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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2025-02-14

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

オオコノハズクの声を求めて

シンボルマーク北対馬に三度目の録音挑戦、そしてついに成功!

先月まで「野鳥録音の旅in台湾」と題した拙文を11回にわたって投稿させていただきました。お読みくださった皆様には心からのお礼を申し上げます。この旅行記が終わったことで、私自身もほっとしました。しばらく投稿は遠慮させていただくつもりだったのですが、じつは過去に二度オオコノハズクの声を求めて対馬最北部の自然に挑戦し、二度とも見事に失敗したお話を書かせていただいたのですが、今年の春三度目の正直とばかり、懲りない私はまたまた北対馬に遠征し、今度はついに録音に成功しました。失敗談を二度にわたって書いた後ですから、成功談を書かなくては完結しないと思い、今月もまた拙文を投稿させていただきました。「お前の文章はもう飽きた」と言われる方もありそうですが、苦節足かけ四年にしての成功談ですのでどうぞお読みくださると幸いです。

まず、どうして私がわざわざ福岡市内から対馬の最北に行ってオオコノハズクの鳴き声を探すことになったのかということについて、簡単な経緯を記しておきます。

皆さん先刻ご存知の、バードウォッチャー必携の野鳥図鑑「フィールドガイド日本の野鳥」によりますと、オオコノハズクは留鳥で生息範囲は極めて広く、日本全土はもちろん朝鮮半島、中国東北部から中国南部、インドシナ半島、フィリピン、そして台湾など、温帯から熱帯まで図版に収まらないほど広範囲となっています。当然、私が住む福岡県内にもいるはずなのですが、人目につきにくい林の中に住み、体色もまさに天然の迷彩色をしている上に、行動と鳴き声を出すのは夜間という条件のために極めて認知されにくい鳥です。そのためか「筑豊の野鳥観察ガイドブック」にも記載がない鳥です。

その上私のような録音専門の人間にとって、もっとも困ることは、鳴き声を聞いたと言う情報が全くないことで、これが大きなネックとなり、これまで録音しようという欲求そのものがそもそも起こらない鳥だったのです。

しかし、私もいろいろと録音の経験を長く積んできて、フクロウ類もフクロウにはじまり、アオバズク、コノハズクと鳴き声をわがコレクションに録り重ねてくると、次にどうしても挑戦したいのはオオコノハズクということになってしまいました。

幸い、福岡県内の目撃情報が他誌に掲載され、早速出かけて見ました。そこは福岡県の北部の海に近い小高い山の中、古木が多く見受けられる場所でした。4月から5月にかけて何度か夜に林の中に入ってみましたが、フクロウの声がたまにするだけで、まったく手がかりは掴めません。同様に、福岡県の西北部の同じような条件の場所にも何度も足を運んでみたものの、結果は同じでした。そんな折に、対馬北部の鳥の情報の中にオオコノハズクのことを発見したのでした。2012年の春のことでした。 

しかし、それは姿を見たと言う情報で、鳴き声に関するものではありません。オオコノハズクに関しては、そもそも鳴き声に関する情報が全くない鳥です。それは鳴き声が地味であること、さらには夜にしか鳴かないこと、かなり野鳥に関心が強い人でも夜間に真っ暗な山の中に出向いてオオコノハズクの声を探そうなどと考えて行動する人は皆無と言ってもよいでしょうから、声の情報がないのも当然かもしれません。

私は仕方なく自分自身でオオコノハズクが何月に鳴くのか推測してみました。常識的には他の野鳥たちが繁殖を始める4月末から5月中旬が可能性から言うともっとも確率が高そうです。そんなわけで、第1回目の対馬行きは2012年5月中旬に決行しました。夜、10時半に福岡市を出るフェリーに乗って6時間弱、対馬最北の港である比田勝港に船が入るのは午前4時20分です。慣れない夜の船旅では眠ることがほとんどできません。ついつい同席の人たちとのおしゃべりで夜更かしをしてしまいます。7時まで客室に留まってもよいということなので、一般の人が下船後も船内で横になり少しでも体を休めたあと下船して、港の駐車場に停めてあるレンタカーで対馬北西部の小さな民宿に入り、仮眠するということを過去二回はしました。

二度目は翌2013年4月下旬に挑戦しました。一度目が5月半ばを選び、見事に空振りだった経験から、それより約3週間早めてみたのです。しかし、この時も外れました。

そして今回、一年の間を空けて2015年3月上旬、まだ寒い対馬北部の同じ場所に三度目の挑戦をしました。過去二回は船内に7時まで留まって体を休めることにしたのですが、まずこの点を改めました。なにしろ相手は暗い時に鳴く鳥です。船が折角真っ暗な未明と言ってもよい時間に着くのですからこれを利用しない手はありません。レンタカーの会社と相談して港の駐車場に前夜から車を置いてもらい、船が入港して下船が始まると私も急いで降り、レンタカーに乗り込み、急いで今回事前に狙いを定めていた対馬北西部の河口部にあるお宮の森を目指しました。途中、野生の鹿に道を塞がれて立ち往生するハプニングがあったものの、現場のお宮の森には5時丁度に着くことができました。

