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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

野鳥録音のおすすめ(第四回)

野鳥の鳴き声を録音することの楽しみ、また意義について拙文を書き続けさせていただいています。前回は私が使用している録音機材についておもにお話をしました。

今回は実際にフィールドで録音する場合のテクニックや私の経験、そして問題点をお伝えしたいと思います。

基本的な問題に後返りしてお話が重複するかもしれませんがご容赦ください。

シンボルマークタイマー録音(置きっぱなし録音)が便利

最近私が使用している録音機はICレコーダーやさらに進歩したリニアPCMレコーダーです。これらは言うまでもなくデジタル録音機ですからいろいろ優れた機能を有しています。その中でもっとも使って便利な機能はタイマー録音です。

実際に野山で野鳥の鳴き声に出会って、その場で良い録音が録れるのはじつはまれで、よほどの幸運に恵まれない限りは難しいことです。しかし、例えばバードウォッチングに出かけた時に、鳥の声はするけど姿が良く確認できない場合に取りあえず聞こえている鳴き声だけを録音しておき、あとで聴きなおして鳥種を確認するといった場合には現場での録音はとても役に立つのではないでしょうか。

私の場合は、最初から録音することこそが目的なので、明瞭で、かつ一定以上の時間の録音をものにする必要があります。そこで私の場合は前述のタイマー録音機能を多用しています。これを使うとフィールドに出かけた際に、ここはと思うポイントに1〜2台録音時間をセットしたレコーダーを置いて(放置)おき、あとは直接録音するためのマイクとレコーダーを持って歩きます。その後置いてあったレコーダーを回収すると、こちらの方に狙った鳥や思わぬ鳥の良い鳴き声が、しかも至近距離で入っていたりします。

ご存知のように野鳥たちは未明から夜明け前後と、日没直後にも良く鳴きます。またトラツグミ、ヨタカ、フクロウ類のように夜専門に鳴く鳥もいます。サギ類やカワウのように集団で塒を取る種類の場合は、塒の枝を奪い合う面白い声での鳴き合いの時間も日が暮れてからです。こんな時の録音にはタイマー録音が威力を発揮しますし、私は多用しています。

タイマー録音を行う場合は、前もって明るいうちに現地に出向き、周囲の状況、地形、風向きなどを考慮しておきます。そして条件の良い場所を選んでレコーダーと、私の場合は外付けのマイクを木の枝などに固定します。始めから雨が予想される場合はもちろん出かけませんが、天気予報がたとえ晴れであっても、にわか雨や夜露で機器が濡れる恐れがあるので、いつもレコーダーは濡れないようにビニール袋に入れて水滴が入らないようテープや輪ゴムで密封しておきます。タイマーをかける時間帯は日没直後と深夜、それに未明から夜明けにかけての三つの時間帯です。一回の録音時間は一時間半から二時間を目安にしています。もっと長くすればそれだけいろいろな音にめぐり合うチャンスが増えるのですが、あとで中身を聴くのに時間を要します。また録音時間の中から必要部分を取り出す作業もたいへんです。それらのことから経験的に一時間半〜二時間を一区切りにするようになりました。

こうして私たち人間が夕食や睡眠している時間帯の間にも、自然の中では野鳥をはじめいろいろな動物たちが活動している音が録れて、それを聞いてみて彼らの命の営みの一端を知ることができて驚くことがしばしばです。実際にタイマー録音によって多くの良い録音を録ることができてきました。私が毎年制作する鳥の声のCDに入れる音源の平均80%はこの放置タイマー録音によるものです。

シンボルマークノイズへの対処

さて、自然の中には多くのノイズが存在します。これが録音する者の大きな悩みの種です。ずいぶんと山の中だからと思っても、じつは遠くの町から救急車のサイレンや車が走る音がゴォーッと聞こえてきます。また航空機の飛ぶルートに近いとその飛行音も厄介です。たまたま良い鳴き声を録音中にこれらの音が入るとガッカリです。

これらの他、ノイズでどうしても避けられないものは自然の音です。風の音、水が流れる音などですが、私の経験で厄介なのは風で、とくに林の梢部分の枝が揺れて生じる葉擦れの音です。この音は周波数が高くて、高い声で鳴く小型の鳥の声の周波数と重なるのでノイズの除去ができません。樹冠部が揺れるような風の中での録音は避けたほうが良いでしょう。

一方で、いわゆるグランドノイズと呼ばれる、どんな場所にでも多少はある低いゴォーッというノイズは500kHz前後のものが多いので、フクロウ類やヨシゴイなど低音で鳴く鳥を除けば編集ソフトのフィルター機能やノイズリダクション機能を用いて除くことができます。

また、大抵の野鳥たちは高い周波数で鳴きますから、低音部を取り除けばクリアな音に加工できますが、このような加工をすることにより、どうしても本来の鳴き声も変質します。もともとの鳴き声を変質させない範囲で妥協することも大切です。

ノイズに関して言えば、目的の鳥の声のバックに入っている音も、ノイズであるように聞こえてじつはその場所の情景を感じさせる有益な背景音であることもあります。ノイズを逆に利用して雰囲気を演出する配慮も時には必要だと肝に銘じて音作りをしています。初歩的な問題ですが、この雰囲気を演出するためにもステレオ録音をしています。

シンボルマークフィールドでの危険

次は私の経験からのエピソードをいくつかご紹介しましょう。

山の林道を歩いている時に横の林の奥から、例えば私の大好きなクロツグミやイカル、時には聞きなれない鳴き声が聞こえてきたとしましょう。私は急いで林道を離れて林の中に分け入ります。鳴いている鳥を刺激しないよう気をつけながら足音をしのばせて、早く近づきたい気持ちを抑え、回り込むように進みます。林の中はアップダウンがあるので時には下りの斜面を降ります。なにしろ片手には録音機器を持っていて、空いているのは片方の手だけです。その上に視線は鳥の方に向いていて足元がお留守になります。

