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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

タマシギという面白い鳥

4月号(編注:「野鳥だより・筑豊」)まで長きにわたり、「野鳥録音の旅in台湾」を連載させていただきました。
また、5月号では過去に投稿した記事との関連で「オオコノハズクの録音成功」の記事も投稿いたしました。貴重な誌面を私が長く使わせていただいてありがたかったのと、申し訳ない気持ちの両方がありました。もう一つ気になっていたことは、どれほど多くの方が読んでくださったのかです。さらにお読みくださってのご感想はどうだったのかがたいへん気がかりでした。
そんなわけで、しばらく投稿は遠慮させていただこうと思っていたところ、5月末に開催された英彦山でのヨルヒコの集いに参加した機会に、結構多くの方が「面白くて毎回読んだよ」と言って下さったのでほっとしました。単純人間が旗印の私はすっかり気をよくして、また駄文を掲載していただくことになりました。お暇がありましたら、どうかご笑読ください。

タマシギ

タマシギ(イラスト筆者)

今回のテーマは「タマシギ」の鳴き声について、私の思いあれこれです。
野鳥関係の先輩諸氏は先刻ご承知の鳥ではありますが、近年全国的に数が激減している種です。減った原因については、恐らくという私見を申し上げますと、彼らの生息と繁殖を取り巻く環境が大きく変化したという一語に尽きるのですが、具体的に見れば、重要な餌場であり繁殖場所である稲作水田の農法が変わったこと、つまり手作業による草取りなどの仕事が機械化されたために繁殖中の巣も根こそぎ壊されてしまう、また除草剤などの農薬の影響で餌となる生き物がいなくなってしまった、水田のほかには川や農業用水路、湿地なども水質汚染や三面コンクリート化などほかの種にも言えることですが、現在タマシギが生きていくうえで日本の自然環境が大きく変化したことが影響大であると言えるでしょう。

タマシギの鳴き声には独特の面白さがあります。私もずいぶん以前に蒲谷鶴彦先生の録音を聞いてとても興味を持ち、本格的に録音を始めた頃からなんとかしてタマシギの声を録音したいと思っていたのですが、長い間どうしてもその機会に恵まれませんでした。
ところが、シギなどの録音でかよっていた福岡県糸島市北西部の干潟の堤防内側に広がる広大な水田に、顔見知りになった付近の住民の方から夏の夜にタマシギが鳴いているという情報をいただきました。
早速すっ飛んでいったのは言うまでもありません。午後8時頃の真っ暗な中、稲が50センチほどに成長した広い水田の真ん中辺りから、例の「ウゥー、ウゥー、ウゥー」の前触れの後、「コォーン、コォーン、コォーン・・・・・」という少し錆びた単調な、でもなんとも面白くて味がある、もっと言えば、風流な声での鳴き声が聞こえてきました。小躍りしたとはまさにこの時の私だったと言えます。もちろん毎回出会いたかった野鳥と巡り合えれば、特別嬉しくなるのは私だけではないはずです。でも実際に跳ね回って騒ぐことは禁物ですから、皆さんもきっと心の中で小躍りされるのだと思います。
しかし、この時の私は本当に飛び跳ねるような動作をしたと思います。場所はとてつもなく広い水田の端っこの畦道、辺りは真っ暗です、誰にも(この話の主人公であるタマシギちゃんも)私の姿は見えていないはずです、「やったぁー」心の中で叫んで両手を突き上げ、二、三度は飛び跳ねたような記憶があります。それほどタマシギの声を聞くことはそれまで難しかったのです。
この日は2010年7月30日でした。

”雌のさえずりに相当する鳴き声は、北陸地方では3月下旬から4月中旬に聞こえ始める。兵庫県では3月下旬に鳴き始め、遅い年で5月。7月まで鳴き続け、遅いものでは10月まで鳴いていた。(中略)夕方から宵にかけて最もよく鳴き、最盛期である5月には夜も昼も良く鳴く。” (以上「日本野鳥大鑑・鳴き声420増補版」より引用)
と言うことは、私が地元住民の方からの情報で駆けつけた時の声は、タマシギが最もよく鳴く時期の声ではなかったのです。でも、その夜のタマシギはほんとうによく鳴いてくれました。水田が広いせいか、100メートルぐらいの間隔で他にも鳴いている個体があり、1羽のタマシギの声をメインに録音すると、その背景にもう1〜2羽の声が遠く重なって入ったりしました。さらに時折りヌマガエルの大きな声も聞こえ、ずっと遠くに電車の走る音がして、いかにも夏の夜の水田にふさわしい、日本の原風景のような音の世界がそこにありました。

