そのため夜鳴くシギ類の声も、辺りが静かになった夜遅くに録音することができるのです。潮時がうまく合えば、例えば岸辺の潅木の茂みの陰などにいると、こちらの姿が見えないことに安心して、ダイシャクシギやホウロクシギ、チュウシャクシギ、ダイゼン、アオアシシギなど、それにチドリ類が近くまでやって来てくれて、個性的で意外に面白い声を間近でたっぷりと録音させてくれる幸運に恵まれる機会は十分に期待できます。

そんなわけですから、このたびの私の拙文で、一人でも二人でも録音に関心を持ってくださった方には、ぜひ干潟の鳥たちの録音を手始めに試みられては如何でしょう。

さてここで、私が現在使用している録音機材をご紹介することにしましょう。

たいした道具ではないのでいささか恥ずかしいのですが、逆に言えばこんな道具でもそこそこ録音を楽しめることを分かっていただけるかも知れません。

ICレコーダー類は、たまたまオリンパスのものを使っています。このメーカーのものにしたのは特別な意味は無く、私がオリンパス製品の信頼性を評価していたからというだけです。ほかのメーカーにも機種が多くありますから、それぞれの好みで選ばれると良いと思います。

下の「写真1」がそれですが、

[写真1] レコーダ

レコーダ

左から DS-50DS-51LS-14DS-700(いずれもオリンパス社製)

左の2台はDSシリーズで、DS-50とDS-51はかなり初期のものですが、未だに元気でよく使っています。右端もDSシリーズ(DS-700)ですが、これはPCM(非圧縮)録音が可能です。右から2台目の大きいものがもっとも最近手に入れたPCMレコーダー“LS-14”です。特別に設計された性能の高いマイクを内蔵しています。

写真のようなレコーダーの登場で、カセットやMD(ミニディスク)時代に比べて格段に録音が楽になりました。そのメリットを簡単に列挙すると、

  • ①機械の価格が安くなった
  • ②長時間録音ができる
  • ③電池の消耗がはるかに少ない
  • ④タイマー録音が可能
  • ⑤録音した音をパソコンに取り込み、編集ソフトを使って音の修正や編集ができる

などです。

どの機種も、基本的には内臓マイクか外付け用のマイクが使えますが、“LS-14”を除いて、私の場合は自分で加工したマイクをコードで繋いで使用しています。

では、私のオリジナル手製のマイクを下の写真2でご紹介しましょう。

[写真2] ハンドマイク

ハンドマイク
  • ①中央の手製のウインドジャマー(風除け)をつけたもの2本が私のオリジナルのハンドマイクです。先端部に写真左端の小型マイクとほぼ同じ大きさの、“オリンパス専用小型ステレオマイク ME53S”が仕込んであります。このマイクにミニプラグのついた延長コード(1メートル)を繋ぎ、扱いやすい大きさにするためと、マイクに手で触れた時の摩擦音などのノイズを軽減するために、スポンジラバーの先端にマイクを埋め込み、柄としてプラスチックまたは木製のシャフトを取り付けてあります。
    ウインドジャマーは、一般にボアと呼ばれるフワフワした太い毛糸で、妻に編んでもらったものです。これが意外にも風音除けに効果があります。全体の長さは約25センチです。
  • ②右端は指向性が高い、いわゆる望遠マイクですが、ステレオではなくモノラルです。基本的にモノラルの録音はしないので、実際にはほとんど使用していません。

余談ですが、野鳥の録音をまったく知らない人は、今でもパラボラアンテナのようなマイクを使っていると思っている人が結構いて「田中さん、あんな大きな道具を担いで、野山に出かけるのは大変でしょう」と変な慰めを言ってくれますが、それはもう大昔の話で、今では長い望遠レンズに大きな三脚を担ぐカメラマンよりはるかに軽くて、持ち運びも楽な道具を使う時代となっています。この話題になると、日本の野鳥録音の草分けであった蒲谷鶴彦先生の初期のご苦労が偲ばれます。なにしろバッテリーだけでも数十キロもあったと言いますし、巨大な集音器の運搬も困難だったことでしょう。

さて、マイクでもっとも回数多く使うものは上述のハンドマイクですが、これとは別に同じく私の手製の長い柄をつけたものも多用しています。それが次の「写真3」のようなものです。先端の風除け部のなかに写真2のハンドマイクが組み込んであります。

[写真3] 長い柄つきマイク

長い柄つきマイク

このマイクには約1メートルのビニールパイプがシャフト(柄)として取り付けてあり、使用目的としては、おもにタイマー録音をする時に、木の枝などにビニールテープで固定したりして使います。

レコーダーはシャフトの根元に近いところに取りつけたビニール製のバッグに入れます。

このマイクはタイマーをかけて長時間現場に置いておく以外に、潅木の茂みの陰や岩陰から隠れて録音する時や、また高い木の枝で鳴いている鳥の声を録音するときに、少しでも音源に近づけたい時にも使用します。しかし、例えば25メートルの高さで鳴いているキビタキの声を録音する時、1メートルの柄をつけたマイクを向けたところで実際の距離はわずかに1メートル近づけるだけですから実質的な効果はありません。私の心理的なもの「少しでも音に近いところで録音したい」と言う欲求がそうさせるだけです。

しかし、柄があることで実用上は結構いろいろと利用価値はあります。例えば林の中の急な斜面を上り下りする時に、杖代わりに使って姿勢を安定することにも役立ちます。

今回の最後のアイテムとして、パソコンで音を管理するための編集ソフトについて簡単に触れておきたいと思います。

ボイスレコーダーやPCMレコーダーを購入すると、各社それぞれの機種用に簡単な編集ソフトが同梱、またはダウンロードで使えるようになっています。しかし、これらのソフトは概ねパソコンへの録音ファイルの取り込みと、極々簡単な音の整理と保存ができる程度で、丁寧なファイルの加工編集やCDへの書き込みにはもう少し専門的な編集ソフトがあったほうが良いことになります。

私の場合は「Digion Sound外部サイトへリンク」という音楽編集ソフトをもう長く使用していて、使い方にもすっかり馴れて、そこそこの仕事ができるものですから、他の新しいものに乗り換えたい気持ちもあるのですが、ソフトを変えることにはなかなか勇気が必要で、踏み切れないでいます。ただし、現在ではもっといろいろな編集ソフトがあり、なかには、無料でダウンロードできるものもあります。また、ソナグラム(声紋)を表示できたり、印刷できるソフトもあります。今後は折を見て新しいものにも挑戦して行きたいと思っています。

以上、今回は私が普段使っている機材についてご紹介しました。次回は実際にフィールドでの応用面について、私の経験からお話したいと思います。その中には多くの失敗があり、また偶然の幸運で思わぬ成功を手にしたお話もしたいと思います。

そして次回の最後には、私たちが心がけねばならない録音時のマナーについても触れるつもりです。では、次回もよろしく。

(第三回終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2013年10月号 通巻428号より転載 2013-09-22)

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