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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク韓国録音旅行・慶州その二

2017年韓国録音の旅1日目は、主目的であるヤツガシラに会いに行った新羅時代の遺跡である、東洋最古の石の天文台だとされる「チョムソンデ」付近が、大勢の観光客で溢れるような状態なのですっかり失望させられました。ヤツガシラは今年もそこにいたにもかかわらず、人々の声や車の騒音で録音など到底不可能だったからです。それでも懲りない性分の私は、もしかすると、夜明け直後なら静かな中で一声、二声鳴いてくれるかもしれない、そう思って僅かな可能性に賭けて、石塔の周りに2台のレコーダーを置いてその夜は宿に疲れ果てて帰りました。
さて翌朝韓国2日目は早く起きて午前6時に問題の現場に行ってみると、何ということか、信じられない光景がそこにありました。石造りの天文台の周りにはすでに7〜8人の男性が皆カメラを持ってウロウロしているではありませんか。
聞いてみると、彼らはソウルから来た教育関係者で、新羅時代のシンボルであるこの不思議な石の建造物の詳しい調査に来たとか、ほかにも健康志向の高い韓国らしい早朝のウォーキングの人々が多数歩き回っていました。
人声と足音で例えヤツガシラが鳴いてくれたとしても録音などできない状態でした。たまに巣に戻る度に姿を現すヤツガシラも、まったく声を発することなく、また一瞬のうちに飛び去っていってしまいます。私は肩を落としたまま、2台のレコーダーをそっと回収し、他にも前日仕掛けておいた、そこから遠くない鶏林の森の1台と、さらにその奥の丘・月城(ウォルチョン)の1台を回収しました。
鶏林の森は、新羅王朝金氏の始祖にまつわる伝説の舞台で、主に松林なのですが、根もとの周りが3メートル以上もありそうな古い巨木が多く、当然それらの松の木には樹洞がいくつもあり、これをオシドリが繁殖に利用しています。
ご存知の方は多いと思いますが、カモの仲間は一般に水辺の草地で繁殖することが多いのですが、オシドリはかなりの割合のカップルが樹洞で卵を孵すようです。孵ったばかりのヒナたちは地上5メートル以上の高さの木の樹洞(ウロ)から地上に飛び降りるというより落ちるように巣から出るシーンをテレビで見たことがあります。
ここ鶏林の森は、そうしたオシドリの特別な繁殖にうってつけの古い松の木が多いため、今回の録音でも、林立する松の高い枝にオシドリがたくさんいて、同じような環境で繁殖中のムクドリの声と鳴き声が重なる面白い録音が録れました。
さて、2日目の日程として午後からまた出かけて、どこかに韓国らしい野鳥の世界を録音するためのタイマー録音をしなければなりません。私は事前の計画の中でその場所を、新羅が七世紀後半に百済と高句麗を併合して統一朝鮮達成に功があったとされる新羅王朝の英雄・金庚信(キム・ユシン)の陵墓の裏山と決めていました。地図で見る限り、陵墓の裏側は緑豊かな森となっていたからです。
早朝の疲れを宿でしばし癒した後、レコーダーの準備を念入りにした後、その日の目的地であるキム・ユシンの陵墓へ向かいました。歴代王の陵墓がある大陵地区に集まっているのに対して、なぜか韓国人なら小学生でも知っている新羅の英雄の墓は、一人だけ少し離れて独立した場所にあります。入園料を払って、まず陵墓に詣で、そこから続く裏山へ入って行きました。どこもそうですが、こうした観光遺跡は何がしかの入園料を払うことがあるのですが、地元の市民には別に入り口があり、無料で入っていくことができるので、ここキム・ユシン陵墓とその背後の山にもウォーキング用の小道が整備されていて、大勢の韓国の人たちがとくに早朝に歩きに来ていました。
韓国のどこの山もそうであるようにこの山もほとんどが松です。しかし、少し広めの遊歩道から外れる小道がある山の斜面は、ブナ科と思われる樹種がまばらに生え、その間は潅木の繁みが多くあります。
私が午後遅くに行った時間帯でもコウライキジをはじめカラ類、キジバト、ヒヨドリなどさまざまな鳥の鳴き声がありました。斜面の小道に分け入って、あちこちに複数台のレコーダーを置いてその日は引き上げました。
さて、その翌朝つまり韓国3日目の朝、前日仕掛けたレコーダーを回収に再びキム・ユシン陵墓の裏山に出かけた時のこと、予定通り回収を終えて、山の斜面の小道からメインの遊歩道へ出た時に、偶然に朝の散歩中の1人の女性にバッタリと出会ってしまいました。
山の中で、しかも雑草や潅木が茂ったわき道から怪しげなオジサンでいきなり出てきたので、彼女はギョッとした顔で立ちすくんでしまったようでした。私は丁重に挨拶をして、驚かせたことを詫びて自分が何者であるか、日本から野鳥の声を録音するために慶州に来ていることなどを説明しました。