さて、ご存知の方も多いと思いますが、多くの野鳥とは違って、タマシギは一妻多夫で繁殖します。ということは、鳴いている(さえずっている)のはメスです。
繁殖期のメスは鳴いてオスを呼んで交尾し、産卵後の卵と育雛はオスに任せて、自分はまた他のオスを求めて場所を変えて鳴きます。この点は交尾後に新しい別のメスを求めて賑やかにさえずり回るミソサザイのオスとよく似た行動です。
これをメスがするわけですから、このことだけをとってもタマシギはとても面白いと思います。
初回にとりあえず珍しい録音に成功した私は、当時はまだタマシギの習性に詳しくなかったので、夏の間ならまだまだ声が聞こえるだろうと簡単に考えて、その半月後の8月14日の夜にも同じ場所に出かけてみたら、案の定タマシギは半月前とほぼ同じ場所で、同じ声で鳴いていてまた良い録音が録れました。

前述の「日本野鳥大鑑」の記述には、「最盛期である5月には夜も昼も良く鳴く」とありますが、私はこの水田の端のクリークと、すぐ外側にある干潟に5月の連休明けの頃にも夕方から夜にかけて毎年のように出かけています。しかし、あの時以来何年もタマシギの声は聞いていません。特徴のある比較的に大きい声ですから、もし鳴いていれば、鳥に耳で接することが多い私が聞き逃すことはありません。じつはこの水田は、田植えの時期は遅く、5月の始めまで一面の麦畑です、つまりヒバリの天国なのです。乾いた地面の麦畑にはむろんタマシギの餌は少ないはずです。
そんなわけで、早い時期である5月ごろのこの場所では、タマシギは鳴いていないものだと勝手に思い込んでいたのでした。

それなのに、今年の4月25日の夕方に田んぼの端にあるクリークのほとりを歩いていた時、偶然にタマシギの懐かしい声が聞こえて来たのでびっくりしました。タマシギは留鳥ですから、ここの干潟の付近に多く広がっている農地のあちこちとその近くに無数にある水路やクリークで暮らしているのでしょう。私が4月の終わり近くに聞いた声の主は、多分そうしたところで暮らしていた1羽のメスで、田植えを待ちきれないでやってきて、繁殖ホルモンが早くも働き、本能の赴くままに思わずオスを呼ぶ声を出していたと言うわけだと思います。もちろんこの時の声は録音しました。
ウグイスが鳴き始める頃とよく似ていて最盛期に比べると「コォーン、コォーン・・・」の回数も、声の大きさも物足りないものでしたが、それでも私にとってはとても興味深い録音になりました。この地での始めての録音は7月の末で、その時は一緒にヌマガエルが鳴いていました。

でも、今回4月末の録音では、タマシギはクリークの中の枯れた葦の繁みの中で鳴いていたのですが、折からすぐ脇の麦畑ではヒバリの天国状態で、背景音、いやむしろメインの鳴き声としてはタマシギではなく、あの賑やかで華麗なヒバリのさえずりが入ってしまいました。
さらに面白いことには、マイクのすぐ前の葦の繁みから「キンヒバリ」の「リッ、リッ、リリリ、リリリリリ・・・・・」という素晴らしい鳴き声が入りました。キンヒバリは小さなコオロギの仲間でとても美しい鳴き声の持ち主です。あの小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が最も愛した鳴く虫であったことはご存知の方もあるかも知れません。
ヒバリとキンヒバリとタマシギのコラボレーション、タマシギの位置が遠く、また鳴きはじめと言うことで声も小さくて、むしろタマシギの声が背景音になった感もある録音でしたが、この録音も私にとってはいろいろと学ぶことの多い貴重なものでした。

ちなみに、最盛期の「コォーン、コォーン」という連続した鳴き声の回数は約30回であるのに対して、今年4月下旬の録音では平均で10回でした。その代わりに前触れの「ウゥー、ウゥー」は最盛期の場合は2〜4声なのに対して、今回の録音時では平均で8回も出していました。
タマシギはわが国をはじめ朝鮮半島からユーラシア大陸、アフリカ、オーストラリアなど広い生息域を持つ鳥です。しかし、わが国では始めに書いたようにとても数が減りました。同様の事情はほかの地域にも共通するものだと思います。独特の鳴き声を持ち、夏の夜にピッタリの雰囲気を感じさせてくれるこの鳥の数が減っていることは淋しくて残念なことです。

皆さんがわざわざ夜の鳥に出会うため出かける機会はきっと多くないと思いますが、珍しい習性と鳴き声の、この愛すべき鳥「タマシギ」を探して、宵から夜にかけての時間帯に、広い水田やその周りの湿地などに一度出かけて見られたらいかがでしょう。
今ならまだ間に合うかも知れません。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2015年7月号 通巻449号より転載)

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