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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

録音を通して知る野鳥の意外な声や習性

シンボルマーク[1]一羽のモズが導いてくれたオオジシギとの出会い

昨年機会を頂いて本誌(注:野鳥だより・筑豊)に「野鳥録音のおすすめ」と題して拙文を連載させていただきました。いったいどれほどの方が読んでくださり、また興味を持ってくださったのか、とても気になるところです。

それはともかく、折角録音について書かせていただいたので、その続編として、今回のタイトルのように、意外な鳴き声や、初めて分かった習性など、録音というアプローチで野鳥と関わりを持ったからこそ知ることが出来る興味深い話題をテーマに、また拙文を掲載させていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

さて、読者の多くの方はモズが「グゼリ」という鳴きかたの中で、他の鳥たちの物まねをすることをご存知だと思います。モズは秋早々に山から里に下りて来たすぐ、おなじみの「キィー、キィー、キチキチキチ、ジュン、ジュン」といういわゆる高鳴きをする頃にも、このグゼリでの鳴き声を出しているのを耳にすることもあります。しかし、冬の間を過ごす縄張りが確定すると高鳴きもグゼリもしなくなります。

やがて年が明けて二月に入るとまたグゼリを始めます。この頃のグゼリは秋のそれと違ってかなり真剣に本腰を入れて頑張って(?)鳴いているように感じます。それはこのグゼリ=物まねの声で、その年の繁殖相手となるメスに自分をアピールするからだと思われます。声としては小さく、声質も濁ったような鳴き方なので、普通の人にはあまり好まれないこのグゼリですが、メスのモズだけを特別に惹きつけるいわば音のフェロモンとも言える要素が含まれているのでしょう。

今から四年前の早春に、私の自宅付近の街なかを流れる川のほとりの畑に、その頃毎年来ていた一羽の雄のモズがグゼルのに気がついた私は、なんとかその声を録音したいと思いました。しかし、上述のように、グゼリの声は高鳴きの声に比べればずっと小さく、よほど至近距離でないとマイクで捉えるのは困難です。さらにその場所は大通りから100メートルも離れていないので、車の騒音で折角の声が掻き消される恐れもあります。

そこで、私は、そのモズの行動を何日か観察し、どこに止まってグゼルのか調べてみたところ、川の両側にある小さな畑を行き来しながら、畑の端に生えている一本の小さな木の枝でグゼルことが多いことに気がつきました。そこで、このモズが川の反対側に行っている間に、その木の枝にマイクを取り付けてレコーダーを接続し、いわゆる放置録音を行ってみました。すると私の作戦は成功し、一発でグゼリの声をゲットできたのでした。しかもこのモズはその時になんと12分間もの長い時間グゼリつづけ、その間にヒバリ、スズメ、ツバメ、オオヨシキリ、セッカ、ホトトギス、カワラヒワなど14、15種類もの鳴き真似をしたのです。しかも驚いたことに、あの派手なデモンストレーションフライトの声と音で知られるオオジシギの真似までしてくれていました。

このことは私にとってまさに晴天の霹靂と言ってもよい出来事でした。なぜなら、私はそれまでは、モズは四月のはじめに繁殖相手となる雌とペアになって姿を消したあと、せいぜい近くの山で繁殖しているとばかり思っていたからです。この私の思い込みにはある伏線がありました。それは福岡市城南区の小高い丘の上にある住宅街に自動車学校があって、その角にある食堂の庭で毎年モズが繁殖して子育てをしていることを知っていたからです。つまり、街なかに居残って繁殖するものもあるくらいだから、畑から姿を消したモズたちもそんなに遠くに行くはずがないと勝手に思い込んでいたのです。そんなわけで、私が録音に成功したモズのグゼリの中で、はっきりとオオジシギの声が聞こえた時は本当にビックリしました。

モズがグゼリの中で真似る鳥の声は、前年に行った繁殖地で鳴いていた鳥たちの声を覚えてそれを真似るのだと言われます。と言うことは、このモズは近くの山ではなくオオジシギの声が日常的に聞こえる遠い地方まで行って繁殖期を過ごしたと言うことになります。

一方オオジシギは夏鳥としてわが国に渡来し、おもに本州中部以北、長野県や東北では高原で、また北海道では草原で繁殖するが、例外的に広島県や岡山県の高原でも繁殖する、そんなおおざっぱでいい加減な知識しかその頃の私にはなかったのです。

しかし、その時ふと遠い昔のある思い出が私の頭に蘇りました。それはもう何十年も昔のこと、お付き合いで阿蘇一宮のゴルフ場でプレーした折、頭の上で変な轟音のような不思議な音が何度もするので見上げたら、上空高いところから一羽の鳥が「ゴー、ザザザー」と音を立てながら急降下して来るのが見えたのです。それが私にとってオオジシギを見た最初です。まだ日本野鳥の会に入会する前のことで、その変な鳥の名前も習性も知らない頃でした。