幸いその女性は、流暢な英語をしゃべれる人で、私の説明を聞いて安心したのか、すぐに笑顔になってくれました。
私はお詫びのしるしに、持参しておいた私のCDをプレゼントしてその女性と別れたのですが、帰国後に留守中のパソコンをチェックしたら、その彼女からちゃんとメールが入っていました。曰く、「あなたのCDを聞いて、鳥の声を意識するようになり、朝の散歩がいっそう楽しくなりました。そんなきっかけを与えてくれたあなたと活動の成功を祈ります。」というものでした。
さて、問題はこの山での録音の結果です。ひと言で言うと、じつに面白い録音が入っていました。中でもノスリの声は、私自身始めての録音だったのでした。そのほか夜中には、なにか得体の知れない動物の声や、聞いたことがない野鳥の声もありました。ただし、これはどこでもそうなのですが、歴史の街・慶州と言っても、韓国の地方都市では今どきは道路インフラが進歩していて、一見静かそうに見える山のふもとにたいてい幹線道路があって、夜でも早朝でも高速で走る車の走る音がノイズとなってしまいます。残念ながら、ここキム・ユシン陵の裏山の録音でもこうしたノイズがいっぱいに入ってしまいましたが、記録的には興味深い音が多くありました。
その日の午後は、慶州最後の録音地と決めた南山の里山へ出かけました。
南山は慶州中心部から南に外れた、慶州の中にあっては比較的静かな場所です。と思ったのは他国の詳しい情報を良く知らない私の勝手な判断でした。あとで分かったことですが、一見田舎ではあったのですが、ここでも村の集落からそう遠くないところに大きい道路が二本もあって、夜遅い時間も早朝も高速で飛ばす車のノイズに悩まされることになるのですが、それはあとで録音した音を聞いてからのことです。少なくとも3日目の午後に出かけた時は、この半世紀以上前にタイムスリップしたような南山の里山の佇まいに私はすっかり惚れ込んでしまいました。
山の林に入る前に、私はゆっくりと村の集落の中を歩いてみたのですが、古い土塀や、その塀の上から枝が伸びた美しい木蓮の鮮やかなピンクがかった紅紫の花、美味しそうな新芽をいっぱいにつけたハリギリの枝、農耕用として飼育されているらしい牛ののんびりとした声、戦後間もなくのころ日本でもおなじみだった汲み取り式のトイレのにおいさえも懐かしく、そうした雰囲気にうっとりとして歩き回りました。
この村の入り口には、新羅時代の花郎(ファラン・文武両道に優れた若い貴族)を育成したとされる場所と建物があり、その池のほとりではキセキレイやホオジロハクセキレイの姿を見ることができました。そして村を取り巻く畑や林から、昼間でもコウライキジの声が聞こえています。林に向かうと入り口ではジョウビタキもさえずっていました。
私は期待に胸がふくらむ思いで、入り口に白木蓮が咲く林の道を奥へ進み、4ヶ所にレコーダーを配置して帰りました。
翌日、レコーダー回収のためにふたたび南山を訪れてみると、まず花郎亭の軒でキセキレイが鳴いて迎えてくれました。また、林へ向かう村外れの畑の縁にある潅木の繁みから可愛いダルマエナガが顔を出して、良い声ではないものの盛んに鳴いてくれました。ダルマエナガは2011年に、全羅北道・河回村を訪れた時にも、目の前の植木の中から子連れで出てきてくれた可愛い鳥です。今回は写真まで撮らせてくれました。
その後4台のレコーダーを回収して、この雰囲気が素晴らしい南山の里山をあとにして街なかの宿に帰ったのですが、じつはあとでこの時の録音の中にはとても興味深いものが入っていました。
それはキジバトの「プン、プン」という声です。キジバトの声など珍しくないのですが、時々出す「プン」と言う声は、バードウォッチャーでも意外に知らない方もあるかも知れません。
今まで私も何回か、キジバトのこの「プン」を録音したことがありますが、どんな時にこの声を出すかについては、一般には繁殖期にオスがメスにアピールするため、というのが常識となっています。
しかし、今回慶州南部の街外れの林で録音した「プン」は、韓国の野生リスであるキタリスと喧嘩をする時に出していたのです。この録音では「クルルル」と鳴くリスに向かって、キジバトはさかんに「プンプン」と鳴いていました。
キジバトがメスの前だけでなく、他の動物と争う時にもこの声を出すことは一つの発見だったと思っています。
体力的にも辛くて、ヤツガシラの声も録音できなかった、でも他の多くの野鳥や動物の興味深い録音ができたまずまず実り多かった丸3日間の慶州でのスケジュールを終わって、次に私が向かったのは釜山郊外の有名寺院である梵魚寺です。
その模様は次回ご紹介したいと思います。

(慶州・その二 終わり)

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