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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク暗闇の世界に生きる鳥・その二 コノハズク

《はじめにお詫びとおことわりです。前回フクロウの記事の冒頭で、フクロウについてその興味深さを知っていただくために「ふくろう・カフェ」に関する情報を引用しました。このことが野鳥の飼育を容認するかのような誤解を一部の方に与えた可能性があります。そのような印象を持たれた方があったとしたらお詫びをします。私自身はふくろう・カフェなどの存在に賛同するものではありませんし、野鳥の密猟や飼育については厳に反対する立場の人間です。たとえ法律に違反しないとは言っても「ふくろう・カフェ」などの社会的な風潮は好ましくないと考えています。》

さて、今回のお話はコノハズクです。
当初6月号ではアオバズクを取り上げるつもりでしたが、過日、日本のシンセサイザー音楽の草分けであり、NHK「新日本紀行」や大河ドラマ「花の生涯」など数々のテーマ曲や、新感覚の音楽の作曲者としても知られる冨田勲さんが逝去されました。
私が敬愛する冨田さんが自ら出演され、また作曲された「天空に響け仏法僧にささげる幻想曲」が愛知県鳳来寺山を舞台に屋外で演奏されたNHK・BS番組(2006年)で、冨田さんが少年時代に聞いたブッポウソウ(コノハズク)の声を懐かしく語られました。地元の小学生を指導した「ブッポウソウ帰って来〜い」の歌も懐かしく思い出します。
そこで急遽予定を変更して、今回はコノハズクを取り上げさせていただくことにしました。言うまでもなく、その鳴き声が「ブッポウソー」と聞こえるところから、あたかもそれがこの鳥の本名であるかのように広く「ブッポウソウ」と呼ばれてきた鳥です。野鳥ファンの皆さんは先刻ご承知のとおり、ほんとうの「ブッポウソウ」はまったく別種の鳥です。
コノハズクは鳴き声の面からも面白くて、私の大好きな野鳥の一種です。
初夏にわが国に渡って来て、全国各地の山地で夜に「ブッキョーポー、ブッキョーポー・・・・」と繰り返し鳴き続ける「夜の鳥」、そんなイメージを誰もが持つ鳥です。
そんなわけで、この記事のサブタイトルは「暗闇に生きる鳥」としています。ところがコノハズクは、明るい時間帯に鳴くこともあるのです。本誌・2016年5月号に、広塚忠夫氏が、2012年5月に英彦山で正午ごろにコノハズクが鳴いたことを報告されています。私も今年の4月下旬に、福岡県西北部の低山で、午後4時ごろにコノハズクがふた声鳴いたのを確かに聞きました。
私見ですが、本来夜間に活動するはずのコノハズクが昼間に鳴くのは、まだ繁殖地に落ち着く前のいわば移動中の早い時期に、体内に沸き始めた繁殖ホルモンにしたがって、思わず声が出てしまうのではないかと考えています。
私がコノハズクに興味を覚えた動機は、じつは自慢できるようなことではありません。韓国の歴史ドラマを見ていたら、夜のシーンの時だけいつもバックにコノハズクが鳴いているのに気がついたことからです。
それまでこの鳥の声は、私のような者には到底録音できる鳥ではないと、始めから諦めていたのですが、日本野鳥の会筑豊支部の年中行事「ヨルヒコ」のことも知り、もしかして英彦山に行けばコノハズクの鳴き声に出会えるかもしれない、そう思って何回も夜の英彦山に足を運びました。
はじめは、深倉林道、確かに鳴いているのですが、谷の向こうであったりして、川音が大きなノイズになってしまうので、早々とここでの録音はギブアップしました。
次に狙いをつけたのは経読林道です。この林道にも真っ暗な時間帯に何度も挑戦してみました。確かに数箇所でその声が聞こえますが、良い録音を録るには距離が遠すぎてうまく行きませんでした。
そのうち、「待てよ、韓国ドラマではいつも夜のシーンで鳴いているじゃないか、それじゃ、韓国に行ってみよう」と思いつき、衝動的に行動する私はとうとう2011年に韓国に約2週間の一人旅を敢行しました。もちろん、狙いはコノハズク以外にもありました。
たまたま、韓国行きを決める同じ年の晩春に、福岡県糸島市の南部にあたる雷山山麓で、渡りの途中と思われるコウライウグイスの良い鳴き声に出会って感動し、高麗と言うからには韓国にたくさん渡るはずだと単純に考えて、コノハズクとコウライウグイス、また本場のカササギ、コウライキジ、ジョウビタキ、シロハラなどの声も録音する目的で韓国に行ったのでした。
この旅では、狙い通り、または幸いにも、コウライウグイスなどには行く先々で良い鳴き声に巡り合うことができて、満足の行く録音が録れましたが、肝心のコノハズクには苦労しました。韓国の旅では、自然の中に容易に入ることができる理由から多くの寺院を回りました。韓国の仏教寺院は街なかにはほとんどなく、有名寺院のほとんどは自然豊かな国立公園などの山の中にあるのです。また、大寺院への道路やバスなどの交通機関は整備されていて、アクセスがきわめて楽で便利です。
