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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2017-11-21

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマークタイマー録音は舞台演出と同じ楽しみ

野鳥たちの声を録音で観察することの意義を今日、否定する人はいないと思います。
それどころか、野鳥の会・筑豊支部においても、今年は英彦山を中心とした地域で、はじめて本格的な調査録音が行われ、会員の皆さんの録音への関心はいっそう高まってきたことと思います。
長年録音による野鳥観察を提唱し続けてきた私にとってこんなに嬉しいことはありません。たまたま、今、私はひょんなことから動物園のバリアフリー問題についての活動に足を踏み入れてしまったのですが、動物の観察も同じことで、姿やしぐさを見て楽しむことに加え、その動物が発する声や足音、泳ぐ水音などの音が加われば、より三次元的な生態の把握がしやすくなるわけで、声や音を聞くことが対象の動物を理解し、楽しむ上で大きな観察要素になることを訴えているところです。
というわけで、今回は野鳥録音の楽しさをより理解していただくために、私が多用しているタイマーをセットした放置録音についてお話したいと思います。
鳥の鳴き声録音と言うと、通常は今近くで鳴いている鳥に向かってマイクを向けて録音ボタンをオンにするやり方を思い浮かべる人が多いと思います。確かに、そうした方法が手っ取り早くて、現実に成果を上げることも多くあります。
鳥種にもよるのですが、オオルリやキビタキ、ホオジロなど繁殖期にテリトリーの中で高らかに声をあげてくれる鳥や、鳴きながら細かく移動する鳥に静かにそっとついて動きながら録音し続ける場合などもあります。また、カッコウやホトトギスのように大きな鳴き声で自分から近づいてくれる鳥の場合もこのようなライブ(生)録音が有効です。
しかし、警戒心が強くて人の近くになかなか姿を見せてくれない種類や、日が暮れた後の時間帯や日の出前のまだ暗い頃にもまだ鳴いている、あるいは、そうした時間帯から鳴き始める早起きの鳥の場合にはタイマーによる放置録音が功を奏します。ライブ録音と違って百発百中とはいかない、というより成功率は極めて低くなりますが、うまく行くと予想外の思わぬ声や希少な音が録れる場合があって、私などはすっかり放置録音の楽しみにハマっていますし、現実の問題として自らが制作するCDに入れる音源の多くがこのような放置録音によるものです。
突然ですが、皆さんはミュージカル映画や舞台がお好きでしょうか?私は中学生の頃から担任の英語の先生から影響を受けて、アメリカから入って来るミュージカル映画の虜となってしまい、以後、長い人生の中でたくさんの作品に出会い、楽しんできました。懐かしいものでは「サウンド・オブ・ミュージック」、「マイ・フェア・レディ」など、最近では「オペラ座の怪人」や「レ・ミゼラブル」など、また、舞台では故森繁久弥さんの「屋根の上のヴァイオリン弾き」など、どの作品もどれほど私の人生を豊かにしてくれたか知れません。
そうした作品を楽しむ時によく思ったことは、こんな舞台を作り出す演出家はどんな思いで作品に取り組み仕上げていくのだろうと、その着想から上演に至るまでのプロセスについて思いを馳せたものです。
アメリカ映画で、ブロードウェイのミュージカルのオーディションを受ける若者たちを描いた作品を見て、一つの作品が舞台に乗るまでのプロセスをいくらか理解することができたのですが、演出家や音楽家、いろいろな縁の下を支えるメンバーとともに素晴らしい役者を得て作品を作り上げる過程に強い興味を持ちました。
じつは私が多用する放置録音がまさに舞台演出と似ています。私は今自分が取り組んでいる録音活動の中で、若い時から楽しませてもらった数々のミュージカル作品を創り上げるのと、気持ちとしては良く似た作業を頭の中でするのですが、上手くいった時はそれこそ演出家と同じ快感を味わうことができています。
ミュージカルにはあらかじめ脚本があってストーリーが展開するブック・ミュージカルと、ダンスや歌と音楽だけで構成されるブックレス・ミュージカルと呼ばれるものがあります。
放置録音で創出できるのは、もちろん相手の役者が野生の生き物ですから、ブックレス・ミュージカルということになりますが、それが故に、より度が外れたハプニングが起きる楽しみもあるとも言えます。