辺りはまだ真っ暗です。車からそっと降りると脇道にある正門から鳥居をくぐり、小さな社殿まで進み、そこから林の奥から聞こえて来る音に耳を澄ませます。

すると、林の奥から夢にまで見たオオコノハズクの鳴き声が聞こえたではありませんか、「鳴いている!」私は手持ち録音用のマイク内蔵レコーダーを声のする方向に向けましたが、意外にもオオコノハズクの声は小さく、しかも移動しながら鳴いています。

ヘッドライトを点けると相手を驚かせるし、林内は足場が悪くてライトなしでは動けないので録音は諦めて、彼がどういう行動をしながら鳴くか、観察してみることにしました。鳴いている鳥は1羽だけのようで、なぜか場所を次々と変えながら鳴いています。

こうして鳴き場所の確認をし終えるのに1時間ほどもかかったでしょうか。その間の寒かったこと、夢中でオオコノハズクの動きと声を追っていたのですが、何しろ対馬の北の果てですから、体の芯まで冷えきってしまい、歯の根が合わない体験をしました。

そうこうするうちに、夜も明けてきてオオコノハズクの鳴き声もいつの間にか止み、私は冷えた体で車に戻り、凍えたせいかぎくしゃくと動く手足で車を走らせ、予約していた宿について休ませて貰いました。

そして、午後遅く、5台のレコーダーにタイマーをセットして、陽も高くまだ明るいうちに再び例のお宮の森に行き、今朝暗い時間に鳴いたポイントにレコーダーを設置しました。翌朝にまた現場に行って、前夜置いたレコーダーを回収して聞いてみたところ、ほとんどのレコーダーに計算どおりにオオコノハズクの鳴き声が記録されていたのでした。大成功です。

さて、この時録音できたオオコノハズクの鳴き声は「プゥーウー」という高い声のやや間隔を置く連続した声でした。聞きようによっては「ミャー」とネコの声にも似た声です。

昨年の春に台湾に行った折、台中市郊外の孫さん宅の裏山で毎晩のように聞き、録音したオオコノハズクの声とはずいぶん違った声です。台湾では「ホゥ・・・ホゥ・・・」と高い声で一声ずつ間隔を置いて鳴いていました。「ホゥ」を裏声で発音するとピッタリな声になります。

ちなみに、オオコノハズクの鳴き声については、今回私が対馬で録音したネコに似た声(この鳴き声のためか、熊本県五木村では「ねこどり」と言う・・・大田眞也著「里山の野鳥百科」より)が一般に知られているようですが、このほかポッポッポッとかポカスカ、ポカスカとも鳴く(前述の「里山の野鳥百科」)とか、いわゆる木魚鳴きと言って低い声での寺の木魚を叩くような間隔のあいた連続した声(野鳥研究家・松田道生さんより)などいろいろな声が聞かれているようです。

このように、オオコノハズクと言っても台湾のものははっきり別の声で鳴いているし、日本でもさまざまな声が聞かれていると言うことは、それだけ亜種が多いということになるのでしょう。(16の亜種があるとのこと・・・前出「里山の野鳥百科」)

日本国内のオオコノハズクはその学名が“Otus lempiji”であるのに対して、台湾のものは“Otus bakkamoena glabripes”と完全に別種である結果、声もまるで違います。

(日本のものもbakkamoena glabripesと表記されている著作もあるが、私的にはこれは疑問、なぜなら鳴き声があまりにも違う)

とすれば、私が今回「やったー!」とばかり喜んだ録音は、オオコノハズクの鳴き声のほんの一種類の声ということになり、また他の声も録音してみたい欲求がふつふつと沸いてきています。

なにはともあれ、遠く対馬の北部まで3回もフェリーで揺られて渡り、苦労したオオコノハズクの録音は一応成功しました。今は達成感と満足感で私の心はとりあえず満たされています。

ただし、喜んでばかりはいられません。今回対馬では録音できた佐護川河口部の小さなお宮のほかに、余った時間を利用して以前に行ったことがあるいくつかの鎮守の森などを巡ってみました。その結果感じたことは、そうした貴重な森が少しずつ荒れていることを実感しました。また、周辺のお年寄りなどに話を聞いても、例えば昔は普通に聞かれたフクロウの声も「最近は聞かんなあー」とのこと。

対馬最北部の集落ではご他聞にもれず、若い人が皆都会に出て行ってしまった結果、残ったのは老人ばかりとなってしまい、里山の自然が荒れ放題になっていることを私自身の目で見て、話を聞き、暗澹とした気持ちになってしまいました。

日本全体に広げてみれば、同様の事情での里山荒廃の問題は、温暖化による異常気象という厄介な問題も加わって、ますます深刻で、解決困難な課題になっていると思います。多くの人がこうした問題に関心を持ってくれるよう、私自身も自分が出来ることの中で微力を尽くしたいと改めて思いを深くして、再びフェリーに乗って玄界灘を渡り、真っ暗な夜の海に揺られ、煌々と灯りが輝く福岡に帰って来ました。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2015年5月号 通巻447号より転載)

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