寺に行けば山(大自然)がある、山があれば鳥がいる、そんなふうに安易に考えていたのですが、いやコノハズクは韓国の山寺の周囲でも、いることはいるのに、寺の外塀や厳しい山道に阻まれて近づくことはできませんでした。確かに数ヶ所の寺院での、未明から夜明けの録音には声が入ってはいたのですが、とにかく声が遠いのです。
今になって考えれば、こうした韓国の有名仏教寺院は、日本の例えば比叡山や永平寺と同じで、多くの修行僧たちが起居しています。また、修行も厳しくて、夜は11時ごろまで読経の声や木魚や鉦を叩く音がし、おおむね未明の午前3時には朝の勤行が始まります。こうしたことはまったく想定外のことで、その時に旅で訪れた寺院に仕掛けたタイマー録音で修行僧たちの毎日の行動らしい音と、お寺での諸々の音からの推測で分かったのでした。
余計なお節介ですが、午後11時頃まで読経をし、午前3時に起き出す韓国の雲水たちの睡眠時間はあまりにも短すぎるのではと心配したほどです。後日韓国で出会った精進料理を修業する日本人青年から聞いた話では、雲水たちは上手に
時間を使って午睡を取っているとかで、年中不眠で悩んでいる私とは違うようでした。道理で、それら数多く訪れた寺院の境内ですれ違った若い雲水たちの血色の良かったこと、引き締まった顔はつやつやと輝いていました。
そんなわけで、素晴らしい自然に囲まれた韓国有名寺院は、じつは四六時中音が溢れていて、周りの山には確かにコノハズクはいるのですが、寺のそばには来てくれず、私のレコーダーに入ったいくつものコノハズクの鳴き声は、点数をつければせいぜい60点程度で、残念ながら人様に聞いてもらう目的で使える物ではなかったのです。
とは言え、韓国寺院で未明の時間帯に、僧侶が打つ木魚の音に重なるように、遠くから聞こえて来るコクハズクの声は、さながら音で描く一幅の絵画のようでした。
英彦山に何度も足を運んで失敗し、韓国にまで足を伸ばしてもダメだったコノハズクの鳴き声ですが、その後、福岡県内でほぼ完璧に録音することができたのでした。
同じ年の初夏の夜に、福岡県内某所を訪れたところ、至近距離であんなに苦労した憧れのコノハズクが、私のマイクの数メートル前で鳴いてくれたのです。夢のような数分間でした。たった数分間の録音であっても、一つの音のファイルとしては十分な内容の音でした。「灯台もと暗し」とはまさにこのことです。
本当に小さな、小さな夜に鳴く鳥・コノハズク。でもその録音を手にするまでの時間と苦労はたいへんなものでした。ぜいぜい息を切らして夜の英彦山の林道をさんざん歩き回ったこと、はじめて歩く韓国2週間の山々を巡る一人旅、オオコノハズクでも苦労しましたが、コノハズクもいろいろな意味で私を鍛えてくれました。
とにもかくにも、ある夜、一羽のコノバズクは、私のすぐそばに来て鳴いてくれました。この音は、じつはまだ発表していません。しかるべき時期が来たら、「夜に鳴く鳥特集」として、フクロウやアオバズクとともに聞いていただこうと考えています。
もう一つ余談ですが、ほんもののブッポウソウ、つまりブッポウソウ科のブッポウソウの声にも引き続き挑戦しています。これがなかなか手強い鳥で、まず数が少なくてなかなか出会えないのです。たとえば今回の地震で被害も出たであろう熊本県の美里町にも行ったことがあります。出会えることはできたのですが、すごいスピードで飛び回る姿だけ、とても録音などできるものではありません。
今年は、つい先日韓国慶州市と釜山広域市にもブッポウソウの鳴き声を求めて、再び旅をしました。いちばん期待をした慶州ではブッポウソウには出会えなくて、失意のうちに釜山に行ったのですが、旅には予想外のことが起こるもので、なんとあまり期待していなかった釜山郊外の寺院の山でブッポウソウが「ジェジェジェッ」と何回か鳴いてくれました。短い録音ではありましたが、なんとかその声を捕らえました。
そして、今回の旅でも、韓国の夜の山々ではたくさんコノハズクが鳴いていました。マイクからは遠いものの、時には複数羽のコノハズクがコーラスを歌っているように鳴いていたのでした。
コノハズクは、なぜ日本よりも韓国の自然の方が好きなのでしょう。向こうの山々には沢山いました。それが何に起因するものかは、今後、私自身勉強してみようと思っています。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2016年6月号 通巻460号より転載)

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