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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

野鳥録音の旅in台湾

シンボルマーク〔第一回〕なぜ台湾へ?

この春、以前から念願だった台湾へ行って参りました。年寄りが半月以上もの日程で、近いとは言え外国への一人旅を敢行することは、心身ともに、とりわけ肉体的には甚だきついものがありましたが、得がたい体験と、知らない野鳥に出会えた感動は大きいものがありました。

前号まで「録音を通して知る野鳥の意外な声や習性」と題して拙文を寄稿させていただいていました。このシリーズではまだまだお伝えしたいことが多く、ご迷惑でもまだ当分は続けて行きたいと思っておりましたが、今回台湾に録音旅行に出かけた貴重で興味深かった経験の記憶が、私の頭の中で少しでも新鮮なうちに、関心ある皆様に読んでいただけたらと思い、前号までのシリーズを中断し、旅行記の方を寄稿することにしたわがままをどうかご了承ください。

具体的に私が体験した旅行について書く前に、台湾と言う国(ご承知のように、国という表現が妥当かどうかは微妙なところですが、このシリーズではあえてそう書くことにします。)についてのあらましと、なぜ私が今回そこに長期間出かけることになったかをお話しておきたいと思います。

教科書的なことを書くのは読んでくださる方に失礼で、またご迷惑とも思いますが、この機会に、台湾についての概要をあらためて知っておいていただくと、後々私が書くことについてのご理解も得られやすいとも思います。

台湾は、私が中学生の頃、英語の授業や外国の映画の中などでは「フォーモサ」と聞いた記憶があります。これはポルトガル語の「美しい」という言葉から来たものらしく、その名の通り古い時代から諸外国の影響を多く受けてきた歴史があるようです。

オランダの統治時代がありました。その後清朝との関係がありました。そしてわが日本の統治時代が長く続き、第二次大戦後は中国共産党軍との内戦に敗れた蒋介石総統率いる国民党が1949年に大挙渡って来て、以後中華民国となって現在に至っています。今では国際政治の観点から中華民国と呼ばれることはほとんどなくなり、国際スポーツの場では「チャイニーズ・タイペイ」で通るようになり、国民の多くが自らを台湾人と言うようになっています。

ご存知のように台湾の国土の形状は木の葉を縦にした形をしています。大きさはほぼ九州と同じ、人口は2340万人、民族の内訳は漢民族が98%、原住民が2%、思ったより現住民(14部族)の人口が少ない印象です。日本統治時代は原住民をまとめて「高砂族」と呼んでいたこともあって、台湾の野鳥の和名には「タカサゴミソサザイ」のように、あたまに「タカサゴ」がつくものがあります。

次に、地勢的な特徴ですが、一言で台湾を言うなら「山の国」と言えると思います。位置的にユーラシアプレートとフィリピン海プレートの境界にあり、そのためにはるか昔に海底が大きく隆起したために、台湾には南北に連なる高い山々があります。海抜3000mを超える山は、山国と呼ばれるわが日本には20座程度ですが、面積は10分の1程度の台湾には200座を超えます。それも3500mを超える山が多く、最高峰の玉山(日本統治時代は新高山)は3952mもあり、富士山を凌ぐ高さであることは意外と知られていないように思います。

こうした高山が連なる山脈は台湾の南北方向に五つあります。もっとも大きいものが中央山脈、ほかに玉山山脈、雪山山脈などがあり、これら山地は南北に長い台湾の縦の中央線に対して東側に偏っています。そのため平地や台地は西半分に多く、東半分は急峻な地形となって太平洋側に落ち込んでいます。このため高い山のない北部(台北市含む)と南部を除いた西側に大きな町、例えば北から台中市、嘉義市、台南市、高雄市があり、東側はほとんど平地がないため、大きな町がなく港町である花蓮と台東市がある程度です。このことが台湾の大きな特徴となっています。

また、台湾を語る上で私たち自然に関わる者が是非知っておくべきことは、台湾中部を横断して北回帰線があります。そのため気候区分帯として、これより北が亜熱帯、南が熱帯モンスーン気候帯となっていることです。当然、野鳥を始めとする生態系は我が日本と異なるところが多く、経済的に飛躍的に発展したわりには自然が今も豊かな状態で保存されています。これには台湾の人々の国民性も少なからず関係がある印象を持ちます。

そんな台湾に今年なぜ行くことになったのか、じつは二年前に台北に2泊3日の団体観光旅行に出かけたことがあります。家族や友人へのお土産を買うのは当然ですが、自分自身への買い物としてぜひ見つけて買って帰りたいものがありました。それは私のことですから当然台湾の野鳥の鳴き声が入ったCDです。でも台北の街なかでは団体行動のために探すチャンスがなく、最後にやっと帰りの飛行機に乗る前のわずかな時間に、空港の免税店街を探し回って、一軒の書店の片隅で、一枚のCDを見つけて買い求めました。

このCDこそが私に台湾の野鳥への大きな興味を掻きたてることになった上に、このCDの録音とナレーションを担当された台湾野鳥録音の第一人者である「孫清松」氏を知る大きなきっかけとなったのです。

このCDは買って帰った直後から、今日まで何度繰り返し聴いたか分からないほど聴きました。中にはスズメやツバメ、ハクセキレイやコガモなど日本でも普通に聴くことが出来る鳥たちも収録されていますが、ほとんどがもちろん始めて耳にする種類の声です。

しかも、いかにも亜熱帯、熱帯の鳥らしい声で鳴くものが多くて、こんな鳥たちの声を自分の耳で間近に声を聞き、録音機のボタンを押すことができればどんなに素晴らしいだろうと思うようになりました。特に比較的中音域の声で鳴く種類が印象深く感じられます。小型のフクロウに代表されるこうした声はいかにもトロピカルな雰囲気に満ちています。「よーし、いつか必ず行ってやるぞ」無鉄砲な私は後先を考えずそう思ってしまうのです。それが今年とうとう実現してしまったのでした。

今回の台湾録音旅行では、細かい経緯は省略しますが、前述のこの有名な録音家・孫清松さんから多大な協力を得ることが出来ました。孫さんの助力なしには何も出来なかったと言っても過言ではありません。

ちなみに、台湾は面積的には九州とほぼ同じと言いましたが、その小さな国土の中に約

550種類の野鳥が観測されていると言います。わが国全体のそれと数ではほぼ同等です。その中には日本と同じものもありますが、大部分が亜熱帯と熱帯系の種類であり、しかも台湾固有種が17種類もあります。

「やるなら今でしょ」が流行語になっていますが、私の場合はまさにこの言葉がピッタリで、今年辺りが体力的に知らない国の知らない土地を半月も歩いて、録音するということは最後の機会になると感じ、ついに実行に移すことになったわけですが、「今でしょ」と言っても、具体的にいつの季節を選んで出かけるかは重要な問題です。

考えられる条件としては、@雨や風が少ない季節 A夏鳥の渡りの時期 B受け入れ側の都合の三つが重要な要件として頭に浮かびます。ただ、雨は年間雨量の統計を見れば分かるのですが、録音の大敵である風のデータは見つからず、この点は運を天に任せることになります。事前に孫清松さんと何度もメールのやり取りをして、結局3月半ば過ぎから4月上旬とすることに決めました。

こうして2014年3月18日の午前、福岡空港国際線より台湾・台北へ向けて老野鳥録音愛好者は、たった一人で中国東方航空のエアバス・A−320の機上の人となりました。以下、次号から具体的な野鳥の声探しの旅の模様を書かせていただきます。

(第一回終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2014年6月号 通巻436号より転載 2014-05-23)

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