こんなふうに進む時に、倒木や転がっている岩に何度足を引っ掛けて転んだことか、そしてその度にたいてい足首や向こう脛に擦り傷を負います。また膝の関節を痛めることもあります。こんなことで膝を痛めた時に、いつもお世話になる整形外科病院に行った時に医師の先生に言われたことがあります。

「田中さん、膝を痛めてもたいていは治療はできるけど、林の中で転んで傷をつけるのは気をつけないと。傷から破傷風菌が入って命取りになる場合もあるからね。」

林の斜面でもう一つ気をつけないといけないのは、体勢が傾いた時に思わずつかんだ木が枯れていてポキンと折れ、バランスを失うことです。派手に転んで何度も痛い目に遭いました。痛いだけでは収まらない骨折などの大怪我になることもあり要注意です。

また、今年話題になったマダニやマムシにも気をつけないといけません。私は今までに二度も知らずにマムシを踏んづけていたことがあります。私の仲間である盲目の録音家は三年前に深夜の森の中でマムシに咬まれて危うく命を落とすところでした。

もう一つ山の中で遭遇する厄介な動物はイノシシです。今までに何十回も出会っていますが、こちらに気がつくと大抵は向こうが一目散に逃げて行きます。しかし、今年の夏に、マイフィールドである近くの里山でフクロウの幼鳥の声を録音しようと出かけた時に、いつもの林の中でイノシシの親子と遭遇しました。近づいても一向に逃げる気配がありません。それどころか親イノシシは「グウーッ、グウーッ」と低い唸り声を上げてこちらを威嚇します。近くの知り合いの農家の人に、「今この辺の山は子連れのイノシシがいるから入らん方が良い」と忠告されているので、その日は諦めて後戻りしました。

イノシシと言えば、タイマー録音を仕掛けておいたマイクのコードをズタズタに咬まれたこともありました。レコーダーが無事だったのは何よりでしたが、それ以来イノシシのいるところで放置録音をする場合は、彼らの背が届かない高さに設置しています。

シンボルマーク録音をする時のマナー

昨今バードウォッチャーや野鳥カメラマンのマナー違反をよく見聞きします。マナーには大きく分けて二つの観点があると思います。

一つ目には言うまでもなく目的の野鳥やその生息環境に負荷をかけないことです。

私の実体験から一つの例をお話しますと、数年前に福岡市西北部の里山に毎年サシバの夫婦が繁殖のために渡って来ます。里山の入り口に集落があり、そこでサシバが営巣する場所と営巣木について農家の人から情報を得て、さらにその付近の畑の持ち主にあぜ道を通ることの了解を得ておきました。サシバの営巣する杉の木は里山のもっとも奥に数本ある杉の木の一本の梢付近です。

私はすでに巣作りが終わったサシバを刺激しないよう手前の林の中に入って、そこから林を横切って営巣木の手前およそ10メートル付近まで接近しました。そこはまだ樹木が茂る林の中なので私の姿は木々の葉に隠れてサシバの巣からも、上空からもまったく見られることはありません。前日のうちに、そこに巣の方向に向けてタイマーをかけたレコーダー2台、角度を変えて設置しました。タイマー録音が働く時間はその日の夕方と、翌未明から日の出後です。こうしてサシバにほとんど気づかれることなく彼らの伸び々した鳴き声をゲットすることができました。

この録音に先立ってこの里山に前もって観察に出かけ遠くから畑や林の位置、そこに続くあぜ道などその辺りの状況をよく観察して作戦を実行しました。こうして十分に練った作戦通りに良い録音が物にできた時の喜びは大きなものがあります。最後にお世話になった農家を訪ねてうまく行ったことを報告し、お礼とともに、農作業で付近の畑に出かける時にはこのサシバたちの繁殖行為を温かく見守ってくれるようお願いしたことは言うまでもありません。

ここのサシバはその後も毎年やって来て子育てをしているようですが、周りの畑を放棄する人が増えて餌場がなくなるのが心配です。

もう一つはこれも当たり前のことで、周辺の人々の暮らしを邪魔しない、迷惑をかけない配慮を忘れないことです。

今年の初夏にブッソウソウに会いたくて、熊本県の緑川上流にある内大臣橋に出かけた時のこと、一人のカメラマンがこんなことを言っていました。「野鳥の会に入ると何かとうるさいから、自分らの仲間は入っていない」と。つまり彼らがマナー違反を常態的に行っていると自ら認めた言葉です。こんな人たちが増えていることは残念なことです。

私たち録音する人間は、ウォッチングや写真撮影よりもマナーに関してはより厳しく自分たちを律していると自負していますし、また録音と言う行為は野鳥と環境への負荷が少ない自然の楽しみ方だと思っています。

マナーの問題は野鳥フアン共通のものであり、野鳥を愛する諸兄、諸姉に今更細かく申し上げることではありませんが、録音ならではのマナーを最後に一つだけ。それは録音した音を山の中などフィールドでは大きな音で再生しないことです。とくに繁殖期は鳥たちの行動を撹乱することになりかねません。試し聞きはイヤホンやヘッドホンで行いましょう。

前述のように基本的なマナーは愛鳥家の野鳥たちへのアプローチに共通することですから、これ以上は触れませんが、何事もルールやマナーを守ってこその楽しみであることをお互いに肝に銘じて自然を楽しみたいものです。

(第四回終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2013年11月号 通巻429号より転載 2013-10-22)

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