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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク姿も声も魅力的・ヨシガモ

ヨシガモ

ヨシガモ

晩秋の今、すでに各地の水辺にはいろいろな種類のカモたちがたくさん渡って来ています。この仲間は体も大きいので見つけやすく、また人のそばにもやって来てくれるので、初心バードウォッチャーには絶好のターゲットです。
そんな誰もが知っているカモ類は、美しさという観点からも、干潟などではともに見ることができるシギやサギ類に比べてずっと綺麗な種類が多く、例えばマガモ、コガモ、キンクロハジロなどは明るい陽光の中で見ると、ハッとするほど美しい色をしていて見る人を驚かせるほどです。種類や数も多く、親しまれる冬鳥の代表と言えるのではないでしょうか。

さて、そんなカモ類は、私のような録音という手法でアプローチを試みる者にとってもなかなかに魅力的な鳥たちです。でも残念なことにマガモやコガモ、ヒドリガモ、留鳥であるカルガモ以外のカモ類はあまり鳴いてはくれません。
ホシハジロやキンクロハジロがたまに鳴いていることもありますが、たいていは群れでいて、小さい鳴き声が重なり合って明瞭ではなかったり、地味な声であったりして、「録音するに値しない」と言うと彼らに失礼ですが、良い録音にはなり得ません。

しかし、ここに一種類、とても魅力的(聞く人にもよるのでしょうが)な声で鳴くカモがいます。それが“ヨシガモ”です。
マガモ、ヒドリガモ、コガモ、オナガガモ、ハシビロガモ、キンクロハジロなどお馴染みのカモたちに比べると、ヨシガモは飛来数も少なく、また警戒心も強いためになかなか見る機会が少ないカモなので、読者の皆さんの中にもこのカモを間近に、そしてつぶさに観察できた人は少ないのではないかと思います。

まず大きさですが、(いずれもオス)マガモ59センチに対して、ヨシガモでは48センチと一回り小さいということになっています(フィールドガイド日本の野鳥)が、美しい頭部が「ナポレオンの帽子」と呼ばれるように盛り上がっていることや、背中と尾の付け根の羽が長くて美しく垂れ下がっていることなどで、見た目にはそんなに小さくは見えない堂々とした姿をしています。
オスの姿を細かく見てみると、まず頭と顔の色はコガモに良く似ていて、茶色と緑色に染め分けられています。それが陽の光を受けると、まるで自らが光を発しているように輝いて、マガモの青首、コガモの頭部以上に光に美しく映えます。喉もとから首は白いのですが、中ほどに黒いベルトが取り巻いていて、強いアクセントになっています。胸から腹部は灰色に見えますが、実際には白い色に小さな黒い線が無数に入った縮緬模様となっていて、ここに背中から流れ落ちるように三列風切羽が白く垂れています。尾羽は黒い色をしていますが、長く優美、かつしなやかに長くて、全体としてはとてもエレガントさを感じる美しい鳥です。
一方メスの方はというと、皆さんご存知のほかのカモと同じように、全体が褐色と濃い灰色をした小さな羽根に覆われていて、まるで創造の神様がメスにだけ、何かの罰を与えたかのような地味な色をしています。でもこの地味な色が繁殖期に卵や雛を腹の下に入れている時に、天敵から見つけられにくいという利点につながるのでしょう。

ヨシガモは見る機会が少ないと書きましたが、私は幸運なことに今から5年前の春、カモ類が北帰行を間近かにしている頃、偶然に福岡市内の小さな溜池でヨシガモの小さな群れを発見しました。この池は、本来は農地に水を供給する目的の灌漑池だったのですが、その当時はすでに周辺が住宅地となり、潤す畑も堤下の一枚だけとなっていて、いわゆる洪水調整池となっていました。
それでも毎年秋には水が落とされ、池のほとんどは水深が10センチ前後となり、カモ類の餌場となります。そして、流れ込み部分の葦原と、池の奥には池底が露出して、
彼らの格好の休息場所となるので、毎年秋から翌春にかけては、マガモ、コガモ、ヒドリガモたちが良い越冬場所としていました。そんなわけで、私も季節になると、この池にはよく足を運んでカモたちを観察していました。

そして、前述のように2010年の4月のはじめに、ヨシガモの群れを初めてそこに見つけたのでした。恥ずかしながら、ヨシガモを見たのは初めてだったので、その時の素直な感想は「何と言う美しいカモだ!」でした。
私が双眼鏡を持って立つ道路側からだと、池の真反対にあたる岸辺に、さものんびりと春の陽光を浴びるヨシガモの姿にしばし見とれていた私は、「さて、鳴き声はどうなのだ?」と聞き耳を立てるのですが、傍にいるマガモが出す声以外はヨシガモらしい声が聞こえてきません。そこで、いつものように、夜明け前後にタイマーをセットしたレコーダーを置いてみることにしました。

