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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-09-20

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク偶然の出会いを活かして、結果につなぐ楽しみ

この記事のはじめにあたり、先般の九州北部豪雨災害の被災地域の皆様に心よりお見舞いを申し上げます。

さて、このたびの豪雨の原因として気象関係者が指摘する「線状降水帯」の発生源として一躍有名になったのは福岡県と佐賀県にまたがる「背振山系」です。連続豪雨の原因は、ご存知のように停滞する梅雨前線に向かって、東シナ海から絶え間なく流れ込む湿った空気が背振山系の山々にぶつかり、上昇気流となって発生した大量の雨雲だと言われています。
しかし今回の豪雨が降る前は、入梅後にもかかわらず、雨が降らなかった時期がありました。何が幸いするか分からないもので、降雨量が少なかったために思いがけない野鳥の興味深い鳴き声を、私は幸運にも良い状態でものすることができたのでした。
それはまったく偶然がきっかけとなって成功までたどり着けたもので、最近高まってきたとされる野鳥録音を試みられる皆さんに、一つの参考になるかもしれないと思って今号のテーマとしました。

6月上旬の木曜日、私は久しぶりに背振山系のちょうど中央部に位置する雷山の中腹にあるキャンプ場に向かいました。この山の七合目から上には、毎年ツツドリやカッコウが来ているのですが、そのうちツツドリについては何度も鳴き声録音に挑戦するもなかなか良い結果が得られていませんでした。そこでたまたま雨が少なかった今年はチャンスと見て出かけたのです。
なぜなら、このキャンプ場の脇には早い流れの谷川が流れていて、いつもその水音のノイズに悩まされていたからで、少雨の今年は絶好の機会と判断したのでした。
また、このあたりの林道脇の斜面は急峻で、その上に密植された杉林があります。
幸いにキャンプ場の一帯にはいくらか平地があり開けているので、斜面の上から聞こえて来るツツドリの声をマイクでキャッチするのにはとても向いているのです。
もう一つの配慮として、人声がしないはずのウィークデーを選んで訪ねて行ったのでした。
そんな思いと計算でキャンプ場に着いて、かねて顔見知りの支配人に来意を告げると、笑顔ながら「今夜は大勢の予約客があり、夜遅くまで騒がしいと思います」とのこと。
前もって電話をするまでもなく、季節も本格的なキャンプシーズンでもない木曜日なので、安心して片道一時間も車を走らせてようやく着いたのに、と愚痴を言っても始まりません。またの機会によろしく、そう言ってキャンプ場をあとにするしかありませんでした。

さあどうしよう、せっかく雷山まで来たのに手ぶらでは帰れない、仕方なく海抜420mに位置する雷神社まで山道を走り下り、この由緒あるお宮の林に1台、道を挟んで斜め前の、有名な雷山観音の開祖とされる清賀上人の墓がある小さな丘の上に1台、そしてもう1台はそこから西へ約1キロ離れた地点から少し北へ下った谷あいの林道脇にタイマーをセットしたレコーダーを置いて帰ることにしました。

さてその翌日、苦し紛れに置いたレコーダーを回収して聞いてみると、谷あいの道に置いた1台のレコーダーに予想もしなかった野鳥の声が入っていたのです。それはミゾゴイでした。
かつて対馬の西海岸にオオコノハズクの録音で挑戦した夜、真っ暗な畑の道でミゾゴイの声を遠く耳にしたことがあります。しかし、草深い夜の畑の迷路のような小道に惑わされて、どうしてもミゾゴイの声に近づくことができなかった苦い思い出があります。台湾では台中市の野鳥研究家・孫先生の裏庭で至近距離でズグロミゾゴイの単調ながら不思議な鳴き声を録音したことがありますが、日本国内に夏鳥として少数が渡ってくる、この珍鳥・ミゾゴイの声にはその後まったく出会えていなかったのです。
当初の予定が狂ったためにやむを得ず、たまたま置いたレコーダーに、不十分ながらもミゾゴイの声が入っていたのです。とても驚いたのと同時に幸運を感じました。
鳴き声の雰囲気から、このミゾゴイはどうやらその谷間に広がる草地に居ついている、つまり繁殖している可能性が高いと判断して、この幸運をより確かなものにしたいと思って、私はその2日後に再び挑戦してみることにしました。
はじめの録音に鳴き声が遠く入っていたのは、上の道から谷底までの距離があるからなので、もっと近い声を録音するためには、何とかして下の谷川付近まで下りる必要があります。しかし、いくら思い返しても、はじめにレコーダーを置いた日には林道から谷へ下りる道はなかった、どうすればいいのだ、そう思いながら問題の林道へ行って見ると、なんと一本の小道が谷底に向かって現れたのです。
それは草が刈られたばかりのようで、まるで誰かが私のために用意してくれたかのようでした。かなり急ではあるものの問題なく谷底に降りられたのでした。そこには少雨のおかげで極端に水量が少ない小川が流れていて、両岸には潅木と夏草が茂っています。あとで分かったことですがこの小道は糸島市が推奨する、山の自然を歩くウォーキングロードで、たまたま整備のために草刈が行われた次の日に私が訪れたというわけでした。

