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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2024-12-02

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク出水のツル

対象の鳥がそこにいれば、その声を簡単に録音できる鳥は結構たくさんいます。
スズメ、カラス、カモ類など、小さな鳥だとミソサザイやオオヨシキリも簡単に録音できます。そうした鳥の一つの代表がツルなのですが、私はいままでにツルの鳴き声を録音した経験がありません。
ところが、今回たまたま鹿児島県薩摩川内市に出かける機会があったので、前日から出発して、やっと念願であった出水市のツルの飛来地を訪ねることができました。
皆さんも一度は行かれたことがあるのではと思いますが、今や数少ないツルの大越冬地として海外の人たちもわざわざやって来るという観光地(?)になっています。
私もかつても30年ぐらい前に一度だけ行ったことがありますが、その頃はまだ野鳥との付き合いを本格的にはしていなかった頃でしたから、ただその圧倒的な数の多さに驚いたこと、また臭いの強烈さに参ったことぐらいしか記憶がありません。
今回は、彼らのいかにもツル独特の鳴き声をしっかり録音するという明白な目的がありましたから前回とはモチベーションが違います。準備にも時間をかけてレコーダーの種類や数も検討し、さらには北薩地方の天気予報まで調べて出かけました。
しかし、一抹の不安がありました。
それは何かと言うと、今年の北帰行がすでに1月25日から始まっているそうなので、私が行った時点では、はたして何羽残ってくれているかと言う問題です。
観察センターに電話で問い合わせた結果、概ね4割程度(約7000羽)は見ることができそうということなので、民宿も予約して出発しました。
福岡の私の自宅から水俣までは高速道を走ることができますが、そこから先は国道3号線を走ることになります。結局高速と一般道合わせて約230キロを走って、出水市に到着。観察センターがある飛来地の中心にまだ2〜3キロの地点の畑に点々とツルの姿が見え始めた時は、長いドライブの疲れが吹っ飛ぶ思いがしました。
いよいよツル観察センターが見える広大な田園が広がるところにやって来ると、その辺り一帯の畑や水田に多くのツルたちが見えてきました。
とりあえず観察センターに車を止めて、まずは入館することにしました。建物の玄関前には、現在の飛来数が表示してある看板が置かれています下。
その数字では、ナベヅル11,617羽、マナヅル244羽、カナタヅル3羽、クロヅル8羽と表示されていました。しかし、館内に入って2階にある広い展望窓の前で説明員の人に話を聞くと意外なことが分かりました。
それは昨年、2016年11月5日に飛来数調査をやって以来、鳥インフルエンザが発生したために、それ以後のカウントはまったくやっていない、そのために最盛期の数がはっきりとは把握できていないとのこと。そこで飛来数の最大値をここ数年の平均値である1万7000羽として説明していると話してくれました。
いずれにせよ、私が到着した3月25日午後の時点ではおよそ7000羽のツルが残っていたわけですが、私の目的である録音には十分すぎる数でした。残念なことはマナヅルがほとんど北帰行をしてしまっていたことです。
ナベヅルとマナヅルの鳴き声がどのように違うか、私自身はなまのツルの声を身近に聞いた記憶がないので、あらかじめ故蒲谷先生の「日本野鳥大鑑・鳴き声420増補版」付録CDなどで聞いてみると、違いは大きくなくて区別が難しいぐらいどの種類のツルの声もよく似ています。テレビなどで紹介されることの多いタンチョウの声とも共通するツル独特の声と言ってよいかもしれません。
そんなわけで、目の前にたくさんいるのがナベヅルだけであったとしても、私には大きな問題ではありませんでした。
しかし、きわめて少数ですがマナヅル、クロヅル、カナダヅルが7000羽の中に混じっていて、もしかすると彼らの声が録音の中に入っている可能性もまったく否定できません。今回ゲットできた録音を今後時間をかけてよく聞いてみる必要があるのですが、計4台のレコーダーに合わせて10時間以上の音があるので、作業としては簡単なことではありませんが、注意深く種類の特定をしたいと考えています。
さて、夕方になり西の空が赤くなる頃、周辺に散らばっていたツルたちがねぐらである観察センター前の、水を張った2枚の田んぼ付近に続々と帰って来ます。
まさに三々五々と言う感じで、3〜5羽の小さな群れ、10羽前後の中ぐらいの群れ、そうかと思うと100羽を超えるような大きな群れも飛んで来ます。
ツルはこのように群れで飛ぶ時にもお互いに鳴き交わすように声を出しています。
成鳥の声は「クルルル・・・」とか「ココココ・・・」と聞こえる声です。群れの中にはまだ幼い若鳥も混じっていて、「ピーッ」と小鳥のような高い声を出しながら飛んでいるものもあります。そんなツルたちの声がしっかりと録音できたのでした。
今回幸運にも田んぼに下りているツルの足もとに思わぬ鳥を見つけることができました。それはタゲリです。あまり人を怖がらないツルに混じってすっかり安心しているのか、タゲリも綺麗な姿もゆっくりと見ることができ、写真も撮らせてくれた上に、子猫のようなか細く高い声で「ミュウー・・」と鳴く声も録音させてくれました。
次の日の朝、早起きして宿のまん前にある観察センター付近に出てみました。まだ明るくなったばかりの時間帯です。もしかすると、北帰行の群れとその印象的であろうシーンをこの目で見ることができるかもしれないと思ったからです。
しかし、残念ながら結果的にはそれらしい群れは一つも見ることはできませんでした。
タイマーをセットして周辺の3ヶ所に置いたレコーダーを回収して、いよいよ出水を後にする前に観察センターにふたたび行って、その朝の北帰行はどうだったか聞いてみたところ、やはり私が見られなかった通り、1羽も出発しなかったそうです。
その訳は、その日間もなく天気が悪くなることをツルが本能的に察知したためだとか。
なるほど私が出水を後にして、国道3号線に出た頃の午前9時半には雨が降り出しました。ツルたちの天気予想は見事に当たったわけです。雨の心配がなく、強い向かい風が吹かない日に彼らは北に向かって旅立つのだそうです。
今年もすべてのツルが無事に繁殖地に渡って行けるよう願わずにはおれませんでした。ナベヅル君たち、たくさん鳴いてくれてありがとう。一路平安!

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2017年4月号 通巻470号掲載)

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