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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

野鳥録音の旅in台湾

シンボルマーク[第十一回=最終回] 旅の最後に・台北市内と郊外での数日(その二)

2014年3月18日の朝に福岡国際空港を出発して、同4月2日に帰福する16日間の台湾での野鳥録音の旅の終盤に、台北での数日を過ごすことにしたのは、もちろん野鳥の声を録音することが第一の目的でした。はじめの予定では台北市の北の郊外に点在する自然豊かな公園に出かけて見ることにしていたのですが、体調が相変わらず良くないため、旅の思い出作りのために陶器の町・鴬歌と台湾最北点に出かけたほかは、台北市内のいくつかの緑豊かな公園で鳥の声や姿を探しました。

その中で、台湾植物公園と大安森林公園は広さもあり、植栽されている樹木や花も多く、また滞在したホテルからも近いので二回ずつ足を運びました。そして幸運なことにとても面白くて、かつ素晴らしい体験をすることができたのでご報告することにします。

まずは台北植物公園でのことです。

はじめてここへ行こうと早起きしたその日の朝は、土砂降りの雨でした。残念な思いの中、少しでも体を休めようとして部屋に戻り二度寝をして、午前9時に出かけなおして公園に向けて再出発。月曜日だったせいか、人の姿はまばらな感じで想像以上に静かな雰囲気でした。

気候的には亜熱帯なので、園内には緑が多く、シロハラやタイワンオナガ、ゴシキドリなどの声がしきりに聞こえて来ます。しかし、静かだと思ったのは最初だけの印象で、公園の外周を取り巻く交通量の多い道路からは、ひっきりなしに走る車の騒音がゴゥーッとグランドノイズとして伝わってきます。台北という大都市の中の公園なので、これは避けられないことです。他のどの公園に出かけても事情と状況は同じでした。

さて、植物公園の中を歩いていると、ある一角で大勢の野鳥カメラマンが集まって、同じ方向に望遠レンズの砲列を敷いているところに出くわしました。

一人の男性に「何ごとですか?」と尋ねてみると、「タイワンガビチョウが出ているんだ」と背の高い樹木がかたまって繁っている方向を指差し教えてくれました。なるほど、その方向から、はっきりと高くて変化の多い、すぐそれと分かる鳴き声が聞こえてきます。時折り鳥の姿が良い状態で見えるのか、いっせいにシャッター音が連続します。先ほどの人に「台湾画眉(タイワンホワメイ=タイワンガビチョウ)は珍しいですか?」と聞いてみると、「今では珍しくなったので、こんなに写真を撮る人が集まるんだ」とのこと。その後もタイワンガビチョウが移動するたびに10人はくだらないカメラマンたちもぞろぞろと少しずつ場所を変えていきます。

しかし、ここで面白いことが起こりました。写真を撮っていた一人の女性が鳥のほうを指さして「アノコ! アノコ!」と叫びだしたのです。それは明らかに中国語系の言葉ではなく、日本語のニュアンスだったようなのですが、私はその言葉で撮影者たちに動揺が広がる様子に気をとられて「アノコ」の意味には深く注意しませんでした。

このことに疑問を持ったのは、帰国後この時に録音していた鳥の声と人々の声を改めて聞きなおしたときのことです。

早速、台中市ですっかりお世話になった孫清松氏にメールと実際にその時の録音ファイルを送って「アノコ」の意味を尋ねました。孫さんからの返信によると、「アノコ」とは、日本語の「間の子(合いの子)」が訛って台湾語になったものだということでした。つまり、タイワンガビチョウと、日本でも野生化してしまったように、台湾でも最近は中国本土のガビチョウが野生の環境に増えていて、稀に両種間の混血が生まれているそうなのです。

じつは、私もその騒ぎの中で、録音もしながら、バカチョンデジカメのズームをいっぱいに伸ばして、問題の[アノコ]を撮影していました。もちろん良い写真ではないのですが、改めて写真を見ても、どこがどう違うので混血個体であると判別できたのか、よくは分かりません。私にはただのタイワンガビチョウに見えるのですが・・・。

