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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク吉兆をもたらす鳥・カササギ

2016年の始まりに相応しいと思い、この号では韓国や中国でおめでたい鳥として大切にされているカササギを取り上げたいと思います。
いまさらカササギなんて、と思われる方も多いと思いますが、少し奥深いところまで掘り下げてみたいと思いますので、どうぞお付き合いくだされば幸いです。
皆さん先刻ご承知のとおり、カササギは九州の佐賀、福岡両県を中心に、長崎県、熊本県、大分県、さらには山口県の一部にも生息していますが、いずれにせよ地域限定の野鳥と言ってもいいと思います。
ただし、北海道、新潟、長野の道県でも確認されているとのことですが、それらはごく地域や時期が限定的だと考えられるので、基本的には佐賀、福岡両県におもに生息する地域限定版の野鳥であると、おおまかな定義をしてもよさそうです。

鳴き声は、これも皆さんご存知のように「カシャ、カシャ、カシャ」と鳴く声が知られていますが、時として「カッカッカ」や、「ジェージェー」とカケスのような声も出すことがあります。いずれにせよ、カササギはカケスなどと同様にカラス科独特の悪声で鳴く鳥と言えるでしょう。カササギの声を良い声だといった人は古来からおそらくいないと思います。
名前の語源としては、一般に知られているように「カシャカシャ」を「カチカチ」と聞き、これを「カチカチ(勝ち勝ち)」と聞えるとして、戦さの勝ちに結びつく目出度い鳥として「カチガラス」と移入された地元である佐賀や福岡では呼んでいます。
また、一部の地方ではチョウセンガラスやヒゴカラスとも呼んでいるようです。
しかし、これらはあくまでも方言であり、カササギが標準和名であることはご承知のとおりです。ほかに「カチガラス」の由来としては、韓国でこの鳥の名を「カチ」というのがそのままわが国に入ってきたという説もあります。現に私の知り合いの韓国出身の人に尋ねたところ、韓国では「カチ」と確かに呼んでいるとのこと。

一方「カササギ」の呼び名は、わが国には相当古くからあり、かつて朝鮮半島にあった王国・新羅での古語である「カサ」に、白い鳥を意味する日本の古語「サギ」がついて「カササギ」となった、という説を私は信じたいです。また、「サギ」については朝鮮語で「騒がしい」と言う意味もあるそうで「カサ」も「サギ」もいずれも古い朝鮮語を起源としているのかもしれません。
これもご存知の方が多いと思いますが、カササギを語る時に、よく出てくる話が「カササギの七夕伝説」です。七夕の夜、天空に無数のカササギたちが翼を広げて橋を架け、そこを牽牛と織女が両方から渡って天の川の真ん中で一夜の逢瀬を楽しむという物語です。ロマンチックで美しく、私の大好きな伝説というか民話です。
この伝説のおおもとは、現在の中国・江蘇省あたりだそうですが、あまりにも有名で夢のある美しい話として、すでに紀元前の頃に今のベトナムや朝鮮半島に広がり、さらにはその後にわが国にも伝わってきたとされています。
奈良時代以降のわが国の貴族社会や仏教界では、すでに身分の高い人々の間では漢文の素養が必須となっていたようで、分かりやすい例を挙げれば、遣唐使の制度があったのもそのおかげです。あの人たちが遠い異国で、言葉が話せなくても筆談ができ、当時の先進国であった中国から政治制度をはじめとして多くのことを学べたのは漢文の素養があったればこそと言うわけです。

余談ですが、遣唐使の一人安倍仲麻呂にいたっては、能力の高さを評価されて当時の玄宗皇帝に厚遇され高級官僚として一生を中国で送りました。仲麻呂が日本に帰ることなく一生を中国で終えたのに「天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山にいでし月かも」と詠んだのは望郷の思いからだとされています。
余談の余談ですが、私が中国・江蘇省鎮江市の、長江に面した北胡公園の小高い一隅に立つ「天の原・・・」の石碑を目の当たりにして感動した時も、その公園の中ではそこここにカササギが鳴いていました。
そんなわけで、漢文の素養が必須の当時の貴族社会にあっては、「七夕伝説」は知らない人はない常識であったということは容易に想像されます。
古い和歌を例に挙げてみましょう。
一つ目の有名な歌は「鵲の渡せる橋に置く霜の白きを見れば夜ぞ更けにけり」(大伴家持)、七夕の夜空を見上げている情景になぜ霜が?と思われた方は相当鋭いですが、白い霜は天の川が白く見えたということです。
もう一つは、菅原道真が詠んだとされる「彦星の行き会いを待つかささぎのわたせる橋をわれにかさなむ」という歌です。大宰府に流された道真の、遠い都と家族への淋しい思いが込められていて胸を打ちます。

