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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

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録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

歌が大好き クロウタドリ

クロウタドリ

クロウタドリ(イラスト筆者)

私たちが知っている野鳥のなかで、どの鳥が一番歌うことが上手かと言えば、多くの人がヒバリを挙げると思います。私もまったく同感です。他にはオオルリやクロツグミの名前が出てくるかも知れません。しかし、私は群を抜いて、ヒバリに次ぐ歌上手はクロウタドリだと思います。そんなわけで、今回は「クロウタドリ」を取り上げることにしました。

名は体をあらわすと言いますが、この鳥の名も実に単純な名前です。「黒くて歌が上手な鳥=クロウタドリ」、まさにそのままを和名にしてしまった安易な名前の付け方の見本のような鳥です。逆に言えば、それだけよく歌う鳥だということなのです。
図鑑的に言えば、「大型ツグミ科、体長28センチ、主に迷鳥として南西諸島や日本海側の地域に渡来」(フィールドガイド日本の野鳥より)
他の本を見てみると、「L28cm 各地にまれな旅鳥または冬鳥として渡来、主に春の渡りの時期に観察される。八重山諸島の西表島や与那国島では観察例が多い。ヨーロッパではブラックバードと呼ばれ親しまれている。」(名前がわかる野鳥大図鑑より)
他国の図鑑も見てみましょう。
「体長20〜28cm 体重78〜210グラム 分布:欧州、非州(筆者注:アフリカ)北部、亜州(同:アジア)中部、イラン、アフガン、パキスタン、ブータン、インド北部、スリランカ、中国等 以下略。」(北京自然博物館発行:鳥類博物館より)
「分布地点=台湾本島では主に台北に分布し、金門や馬祖では全域に分布、金門ではよく見られる留鳥、以下略。」(台湾の野鳥300図鑑より)
以上四冊の本を読み比べると興味深い点が二つあります。

一つ目は体の大きさに関するところで、中国の野鳥図鑑「鳥類博物館」では、体長20〜28cm 体重78〜210グラムと大きく幅を持たせているところです。「フィールドガイド日本の野鳥」はじめ他の3冊は生息分布を日本国内、あるいは台湾に限定して説明しているのに対して、「鳥類博物館」は世界の生息域を広く紹介しています。当然気候や食性などによって同じ種でも体の大きさに違いが出ることが考えられ、幅がある表記も自然なこととして理解できます。
なお、同じ大型ツグミ科に分類されてはいても、私の好きなクロツグミはL=21.5センチと小柄です。それなのに、鳴き声はクロウタドリよりも平均して低めであることが面白いところです。なぜなら一般的に言えば、体が小さくなればなるほど鳴き声は高くなるのが普通だからです。(ヒガラ、ミソサザイ、キクイタダキ、ヤブサメなどが好例)

二つ目のポイントは、鳴き声については「名前がわかる野鳥大図鑑」のみが触れていて「キョッと鳴くこともある」とだけ記述しています。他の3冊では鳴き声についての記載がありません。クロウタドリはヒバリに次ぐ歌い手であると私は思っていて、「キョッと鳴くこともある」などはとんでもない間違いです。「名前がわかる野鳥大図鑑」はB5版255ページのカラー写真入りの立派な図鑑で、記述内容にこのような間違いがあるなど信じられないほど立派な本ですが、本の外見だけではその価値が分からないことが世の中にはあるのだとあらためて思ったしだいです。

余談はさておき、他の3冊が鳴き声について触れていないのは、クロウタドリの鳴き声があまりにも複雑なので、限られた行数の中ではとても表記できないと編集者がお手上げしたからだろうと私は勝手な推測をしています。(もともと「鳥類博物館」は鳴き声について記載がありませんが…。)
さて、クロウタドリは、日本本土にほとんどいないうえに、日頃はウォッチング、写真撮影で野鳥と接している皆さんには縁の乏しい、馴染みのない野鳥でしょう。しかし、私のように、鳴き声を聞いたり、録音で野鳥に親しんでいる人間にとっては、こんなに面白くて楽しい鳥はそんなにありません。

たまたま退職後の余暇を有効に使いたいとはじめた中国語を実践する目的で出かけた中国、それも長江下流域、いわゆる江南地方への個人旅行をよくしました。2004年の春、二度目の蘇州でクロウタドリと出会い、私はすっかりこの鳥に魅せられてしまいました。そしてその時には、今も残るすばらしい録音をものにすることもできました。その1羽のクロウタドリの鳴き声を耳にするまで、私が知っているクロウタドリは、今は亡き蒲谷鶴彦先生がスエーデンで録音され、「日本野鳥大鑑・鳴き声420増補版」のCDに入っている音だけでした。

中国・蘇州からは広大なユーラシア大陸の反対側、気候もまったく違う国での個体であるためか、その鳴き声は低めの濁った声でのさえずりで、はじめてそれを聞いた私には魅力的には聞こえなかったのでした。それでも蒲谷先生は説明文の中で「とても素晴らしい鳴き声の鳥」と書かれています。
ところが、私が蘇州で耳にしたそのクロウタドリの鳴き声は、声は澄んでいて高低の幅も広く、メロディーはじつに多様、表現力に溢れていて、まさに野鳥界有数の歌い手であると思わずにはいられませんでした。

