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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

野鳥録音の旅in台湾

シンボルマーク[第十回] 旅の最後に・台北市内と郊外での数日(その一)

人生の最終盤の旅で、はじめて体験したドミトリー宿泊施設での一夜は散々な経験でした。深夜まで同室の若者たちが出入りするので、部屋のもっとも入り口に近いところのベッドにいた私は物音で熟睡できない上に、カゼの症状もひどく、一人旅に慣れているとは言え、ほんとうに心身ともに参った一夜を過ごしてしまいました。

幸いに、私の福岡市内の友人の友人である台北市在住のSさんが私のために台北駅からMRT(地下鉄)で三駅のところに、まずまずのホテルを見つけてくれたお陰で、3泊を予定していたユースホステルは一夜だけで、残りをキャンセルして、そのホテルに午前のうちに引っ越して一休み。そのままゆっくりと休養したかったのですが、じっとしていることができない性分の私は、早速午後からある場所に出かけることにしました。

その場所とは、「鶯歌」という陶器の町です。MRTでいったん台北駅に行き、今度は在来線に乗り換えて30分で鶯歌駅に着きます。なぜこの町にやって来たかと言うと、2年前に小さな団体旅行でこの町に来た経験があって、焼き物や骨董にも関心がある私にはとても魅力的な町であったこと、バスの駐車場の周りにシロガシラやオウチュウなどの野鳥の姿が多く見られたことを思い出し、前回の訪問では団体旅行のためにゆっくりと散策できなかったこの町を、もう一度誰にも遠慮することなく、のんびりと歩いてみたかったからなのです。

鶯歌駅から町の賑やかな通りまでは歩いて10分ほどで行けることは知っていたのですが、相変わらず体調が良くないので、駅前にいたタクシーに乗り込んで「鶯歌の町なかまで」と運転手に言うと」「はあ?」と言った感じの返事が返ってきました。

それもそうでしょう、同じ電車から降りた多くの皆さんは、駅からは町なかに向かってぞろぞろと歩いています。本来タクシーに乗る距離ではないので、ドライバーも少し呆れ加減の反応だったのだと思います。

町のメイン通りの入り口に当たるところに、観光バスが止まる広い駐車場があって、かつて来た時にはそこでバスを降りたのですが、すぐに周りの木々から、以前中国に何度も旅した時に上海周辺の街々でよく聞いたあのシロガシラの懐かしい声が聞こえて来て感動したことを思い出し、同じ場所でタクシーを降りました。

前回と同じようにシロガシラの声が聞こえたのですが、たまたまこの日が土曜日だったことと、鶯歌の町が内外の観光客の人気スポットになっていると見えて、辺りはたいへんな人出です。また2年前には見かけることがなかった商店が増えていて、その店先から流れる音楽が鳴っていたりして、シロガシラの声も掻き消されるような喧騒の町になっていました。

そんな賑やかな町の様子に鳥の声に耳を傾ける気持ちは早々と私の頭の中からは消え失せてしまい、ただ大好きな陶器や、ところどころにある骨董店をゆっくりと覗くことに目的を切り替え、私は人ごみに揉まれるように通りを歩きました。

ところで、「鶯歌」とはなんとも趣きのある町の名前です。鳥の歌を聴くことに退職後の長い年数のほとんどを費やして来た私にふさわしい地名です。さぞかし周囲の山々にはウグイスが多いのだろうと想像したのですが、事実はそうではなく、町の北側にある小高い山の中腹に遠くからも見ることのできる巨石があり、この石の名前を「鶯歌石」と呼ぶところから鶯歌が町の名となったということです。

さらに面白いことに、前述の駐車場の入り口に大きなオウムを形どり、鶯歌と大書されたシンボルタワーのようなものがあります。はじめてこの塔のようなものと、その上部に飾られた黄色いオウムを見た時は、「町の名がウグイスなのになぜオウムなのだろう?」と子供のような率直な疑問を持ったのですが、じつは山の中腹の「鶯歌石」いう巨石がオウムに似た形をしているそうで、もしかすると、オウムの漢字が鸚鵡(日本でも同じ)なので、鸚の字と鶯の字の発音が中国語では同じところから、字面が綺麗な鶯の字に転化して町の名前に使われているのかもしれないと私は勝手な想像をしています。

どちらにせよ、たいへんな暑さの中、カゼが治りきらない体調ながら過ごした鶯歌の町での半日はとても楽しいものがありました。

茶器を専門に扱う陶器の店で、中国茶器のセットを値切って購入したり、帰り道に駅までの通りを歩いては骨董店に入って冷やかしたりと、今回の台湾旅行では一日として野鳥の声を追わない日々はなかったのに、この日ばかりは観光に徹した時間を過ごせ、体調とは別に十分に面白い時間を持つことができて大満足でした。

さて、話ががらりと変わるのですが、前回の第九回の中で、野鳥の鳴き声を文字に書いて表現することの難しさ、ましてそれが国を超えるといっそうややこしいことになることを書きました。このことを書いてしまった後で関連したあるエピソード思い出したので、ここでお話しておこうと思います。

今回の旅で最初の5日間を過ごした台湾最南部で、私をサポートしてくれた劉さんがある時、ミミジロチメドリはどう鳴くかについて「Nice to meet you(ナイス・トゥ・ミーチュー=会えて嬉しい)と鳴く」と話してくれたことがありました。いわゆる鳥の声の聞きなし・英語版です。この時、つまり劉さんと行動を共にした数日はミミジロチメドリなどには出会うことがなかったので、ほんとうにこのように鳴くのか知る由もなかったのですが、その後台中市郊外、大雪山林道の海抜1600〜1700m地点まで孫さんに案内していただいた数日は、ミミジロチメドリの美しい声に何度も接して、なるほど「ナイス・トゥ・ミーチュー」と鳴いていることに気がつきました。それぞれの音はもちろん違うのですが、鳴き声の抑揚やアクセントはまさに「ナイス・トゥ・ミーチュー」そのものでした。

ミミジロチメドリが盛んに鳴いてくれた同じ場所ではカンムリチメドリも鳴いていて、声が重なる場面も多くあり、とても耳に楽しい時間を経験することができました。

では、カンムリチメドリはどう鳴いていたか、寡黙な孫さんは教えてくれなかったのですが、私には中国語で「喝啤酒(ホーピージュウ)=ビール飲もう」と鳴いているように聞こえました。帰宅後に食事のテーブルでこの田中流聞きなしを孫夫妻に話したところ大うけでした。私が食事のたびに、酒を全く飲まない孫さん夫妻をさしおいて、コンビニに寄ってもらっては買ってきたビールを飲むため、二人からは呆れられていたので、このカンムリチメドリの聞きなしの話はとても私らしいと思ってくれたのでしょう。

一つ一つの音は違っても、ひと節の抑揚とアクセントは、劉さんのナイス・トゥ・ミーチュー同様に、喝啤酒(ホーピージュウ)は、カンムリチメドリの鳴き声の特徴を端的に表している気がして、私は一人悦に入っています。        

(第十回終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2015年3月号 通巻445号より転載)

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