偶然の幸運に感謝しつつ、最初の夜に聞こえた声の方向を思い出し、かつミゾゴイが今夜はどんな行動をしそうかを頭の中でシュミレーションをして、2台のレコーダーを配置しました。1台は谷川のすぐ岸辺に、もう1台は川を渡った奥に広がる林の中の開けた草地です。
経験上、夜に鳴く習性の鳥たちはほとんどが、日暮れ直後に鳴き出すことを念頭に入れてタイマーをセットしてみました。つまり夜は日暮れ後の19時頃から1時間半、あとはほかの野鳥も期待できるので、翌日の未明から早朝にかけての時間帯にも録音が始まるようにセットし、それぞれ木の枝に固定してその日は帰りました。

そして翌日回収した岸辺に置いた方のレコーダーには、思惑通りにミゾゴイの「ウーゥッ、ウーゥッ、ウーゥッ・・・」という、例の独特の低くて面白い鳴き声がかなり近い距離で入っていたのです。おまけにその鳴き声の終盤では、まるで獣のような奇声も発していて、きわめて興味深くて珍しい録音が録れていました。

私の録音のほとんどは偶然が生んだ産物です。今回もせっかく訪ねて行ったキャンプ場に、ウィークデーなのに大勢の客が入っていて、やむを得ず初めての場所に半ば“やけくそ”で置いてみたらミゾゴイというなかなか難しい鳥との出会いが生まれました。
さらなる偶然は、初日に見つけられなかった谷底への道が、草刈をしてもらっていたことで発見できたこと、また、雨がしばらく降っていなかったことで谷川の水音が少なかったことも幸いしました。
そんなわけで今回のミゾゴイの貴重な録音も、重なった偶然から手にできたものだとは言え、そのたまたまの機会を、そこからもう一歩踏み込むことでより確かな結果に近づくことを経験から学んで来たことを実践したことが大きかったと思います。
具体的には1回目の録音時間のセットを、日暮れ直後からの1時間半に設定したことが項を奏しました。なぜならこの録音時間内でミゾゴイが鳴いたのは、録音開始後の約30分後からの40分間に完結的に鳴いただけだったからです。もしも録音時間をもっと遅い時間、例えばあと1時間後に設定していたら、多分今回のミゾゴイの貴重な録音は成功しなかったかも知れません。

なお、今回の録音では翌早朝に鳴いたキビタキやソウシチョウの、距離が近い明快な鳴き声も録ることができました。近いから良い録音だとは必ずしも言えませんが、大きな声で入っている分全体の音量を小さく編集できるので、相対的にノイズの少ないクリアな音源にすることができます。また近い距離での録音は、羽音などが入った、より活き活きとした音が録れることにつながります。

今回は、偶然を活かす録音の楽しさについてお話しました。これからもそうした野鳥たちとの出会いを大切にしながら、音でしか分からない鳥たちの姿を記録し続けたいと思います。次回は放置録音の楽しみをテーマにしたいと考えています。

(終わり)

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私・田中良介が代表を務めるボランティアグループ・バードコールでは、野鳥の声などを録音して協力してもらえる人を探しています。
バードコールでは、私たちが録音して自主制作するCDを「自然が好き、鳥の声を身近に聞きたい、でもそのような場所に行くことが難しい」そんな障がい者や病気療養中の皆さんに無料でプレゼントする活動をしています。
今では北海道から鹿児島県奄美までほぼ全国にリスナーがたくさんいて、毎年送られてくる鳥の声のCDを楽しみに待っておられます。
一方で、記録として野鳥の鳴き声を後世に残すことも私たちの大切な役割と考えられるようになりました。野鳥への関心を自分だけのものにしないで社会のために役立てたい、そんな方のご協力を期待しています。知識があまりなくて自信がないと言われる初心者も大歓迎です。機材の貸し出しや講習も受けていただけます。
お気軽にご連絡ください。

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(2017-09-10掲載 第58回)

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