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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマークスズメ目唯一の潜水士・カワガラス

カワガラス

カワガラス

野鳥の声を録音するという作業で、私が始めから狙いをつけて良いサウンドが録れるのは、全体の2割程度で、残りの多くは放置録音か、タイマーをセットした上での放置録音です。それらのいずれにせよ、偶然に助けられたものが多く、狙い通りに巧く行くことは、自然を相手にすることだけにきわめてむずかしく、また少ないのです。
しかし、狙いを決めた録音を仕掛けて成功した数少ない体験の中に、カワガラスの例があります。今回はその時の、いわば苦労話を書きたいと思います。

ところで、その前に、カワガラスの名前は知っていても、間近にカワガラスの姿を、さらにその行動を観察した人は意外に少ないかもしれません。まして「ビッ、ビッ」、あるいは「ジッ、ジッ」と聞こえる地鳴きはともかく、さえずりの声を聞いた人はそんなにいないかもしれません。なぜなら彼らが山ではなく、渓流にいるからです。
私はたまたま渓流の傍を歩いていて、カワガラスの思いもかけない複雑なさえずりを聞いたことがきっかけで、今から6年ほど前、なんとかしてこの鳥のさえずりを録音したいと思うようになりました。

さて、実際に録音に挑戦してみると、カワガラスのさえずりを録音することがいかに大変かを思い知らされることになります。
まず、カワガラスが生息する場所が、おもに川の上流域の流れが速い渓流であることが多くて、大きな水音がバックに入ってしまう可能性が大きいことです。(この鳥の特別な生態から、多少の水音は不可避ですが。)
次の問題は、ノイズが大きい中で、せめて鳥の声を大きく入れたいと思っても、この鳥が意外にも警戒心が強くて、岩陰から近づいてもすぐ感づかれて逃げて行ってしまうこと。さらには、カワガラスの繁殖期が他の鳥よりも2〜3ヶ月ほど早くて、1月の始めにはもうさえずり始めていて、寒さの苦手な私にはとても手ごわい相手であることが分かってきました。しかし、そんな弱音を吐いていては、私のような者の目的は達成できません。

私は意を決して、年初めの寒中からカワガラスのいそうな福岡市内と近郊の渓流をいろいろと歩き回って、チャンスを探しました。でも、先にあげたような理由から、なかなか良い場所が特定できません。
やっと、「ここだ。」と思える場所が見つかりました。カワガラスの録音を思い立ってから一年半も、寒い時期から初夏まで方々探した結果、行き着いた場所です。その間に何度か直接録音にも挑戦しましたが、ことごとく前述の理由で失敗に終っていました。その場所とは、福岡市内の西部を流れる「室見川」上流部にあたる1本の支流の、山間の部分でした。この支流の川には、カワガラスが点々と見られましたが、川幅が狭くて急流となるところであったり、流れが少し緩やかな幅が広い場所であっても、カワガラスが止まりそうな岩が岸から遠かったりと、なかなか条件が合わない中で、川幅が広くて水音が比較的に小さそう、そして川の中にカワガラスがとまって鳴きそうな岩が点在する場所をやっと見つけることができたのです。しかも、その川の岸辺に下りて行く細い道も見つかりました。

まずは、川岸にタイマーをセットしたレコーダーを置いて録音を試みました。このやり方は、前日に現場に行き、カワガラスがもっとも鳴きそうな早朝に時間をセットしたレコーダーを置いておき、次の日に回収に行って結果を聞いて調べる、というやり方です。しかし、1度目もダメ、2度目も声が遠い、つまりカワガラスが地鳴きだけだったり、さえずっていても声が遠かったりして、なかなか使える音が録れなかったのです。
私は戦法を変えて、川の中ほどの、カワガラスがとまってさえずりそうな岩にレコーダーを置いてみることにしました。
それにはまず天気予報を調べることからはじめます。なぜなら、川の中にあるさして大きくない岩の上に放置録音をするので、もしも、回収するまでの10数時間の間に現場やその上流部に雨が降ると、川の水量が増して録音機材が水没してしまう恐れがあります。こういったことを回避するために、天気予報を念入りに確認しておくことが大切になります。録音にとってもう一つ困ることは風が強く吹くことなので、併せて風の強さも調べておき、強風が予想される日は回避します。