一方、大安森林公園でも素晴らしくて、興味深い得がたい体験を幾つかすることができました。

植物公園で「アノコ」騒ぎを見た翌日、ホテルからタクシーでワンメーターのところにある、名前の通り緑がいっぱいのこの公園に出かけました。私が公園に入った場所からはもっとも奥まったところに、「生態池」と名づけられた小さな池がありました。その池には木々が良く茂った中の島があり、ここがサギ類の集団営巣の場所になっていました。福岡県内でも見られるように、ここでもコサギやアオサギが営巣していたのですが、群を抜いて数が多かったのは日本でもおなじみのゴイサギです。

ゴイサギは私の自宅附近の川にもかって5年ほど前までは見かける鳥でしたが、今では目にすることはほとんどなくなって淋しい思いをしていた鳥です。そのゴイサギがこの池の中のコロニーにはざっと見たところ、100羽以上が集まって子育てをしているのを、わずか数メートルの距離で観察できるなんて、私はこのことだけでも大満足でした。

「ギャーギャー」と鳴き叫び、隣の巣同志で喧嘩をする親の声と、「カチカチカチ」と嘴を打ち鳴らすようなひな鳥たちの賑やかな声と音を録音したのは言うまでもありません。また、至近距離に池を囲む遊歩道があって、そこを人々が通りかかっても親鳥が嫌がる様子もないので、写真もたくさん撮ることができました。

サギのコロニーの観察に疲れて、池の近くにあるベンチで一息入れてお茶を飲み休憩していたその時、まさにある奇跡が起こりました。

ヤマムスメ

台湾の国鳥ヤマムスメ

台湾藍鵲(アオカササギ) 全長64〜69cm 大きく美しい鳥 性格は荒々しく、鳴き声は騒がしい

私の目の前には、鮮やかな緑の若葉が良く茂った一本のサクラに似た樹木がありました。その木の枝に突然3羽の大きな鳥が飛んで来たのです。私は直感的にカラスだと思ったのですが、彼らを見てビクリしました。なんと、なんと、それらの鳥はあの「ヤマムスメ」だったのです。頭から優美な尾の先まで60センチ以上もある見事な鳥です。

今回の旅行で始めの数日を過ごした最南部で、お世話になった劉さんが私にひと目でも見せたいと頑張っても叶わなかった鳥、大雪山山麓でも孫さんがここなら間違いなく見られると連れて行ってくれた山の公園でも姿が全く見当たらなかったあの幻の鳥、姿の素晴らしさから台湾の国鳥とされているあの「ヤマムスメ(台湾藍鵲=タイワンランチュエ)」が、それも成鳥が3羽も!私の目の前、ほんの3メートルのところにいるのです。

漆黒の頭部、柔らかい紫色の体、鮮やかなアクセントとなっている真っ赤な口ばしと足、金色に縁取られた目、優雅に伸びた長い尾。その美しさはさすがに台湾の国鳥です。

さらにラッキーだったのは、これら3羽のヤマムスメはまるで私のことを気にする風もなく、目の前の木の枝でくつろいでいる様子です。残念ながら声を聞くことはなかったのですが、美しい姿を何枚も写真に撮らせてくれました。

残念ながら、カメラもバカチョンである上に慌てていたために写真の大半はピンボケで、まあまあ見るに耐える写真はたった2、3枚だったのですが、とにかくあのヤマムスメに至近距離で出会えたのです。

そして、何十秒、いや何分だったか、夢のような時間は過ぎて、ヤマムスメたちは飛んで行ってしまいました。私はそのあとしばらくは放心状態となってベンチに腰を降ろし、呆然としていました。

まさに天が、自然と鳥の神様が、体力的にしんどかった旅の終わりのご褒美として私に授けてくれた奇跡だと、そんなふうに思えて満足感に浸ることができたのでした。

気を取り直して、たった今経験した出来事を振り返るようにデジカメの画像を再生して眺めていたところ、突然背中から声がして、「その写真はあんたが撮ったものかい?どこで、いつ?」と中年男性が尋ねてきました。「ええ、そうです、たった今」と私が答えると、「本当?私はこの公園をもう20年もほとんど毎日散歩しているけど、ヤマムスメにこんな近くで会ったことなんかないよ、あなたは幸せな人だね」と言い、さらには少し離れたところを歩いている人たちに向かって「おーい、来て見ろ。この日本の人がタイワンランチュエを写真に撮ったそうだよ」と呼びかけます。すぐに私の周りに数人の人が寄って来て、次々と私のカメラを覗き込んでは私の肩を叩いてくれました。