カモたちが岸に上がって休んでいる部分の奥はすぐ石垣になっていて、数軒の民家が池に沿って並んでいます。たまたまもっとも良い場所の家の住人が私の知り合いだったので、わけを言って庭に入らせて貰い、池に面した植え込みの木々の茂みに、カモたちが上がって休む場所に向けてレコーダーを設置して見たところ、狙いは的中し、翌朝早く、まだ町の騒音が始まる前の静かな時間帯に、カモたちが鳴いた声がしっかりと良い状態で記録されていました。その録音の中では当然のことながら、マガモやコガモ、それに厄介なカラスの声も入っています。その中からヨシガモの声だけがよく聞ける部分だけを選んで一つの音声ファイルを作ってゆっくりと聞いて見たところ、とても面白い、というか興味深い録音であることが分かりました。ヨシガモがよく出す美しい「ピューイー」という声の合間に、「ビルルル」と聞こえる不思議な声が入っていたのです。

そもそもヨシガモの録音そのものが既存のCDやネット上の鳥の音声が聞けるサイトにも少ないので、参考にできる資料も少ないのですが、唯一と呼べるものは、蒲谷鶴彦さん、松田道生さん共著の「日本野鳥大鑑・鳴き声420増補版」CDにあるものです。
この音を聞いて見ると、私が録音した声とほぼ同じ声で鳴いていますが、「ビルルルル」という金属片を振動させるような、あの私が惹かれた音はありません。
面白いことに、「野鳥大鑑」では、ヨシガモの鳴き声について「ホイー、ホーイー」と記述されています。私は生前の蒲谷先生にお会いして親しくお話を聞く機会がありましたが、この部分を読んで「なるほど、先生の耳にはこのように聞こえたのだ」と在りし日の優しい蒲谷先生の笑顔をなぜか思い出しました。
「野鳥大鑑」の録音でも、私の録音でも、鳴き声のメインとなる部分の声は、私には「ヒュウ−イー」あるいは「ピュウーイー」と聞こえたのですが・・・。
その後もヨシガモの声の記録をいろいろな情報の中から探していますが、私が録音したような不思議な声の報告や音はなく(唯一、「野鳥大鑑」の記述に、「雄はピリー、ピリー、またはピュルル、ピュルルと笛のような声で鳴き・・・」とあります)、
このような不思議な声を録音できたことはとてもラッキーであったと思っています。

それはともかく、私のその時の録音では「ビルルルル」という不思議な声はごく短いものの、わずか二分足らずの中に二回も入っていて、とても印象的な声、と言うより音でした。この声を録音した時期が4月の上旬と言うことを考えると、もしかすると、繁殖期にオスがメスにアピールするための声だとも考えられます。ミヤマホオジロやシロハラが渡りを間近にさえずり始めるのと同じように、この時のヨシガモも、暖かい春の陽光を浴びて、体内に繁殖ホルモンが分泌され始めていたと考えるのが自然だと言えるかもしれません。

ところで、ヨシガモの語源ですが、「いと美しい」を意味する古語「いとおし」の「おし」にカモがついて「おしがも」となり、さらに「ヨシガモ」になったという説が有力のようです。(「筑豊の野鳥」にも同様の記述あり)
それだけヨシガモはいにしえの人々の目にも美しく映っていたのでしょう。

なお、ヨシガモに似た名前の鳥にオカヨシガモがいます。ヨシガモに比べるとオスの姿はかなり地味で、鳴き声もほとんど聞いたことがなく、もちろん録音の経験もないのですが、ある時に福岡市の大濠公園を散歩していた時に、メスのオカヨシガモが岸近くを泳ぎながら「ベー、ベー」と低くて面白い声を出していたことがあり、この声は録音して保存しています。これはカモ類がじつにいろいろな声を出すことを改めて思った録音でした。

姿が美しいだけではなく、声もまた綺麗で、しかも不思議な声も出すヨシガモを探して、この冬のバードウオッチングを楽しまれてはいかがでしょう。
なお、自己宣伝になりますが、今回のテーマとなったヨシガモの綺麗な声や不思議な声は、拙作のCD「声の野鳥だより・2012年号」でお聞きいただけます。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2015年11月号 通巻453号より転載)

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