いずれの歌も「七夕伝説」を熟知した上で詠まれたことは明らかなのですが、ここで読者の方は面白いことに気がつかれるかと思います。それは家持も道真も、じつはカササギを実際には見たことがないのではないかと言うことです。なぜなら、わが国にカササギが入ってくるのは、これらの歌が詠まれてのち、およそ八世紀も経ってからだからです。
16世紀末の豊臣秀吉の朝鮮出兵の折、船出の拠点となった地元九州の諸藩から大勢の大名が兵を連れて朝鮮遠征に加わりました。その中で、肥前の国佐賀藩主の鍋島直茂と、筑後の国柳川藩主・立花宗茂が、前述の逸話のように「カチガラス」をわが国に持ち帰ったとされています。

これがわが国でのカササギ生息のはじまりだとされていますが、奇抜(!)な説として、冬に朝鮮半島から渡って来るミヤマガラスに混じってやって来たというものがありますが、私はこの話には首を傾げます。カササギは翼が小さくて飛翔があまり得意ではなさそうなので、対馬海峡と玄界灘を飛び越えて来たとはとても思えないからです。前述の北海道の例でも、カササギの生息域はとても限定的で、室蘭市と苫小牧市だけのようなのです。そこにいるカササギは苫小牧市の港に入った韓国船が持ち込んだ人為的要因によるものらしいと言う説が有力だそうです。

さて、私はカササギの声をいろいろな場所で録音して来ました。
もっとも近いところでは私の自宅付近の公園で、次には福岡県内の各所で。当然佐賀平野にも出かけました。変わったところでは、吉野ヶ里遺跡公園の中と、周辺の農地でも録音したことがあります。その時代にはいるはずがないカササギが弥生遺跡の建築群をバックにして姿を見せ、鳴いているのですから、奇妙な光景と言えます。
当然七夕伝説の本家である中国江南地方の各地でも、また「カチガラス」の名の下になった韓国各地でもいろいろな場所でカササギの声を録音しました。

2006年に中国の南京方面に旅をした時、南京駅前に大きく広がる玄武湖の一角にある、これも広大な玄武湖公園に出かけました。クロウタドリや、日本のものより1オクターブほど高い声で鳴くウグイスなど録音を楽しんだのですが、当然カササギもたくさんいました。たまたま家族で遊びに来ていたらしい年配の中国人男性に、カササギを指差して「あの鳥は中国では何と呼びますか? また、どんな字を書きますか?」とたずねてみたところ、その方は嬉しそうな顔をして、私の差し出した紙に「喜鵲(シージェ)」と書いて、読み方を教えてくれ、さらに「喜鵲はおめでたい鳥なので大切にされているよ」とも話してくれました。
南京までは上海から列車による旅をしたのですが、無錫を過ぎる辺りから車窓から見えるのは農村と畑の風景となり、高い樹木の梢に点々とカササギの巣があって、なんだかとても懐かしいような気持ちがしたものです。

韓国でも同様にカササギはあちこちにざらに見られました。しかし、面白いことに中国でも韓国でも同様で、同じカラスの仲間なのに、ほんとうのカラスはまったくと言ってよいほど見ることはできませんでした。韓国では一羽も、また中国には延べ日数では150日も旅をしましたが、2007年に北京を訪れた際に、紫禁城でたった3羽を見かけただけです。日本にはこんなにいるのに、そのことはとても意外でした。
またまた余談ですが、中国や韓国になぜカラスがいないのか、についてですが、私がいろいろと聞いたところでは、両国とも先の大戦の後に内戦の混乱期=貧困の時代があり、この頃にカラスは漢方薬にされた(それは表向きの理由、裏返せば“食べられて”しまった)らしいのです。
しかし、カササギとオナガは生き残ることができました。その理由として、カササギは例の「七夕伝説」と、小群の家族単位で円満に暮らすところから、「縁起の良い鳥、吉兆をもたらす鳥」として大切にされたのだと言います。オナガはと言えば、姿がカラスよりカササギに近いので同じような理由で食べられないですんだ、オナガにとってはカササギ様々ということなのでしょう。

なお、カササギは上手に飛べない鳥なので、海を渡るような長旅はできないと私見を前述しました。したがって留鳥なのですが、最近意外なことを知りました。
それはヨーロッパの一部の国では夏鳥だと言うものです。これが事実であれば、おそらく長距離を一気に飛ぶのではなく、短い距離をじわじわと飛びながら移動して、最後に繁殖地にたどり着くような気の長い旅をしているのだろうと推測しています。
カササギは「吉兆をもたらす鳥」、そうであるなら新年早々カササギに出会って、今年も元気に過ごせて良い録音ができる一年にしたいと思っています。

(終わり)掲載2015-12-30

(「野鳥だより・筑豊」2016年1月号 通巻455号より転載)

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