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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2024-10-10

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク声も姿も森の妖精・サンコウチョウ

誰しもが出会いたい鳥の筆頭に挙げるかもしれない野鳥はサンコウチョウではないでしょうか。優美な長い尾(オス)とブルーの太いアイリング。やや薄暗い林の中で、この鳥に出会えると、野鳥ファンになった喜びをつくづくと感じられる、サンコウチョウはそんな鳥だと思います。
もちろん私はウォッチャーではありませんし、今までにもう何度もサンコウチョウの録音をしてきたのに、実際に目の前にサンコウチョウの姿を目にしたことがありませんから(本当です!)本文の書き出し部分は私の想像です。私の頭の中にあるサンコウチョウの美しい姿は、あくまで図鑑の上のイラストであり、また写真集に登場する素晴らしい写真のイメージがすべてなのです。
でも、私たち録音人間にとってもサンコウチョウはほんとうに憧れの鳥です。
それは何と言ってもその鳴き声が素晴らしいこと、それなのにその声に出会うことが簡単ではないからです。
はじめてサンコウチョウの声を聞いたのは、もう何年も前、筑豊の大法山でした。
それまで福岡市内とその近郊の山々に、それこそ何十回、何百回と、マイクを携えて出かけていたのに、サンコウチョウの鳴き声にはついぞ出会うことができないでいました。そんなわけで、当時の私にとっては憧れ以上の存在であり、大げさに言えば、サンコウチョウの良い録音が録れれば死んでもいいとさえ思える鳥だったのです。
そんな鳥の声に初めて出会えたのが大法山でした。
いつものように、前日のうちに山に行き、下見をして、放置録音のためのマイクとレコーダーを配置して、いったんは我が家に帰ります。そして翌日回収したところ、その一台にサンコウチョウのさえずりが入っていたのが分かった瞬間は、ほんとうに小躍りして感激しました。その音は、その年の秋に制作したCDに入れました。
「皆さん、これがあのサンコウチョウの素晴らしいさえずりですよ!」と言わんばかりの誇らしい気持ちで編集したものです。
ただ、福岡市内の私の自宅から飯塚市を通り、嘉麻市の大法山への道のりは全然近くはありません。二日間であわせて二往復は結構きついものがあります。
録音自体が完璧とは言えない物だったので、いつかもっとクリアな、そして長い録音を録りたいとは思っていたのですが、遠い道のりを考えるとなかなか実行できずに年月が過ぎてしまっていました。
ところが、ところがです。幸運としか言いようがないことが今年起こりました。
自宅からすぐ近い、福岡市民なら誰もが知っている小さな山の、山麓と言える低い山中で、依然として憧れの鳥であるサンコウチョウの声に、まさにバッタリと出会ってしまったのです。
本来の目的は、コルリやコマドリ、シマゴマなど渡りの頃に、この山のところどころに現れる鳥の声を拾いたいと、通い続けていたある日の録音に、なんとサンコウチョウの鳴き声が遠く入っていたのです。
私はただちにその日のうちに、複数台のレコーダーにタイマーをセットして、鳴き声が入っていた場所に出向き、地形や木々の茂り方などから鳴き声がもっとも良く録音できそうな場所を想定して設置してみました。
一度目は、鳴いてはいたものの、場所が悪くて使えるような録音ではありませんでした。しかし、そこにはたしかに繁殖に来たと思われるサンコウチョウがいることが確信できたので、再び、設置場所を検討しなおして再挑戦しました。
誤解のないように申し添えますが、私たち録音者は鳴いている鳥の目の前でライブ録音(生録音)することは、今では極めてまれで、ほとんどは無人放置録音をします。(生録音をする場合も、岩や樹木に隠れて、相手にこちらの姿を見せない配慮をしていることは言うまでもありません。録音は相対する必要がないからです。)
レコーダーを設置するする時間帯は、前日の午後の、野鳥たちの活動が比較的に静かになる頃です。また、素早く設置して、なるべく早く現場から立ち去ります。
回収時も同様の配慮をします。
さえずりを録るということは、繁殖期の声を録るということですから、何よりも彼らに刺激を与えない、プレッシャーをかけない配慮が求められるのは当然で、私の知る限り、野鳥へのプレッシャーは録音する人間が一番低い、との自負はあります。
さて、そんな風にしてタイマー録音した結果、レコーダーにはサンコウチョウは素晴らしい声で鳴いてくれていました。
まずは、もっともさえずる時間帯が分かりました。それは夜明け前の30分と夜明け後の30分でした。サンコウチョウはとても早起きをする野鳥だったのです。
この鳥が今年の初夏から夏をすごしたのは、山の低い場所にある背が高い杉林の下に広がる常緑樹がまばらに生えている谷間の窪地でした。
そこではいつもヒヨドリ、メジロやホトトギス、高い杉の梢ではホオジロが鳴いていました。ヒヨドリは意外にも朝寝坊なので、邪魔される前の時間帯でサンコウチョウが十分に鳴いてくれたので、その点は助かりました。
また、最盛期のサンコウチョウは30分間に100回も鳴くとの記述もありますが、まさに私が録音したケースでは繁殖のもっとも重要な時期と考えられる6月の初旬では、1分間の平均で10回前後さえずっていましたから、間違いなく30分では100回を超えるほど、あの素晴らしい鳴き声を出していたことになります。そして、素晴らしいことには、最高の鳴き声で連続38分間も録音できたこともありました。これはわが録音人生の宝物と言っても過言ではありません。
5月以降、約半月に一回の割合で、この谷の杉林で繁殖したことが確実視されるこのサンコウチョウ(夫婦)の様子を音で(録音で)観察しました。
その結果として、7月の下旬にはこの場所で誕生したと見られる幼鳥らしい鳴き声も録音できました。ということは、繁殖が見事成功したことになります。
面白かったのは、こうしてほぼ半月毎の録音では、録音のバックに聞こえる鳥のほか、虫たちの声がとても興味深かったことです。とくにハッキリと入っていたのはセミの鳴き声ですが、ヒグラシ・クマゼミ・ツクツクボウシ・チッチゼミなど季節の移り変わりを、サンコウチョウの鳴き声の背後で鳴いているセミたちの声で感じることもできました。
メジロやホオジロ、ホトトギスといった鳴き声の素晴らしい鳥、また、このような林でよく耳にするヒヨドリやアオゲラなどの共演者も適当にコラボしてくれていて、いずれの録音も主役であるサンコウチョウの鳴き声を引き立ててくれていました。
ところで、サンコウチョウは三光鳥と書くこと、そして三光とは月、火、星の三つの光、それが鳴き声から来るものだと多くの皆さんがご存知だと思います。
いつも申し上げていることですが、鳥の声をどう聞き、どう書き表すかははっきりとした決まりがあるわけではありません。
サンコウチョウの場合は、「グィッ、グィッ、フィチィーヒーチィー、ヒーチィ、ホイホイホイ」と表記されることが多いようです。
私の耳には、「グィッ、グィッ」は同じ、次のところが大事なのですが、「ピュリィ、ピュリィ、ピュリィ」と聞こえます。当然聞く人ごとにみな違うわけです。
そこで、便宜上生まれたのが「鳥の声の聞きなし」です。このピュリィと三度鳴く部分を「月、火、星」と聞きなして、三つの光の鳥、三光鳥、サンコウチョウとなったわけです。