こうして静かな朝の公園で起こったこの事件(?)は、ちょっとした騒動を巻き起こしたのです。ずっと以前では決して珍しくなかったはずの鳥なのに、まだまだ自然が豊かな台湾と言えども、近代化、都市化によってずいぶん事情が変わってしまったと言うことなのでしょう。

ヤマムスメに出会えた幸運に気をよくした私は、柳の下のドジョウを狙って、翌朝早くに再び大安森林公園に出かけました。本音のところは、まだこれという鳴き声の録音が録れていなかったからです。何とかしなければ、少し焦る気持ちもあって出かけたわけでした。まだ、夜が明けきらない薄暗い中、例の生態池附近にやってきた時、一本の木の梢から素晴らしい鳴き声が聞こえて来ました。

今度の旅行では一度も聞いたことがない、まったく知らない鳴き声です。しかもその声はとても美しく、メロディーも素晴らしいさえずりでした。すぐにいつも歩く時に手にしているハンド録音用のレコーダーの録音スイッチを押します。早朝のせいか僅かに人の声が遠くするほか、公園外の車の騒音も大きくないので、長く鳴いてくれた美声を十分に満足できる状態で録音することができました。

この日の夕刻に台北から福岡に向けて空路帰国することにしていたので、最後の日にやっと台北市内で素晴らしい録音ができて、いわゆる有終の美を飾ることができたのでした。 

さてこの鳥ですが、後日種名の特定にとても苦労しました。例によって、孫さんに音のファイルをメールで送り意見を仰いだのですが、台湾には普段はいない鳥だということで、ご苦労をかけた結果、「シキチョウ(四季鳥)」であることが分かりました。

その珍しい個体はどうやら「籠脱け」だったようです。それにしても魅力的な声でした。いずれ毎年制作するCDに入れて、多くの皆さんに聞いていただける機会があると思います。

今回の録音の旅では、ほんとうに台湾の人々にお世話になりました。中華民国野鳥学会の劉川さん、同じく孫清松さん、そのほか各地で親切に私をサポートしてくださった皆さんには何度お礼を言っても足りないほどです。でも、中国系の人たちは友情をとても大切にする人々です。

帰国後劉さんにお礼の手紙を書いたところ、「朋あり 遠方より来る また楽しからずや」

と返事が来ました。同様に孫さんからは「四海のうち皆友人」の言葉をいただきました。

なお、台北に滞在中に、頑張ってMRTとバスを乗り継ぎ、あとはかなりの距離を歩いて台湾最北点の地に立つことができました。一つの旅の中で、台湾の南北の両端に自分の足で立てたことにも一人の旅人としてはとても満足しています。

余談ですが、台湾最北点の「富貴角公園」では、ハイキングに来ていた台北市の町内会の人々と昼食を共にする機会があり、英語、中国語、日本語が飛び交って終始笑い声が絶えない楽しいひとときを過ごすことができました。また、台北市内のいくつかの公園でも、現地のバードウォッチャーや散歩に来ていた一般の人たちと何度も話すことができ、ささやかながら日台友好の交流ができたことも楽しい思い出となりました。なにより嬉しかったことは、台湾の人々の親切に数多くの機会で触れることができたことです。

これで長らく続けさせていただいた「野鳥録音の旅in台湾」の連載を終わることになりますが、今までお読みくださった皆様には心からのお礼を申し上げます。

私の拙なく、長ったらしい、そして身勝手な文章でご迷惑をおかけしたことと思いますが、それでもこのレポートが少しでも鳥好き、旅好きの皆さんのご参考になれば幸いです。また、こんなに長い期間にわたって、本誌の紙面を数ページも使用させていただいたことについては、申し訳ない気持ちと、わがままを暖かく許容してご協力くださった編集部の三宅様はじめ関係の皆様に厚くお礼を申し上げます。

それでは皆様、これからの季節は自然が美しくなり、丁度鳥見にもっとも適した良い頃になります。どうぞお元気で鳥たちとの出会いをお楽しみください。

有難うございました。謝々(シィエシィエ)、再見(ツァイチェン)。

(最終回・終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2015年4月号 通巻446号より転載)

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