その時のことを思い出した私は、問題のモズは本州ではなく、もしかすると阿蘇の高原に行って繁殖していたのではないかと思い、実際にオオジシギの九州での繁殖地を調べてみました。すると現在も阿蘇の大観峰付近と、久住高原の一部で繁殖していることが分かりました。そうであれば、何とかしてあの不思議でダイナミックなオオジシギのデモンストレーションフライトで出す鳴き声と豪快な風音を録音したくなりました。取りあえず情報を集めて見当をつけたうえで阿蘇と久住に出かけてみた結果、録音に適しているのは阿蘇の西湯浦にある草原だと決め、それからそこに何回も通うことになります。

ところで、私がはじめてオオジシギに出会ったのはゴルフのプレー中ですから当然昼間の時間帯です。しかし、実際に情報を得て行ってみた阿蘇の高原では、昼間はほとんど声と音がしないのです。不思議に思って近くのレストランの店主に聞いてみると、ここのオオジシギは日暮れから夜にかけて盛んに飛び回って鳴いているとのこと。仮に昼間に鳴いてくれたとしても、大観峰付近の各道路は車の量が多くて騒音に邪魔されて良い録音は録れそうもありません。むしろ車が減る夜に鳴いてくれたほうがこちらとしても好都合です。それにしてもオオジシギがあの派手なデモンストレーションを夜に行うとは、これも目から鱗の新発見です。

でも結果的にはここでのオオジシギの録音には苦労させられました。この鳥は鳴き出しの前触れが「ジッジッジッ」と地鳴きのような声で始まるのですぐにマイクを向けます。続いて「ジー、ジー、ジェー、ジェー」と段々声が大きくなっていくのですが、もうこの時は最初の位置から飛び立っていて、時には私の頭上を越えて道路の反対側の草原のほうに飛んでしまっています。最後に急降下する時はあんなに凄い「ゴー、ザザザー」という羽音を立てるのに、飛行のはじめのうちはフクロウと同じようにまったく羽音が聞こえないのです。ですから「ズビー、ズビー、ズビヤク、ズビヤク」と鳴き声が最高潮になる頃はとんでもない方向にいて、慌ててマイクを向けた時にはもう遅くてこの「ズビヤク」という肝心の面白い鳴き声の部分がうまく録音できないのです。辺りはすっかり日が暮れて真っ暗ですから当然鳥の姿は見えません。まさに翻弄されるとはこのことで、マイクを持ってあっちに走り、こっちに走りで疲れてしまうし、夜露で衣服が濡れて寒くなって来るし、そうしてまで苦労をしても良い録音は録れないままオオジシギも鳴き止んでしまいます。仕方なく帰途に就くのですが、山を下りて大津市経由で阿蘇インターから高速に乗り、眠い目をこすりながら車を福岡に向けて走らせてやっと帰宅するともう午前さまです。

そんなことを三回ほど繰り返した時、これではたまらないと一策を思いつき実行してみました。「ジッジッ」と前触れが始まってからマイクで追っても駄目だ、放置録音をしてみようと思い、明るいうちに切り通しになっている草原の土手を道路の端から登って、ここと思えるところ2か所にマイクを固定して置いて、レコーダーのスイッチをオンにし、あとは「果報は寝て待て」とばかり車に戻って座席を倒して文字通り寝て待つことにした結果、この作戦が見事に当たって、この夜どうにか使える程度の、あのオオジシギの「ジッジッジッ、ジー、ジー、ジェー、ジェー、ズビー、ズビー、ズビヤク、ズビヤク、ゴー、ザザザザーッ、ズビー」という一連の面白くて派手な鳴き声と、尾羽根が空気を切り裂く豪快な羽音が録音できたのでした。

しかし、この夜参ったのはマイクを回収するために土手を上り下りする際、背丈がすっかり伸びたセイタカアワダチソウやススキの中を掻き分けて歩くので腰から下がすっかり夜露に濡れてびしょ濡れになったうえ、ススキの葉で手に小さな切り傷が一杯にできて、アレルギー体質の私は痛痒くて参りました。それでもここに至る苦労が大きかっただけに録音がそこそこうまく行ったことを確認できた時の喜びは格別でした。このようにしてオオジシギの録音に始めて成功したのですが、これも自宅付近の畑で一羽のモズがグゼリを聞かせてくれたことから始まったことです。この経験で多くのことを知ることができました。

福岡市内で越冬するモズが遠く阿蘇の(もしかして久住かも、それとも本州まで)高原まで遥々と飛んで行って繁殖していること、九州の高原の何ヶ所かでオオジシギが繁殖していること、昼間に行動すると思われていたオオジシギが夜も盛んにデモンストレーションをしていることなどです。

蒲谷先生ほど鮮明な録音ではなかったのが唯一残念ですが、この時録れたオオジシギの録音ファイルは、驚きと苦労が大きかっただけに今も私の大切な宝物となっています。

(第一回終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2014年2月号 通巻432号より転載 2014-01-19)

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