ピュリィ、ピュリィ、ピュリィが月、火、星とはとても聞こえないと思うのですが、昔の人たちはこの鳥をおめでたい鳥として大切にしたといいますから、願いをこめて三光鳥と呼んだのでしょう、
なお、「ホイホイホイ」の部分ですが、私の録音では「ホイホイホイホイホイホイ」と6回鳴いたケースがもっとも多くて、次は5回で「ホイホイホイ」と3回のケースはまれでした。
鳴き声は、「グィッ」の部分が1回の時が多く、「ピュリィ」を1回鳴いただけで終わるケースもまれにありました。
いずれにせよ、こんなに間近に(録音の中でのこと)サンコウチョウのクリアな声を聞いたことは今まではなかったので、今年の夏は、気温の上では暑かったものの、私としては、録音人生の中ではとても幸せな、そして熱い夏となりました。
「森の妖精・サンコウチョウ」が、来年も私の自宅から車で10分、そして緩やかな山道を歩いてたった10分のところにまたやってきてくれることを願ってこの稿を終わりたいと思います。

今回を持ちまして、ひとまず拙稿をお休みをいただくことになりました。長い間私の駄文にお付き合いくださった皆様には心から感謝を申し上げます。
古ぼけたバッテリーを懸命に充電して、またいつの日かお目にかかりたいと思います。「謝々! 再見!」

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2016年11月号 通巻465号より転載)

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