いつも申していますが、鳥の鳴き声を文字にして書き表すことはとても困難な作業です。でもこの鳥の歌声をご理解いただく一助になればと敢えて以下にカタカナにしてみましょう。
「フィー、フィー、フィー、フィー、チュイ、チュイ、チュイ、ピュオ、ピュオ、ピチチチチチ、フィー、フィー、フィー、フィー、フォフォフォフォ、ホィポポポポ、フォー、フォー、フォー、フィ、フィフィフィフィ、ヒヒヒヒヒ、ピュオ、ピュオ、ピュオ、ピュオ、ツツツツツ・・・・、ピキョ、ピキョ、ピキョ、クリリリリ・・・、フィー、フィー、フィー、・・・・・」
これが延々と10分近く続きます。しばらく鳴いた後、少し時間を置いて今度は別の場所で鳴くのですが、例えばホオジロのように持ち歌が決まっているわけではなく、鳴き声の中身は決して同じではなく、変化をつけて鳴いていました。

この音を録音したのは、蘇州市の中でも緑が多い江蘇大学のキャンパスに近い静かなエリアにある当時はまだ少なからず残っていた国営ホテルの一つ「南林飯店」の広い裏庭でした。
このホテルを選んだのは、単に宿泊料金が安いことだけでしたが、さすがに国営だけに、建物内部はひどいもので内装もボロボロ、サービスも最悪でしたが、ただ良かったことは広い庭が本館の表、裏にあって、緑も多く野鳥もスズメやツバメはもちろんシロガシラ、カノコバト(シンジュバト)、シジュウカラ、オウチュウなど数え切れないほどいたことが、私にとっては唯一の取り柄でした。

クロウタドリはまた面白いことに個体によって、場所によって歌にはさまざまなバリエーションがありました。その後何度も訪中して蘇州でまた聞き、南京、杭州、揚州、安徽省の省都・合肥、武漢など各地で多くのクロウタドリに出会いましたが、基本的な声質や鳴き方の特徴からすぐにクロウタドリとは分かるものの、それぞれに鳴き方に多様性があり、多くの個体に出会うたびにいつもマイクを向けたものです。

ところで、私たち日本人にとってクロウタドリによく似た鳥として頭に浮かぶのはクロツグミです。夏鳥としてわが国の中海抜の山にやって来て、柔らかい中程度の高さの声で、初夏の繁殖期に一日中よく鳴いています。私の大好きな野鳥の一種です。
クロツグミの鳴き声の良さは、柔らかい声とさえずりの多様さにあります。変化に富んではいるものの、クロツグミの声をよく聞いていると、ある種のパターンがあることが分かります。
そのために、昔から他の多くの野鳥同様に「聞きなし」の対象となってきました。

前にも何度も書いたと思いますが、「聞きなし」とは野鳥の声をそっくり表音文字で書き写すのではなく、その鳥の声に似た、でも人の言葉に置き換えて覚えやすくしたものです。
皆さんとっくにご存知でしょうが、分かりやすい例を挙げてみましょう。

  • サンコウチョウ・・・「月 日 星 ホイホイホイ」
  • センダイムシクイ・・・「焼酎一杯 ぐいーい」
  • ツバメ・・・「土喰って 虫喰って しぶーい」 「百姓米喰って わたしゃ土喰って 土喰って しぶーい」
  • ヒバリ・・・「日一分 日一分 利取る 利取る 月二朱 月二朱」 (ヒバリの前世は高利貸だったと言う伝説から)

ではクロツグミの聞きなしとは、

「おい おい 手打て 五両 五両 手打て」
「今日も来て 今日も来て きよこ きよこ きよこ・・・」
(きよこは人の名で、「清子」か) 

と、まあこんなふうに、複雑なクロツグミの鳴き声まで「聞きなし」てしまう日本人の言葉の文化には驚きと同時に、鳥好き人間としてある種の誇りも覚えます。

それに対して、クロウタドリがもし国内で声が聞かれる鳥であった場合はどうだったでしょう。
どんな鳥でも「聞きなし」てしまう日本人のことですから、もしかしたら愉快な「聞きなし」が全国各地で生まれたかもしれません。一方であまりにも鳴き声が複雑で、なおかつひと鳴きが長いので、聞きなそうにもどうにもならなかったかもしれません。1羽、1羽の声が千差万別だからです。しかし、共通点がないわけではありません。私自身が持っている録音をいろいろと聞き比べてみると、まず声の音域が高低に広いとは言え、ほとんどの鳴き声は中音域から高音域の範囲内です。
次に「ピュオ、ピュオ、ピュオ」、「ピュリ、ピュリ、ピュリ」など同じ音を一節目のはじめに3〜4回繰り返すことが普通です。そのあとは、声の高低、大小、そして音の種類を変えながら長く、長く歌い続けます。

なお、「台湾の野鳥300図鑑」の記述では、「警戒心が強い」とありますが、私の経験では警戒心が強いどころか実際はその逆で、蘇州や南京の公園では、人がたくさん集まる公園の樹の枝に止まって、その下を大声を上げて人々が通っても平気で朗々と鳴いていました。
私も長く録音をしてきて、もしも「マイ・ベスト録音集」を作るなら、その中にきっと蘇州での、あのクロウタドリの鳴き声を入れることになると思います。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2015年8月号 通巻450号より転載 掲載2015-08-05)

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