そうして選んだ冬の寒いある日、私は数日前に降った雪が残る上流の川原に降りて、その日のためだけに予め買っておいた深いゴム長を岸辺で履いて、川の中に入りました。岸に雪があるくらいなので、当然源流に近いその川の水は冷たくて、もし岩についた苔で足を滑らして転倒でもすると怪我だけでなく、全身が濡れて命にも関わるほど寒い思いをすることになります。慎重に足を進めて、川の中ほどの2ヵ所の岩にレコーダーを設置しました。
この時の放置録音では、レコーダーを小さな岩を使って固定し、カラスにいたずらをされることがあるので、岸で拾った木の枝を使ってカムフラージュもします。
では、どんな岩を選んで設置するかですが、カワガラスの場合は一つの明確なサインがあります。それは水面に頭を出した岩の上に残された白い糞です。カワガラスの糞は、その餌となる水生昆虫(トビケラ、カワゲラ、カゲロウ、トンボのヤゴなど)や小魚を食べるためか、サギやカワウと同じように糞が白いのです。
同じ糞のサインがあっても、なるべく新鮮(!)なものを選びます。こうして選んだ岩から2、3mほど離れた別の岩の上に、苦手な寒さに耐えながら、5mほど間をあけて2台を設置してその日は引き上げ、翌日にまたおなじような冷たい思いをして川に入り、レコーダーを回収して聞いてみますが、1回目と2回目は良い結果が得られませんでした。前述でもそうでしたが、鳴くには鳴いているのですが、さえずっていても声が遠かったり、地鳴きだけだったりして私が望む録音ではなかったのです。

そして、日にちを空けないで仕掛けた3度目、カワガラスのさえずりが、完璧とは言えないまでも、かなりの満足度での音がレコーダーには入っていました。
いつも申しますが、鳥の声をカタカナで表すのは難しいのですが、私が録音したカワガラスの幾つかのさえずりでは「ジッジッ、チッチッ、ジュリリジュリリ、チッチッ、ビリリチッチッ、チュルルチュルルチッチ、ビルルジッジッ」といった感じで鳴いていました。さえずりは思ったより複雑で毎回変わります。
少し濁った声なのでジョウビタキの鳴き声にも似ていますが、体が大きい分カワガラスのほうが声の大きさと迫力では勝っているようにも感じられました。
また、ある録音では、じつはこれがベストな録音だったのですが、カワガラスが鳴いたあとに、滅多に出合うことができないヤマセミの「チェッ、チェッ、チェ・・・」という声と、水に飛び込む大きな音、そして水から出てきた時に翼で水面をひと打ちしたらしい音と飛び去って行く時の声、さらにはこの谷川に餌を探してか、あるいは水を飲みに来たのか、カケスの「ジェーッ、ジェー、ジェー」という声も入るという、思いがけない付録が付いた録音になっていたのでした。

このようにして、長い間探し回り、トライし続けたカワガラスの声は、最終的には私の狙いが的中した形で、まずまずの録音に成功しました。
写真を撮る皆さんもきっとそうだと思いますが、自分の思い描いていた通りの光と背景の中に目的の鳥が姿を見せてくれてシャッターが切れた時は声を上げて、あるいは心の中で「ヤッター!」と快哉を叫ばれることでしょう。
私の場合も、回数はきわめて少ないのですが、こうして場所を探して歩き回り、何回も録音を仕掛けては失敗し、最後に狙った鳥の録音に成功した時はまさに「ヤッター!」とこぶしを挙げることになります。これがまさにこのような趣味・活動の醍醐味なのです。

話が前後しますが、カワガラスの声を求めて捜し歩いていた時、ベスト録音をゲットできた場所の少し上流に、山からの水が、3面コンクリートで幅が3m、深さが2mほどもある大きな排水溝を流れているところがあります。
ここの水流は、真っ平らな底をまるで滑るように波立たずに流れています。何度かこの流れを渡る小さな橋を通ったのですが、たまたま通りかかったある時、川に落ちる末端部のすぐ上手(かみて)で、カワガラスの「ジッジッ」と言う声がするので私は立ち止まり、声のほうを見てみました。すると、そこには1羽のカワガラスがいて、深さ1〜2cmの川(?)底に顔をくっつけるようにして何かを夢中になって食べているのでした。底には太陽をいっぱいに受けて濃い緑の苔が生えていて、その中に何か水生昆虫がいるようで、どうやらそれを嘴で探っては食べていたようです。警戒心の強いカワガラスがその時ばかりはまったくこちらを気にする様子もなかったので、私はゆっくりと姿と行動を観察することができたのでした。

この号が皆さんのところに届く頃、例えば彦山川や犬鳴川の上流部に出かけると、「ジッ、ジッ」という声と、名前の通りカラスのような濃茶色の、「スズメ目ただ一種の潜水による餌探し」をするカワガラスに出会えるかもしれません。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2016年3月号 通巻457号より転載)

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