では、私が夢中になっている舞台を創る作業を具体的にご説明しましょう。まずは録音場所、つまり里山の林や森の中、時には広くひろがる干潟に舞台を設定することから始まります。場所ごとに想定される登場人物(もちろんここでは野鳥を中心とした野生生物)もあらかじめ頭の中に描いておかなければなりません。しかし、それはあくまでこちらの事前の単なる希望や想像なので、実際に得られる結果としては、例えば、予定の役者が変わることや、とんだ飛び入りが登場して舞台そのものが台無しになったり、想像通りの役者が現れて素晴らしい舞台が完成することもあったりします。そこが自然を相手とすることの醍醐味なのだと思います。
さて、舞台設定の話に戻りましょう。まずは、自分の回りに広がる空間の中に仮想の舞台を描いて見ます。空間の中に左右の幅、広さ、上下(あるいは前後)切り取るイメージです。そこにタイマーをセットしたレコーダーを置いて、自分が現場を去った後の時間に、どのような役者が現れて歌ってくれるかを想像するわけです。
現在市販されている通常のレコーダーの場合、機種にも寄りますが、マイクの録音範囲は左右が120度ぐらい(録音範囲を指向性といいますが、機種によりユーザーが変更・指定できるものもあります)、上下の幅は取説やメニューなどに記載はない(つまり任意の設定は不可)ものの、私の経験上おおよそ90〜120度ほどと考えていいようです。もちろん街の騒音や、谷川の水音などのノイズが入る空間は極力避けます。そうして仮想空間が想定できたら、その中央に向かってレコーダーを固定します。私の場合は、事前に天気予報をできるだけ詳細に調べて時間経過ごとの雨の有無や風力もチェックしておきます。雨が降らないことを確かめた上で放置しますが、季節によっては、ひどく朝露で濡れることも考えられるので、タイマーをセットしたレコーダーにはウィンドジャマー(風防、私の場合は家内の手製)を被せ、マイク部分だけを出せるギリギリの深さにビニール袋を被せてセロテープで止めます。その上での固定となるのですが、ここで大事なポイントがあります。一つは地面からの高さです。これも場所によるのですが、例えば英彦山だと野生の鹿が立ち上がった背丈より高い位置を考えなければなりません。私は過去にイノシシの背がとどく高さに固定したために噛み砕かれた経験があります。イノシシは通常の自然環境の中にはたいていどこにもいる可能性があるので要注意です。
最後に、タイマーの時間設定についても十分に考慮する必要があります。タイマーセットできる機種の場合一度に3回までセットできる機種を例にしましょう。1回の録音時間はあとで再生して聞き取る場合に扱いやすい長さ、私の場合は経験上1時間30分〜45分としています。実際のタイマー設定の例ですが、夜や夜明け前
に鳴く鳥が舞台上に上がってくれるのを期待する場合は、一回目を日没直後の1時間半、二回目は日の出前の時間帯に、最後の三回目はもっともいろいろな鳥が歌う日の出からの時間帯に、それぞれ前述の長さ程度にセットします。固定場所は木の枝が最適です。地面からの高さと枝の向きを考慮した上で、太さが4〜5cmの枝を選んで、塩ビの絶縁テープを使って巻きつけるように固定します。
この場合の注意点は、自分が設定した仮想の舞台に対してレコーダーの正面が向くようにすることです。今はほとんどの機種がステレオマイクですから、正確に左右の空間が把握できるようにするわけです。もう一つ、できればレコーダーの枝に当たる部分(背面)に1cm程度の隙間を作っておくことも立体的な録音を得るうえで重要となります。レコーダーの先端に近い背面に物を挟んでおくのも簡単でよい方法です。こうして放置録音の準備が完了しました。あとはどんな役者が登場してどんな歌を歌ってくれたか、翌日以降早く回収して結果を調べる楽しみが待っているだけです。
次回は私の経験から、その時折の具体例をあげて放置録音の楽しみを皆さんとともに振り返って楽しみたいと思います。

(終わり)

 録音協力会員募集中 (ボランティアグループ・バードコール)

私・田中良介が代表を務めるボランティアグループ・バードコールでは、野鳥の声などを録音して協力してもらえる人を探しています。
バードコールでは、私たちが録音して自主制作するCDを「自然が好き、鳥の声を身近に聞きたい、でもそのような場所に行くことが難しい」そんな障がい者や病気療養中の皆さんに無料でプレゼントする活動をしています。
今では北海道から鹿児島県奄美までほぼ全国にリスナーがたくさんいて、毎年送られてくる鳥の声のCDを楽しみに待っておられます。
一方で、記録として野鳥の鳴き声を後世に残すことも私たちの大切な役割と考えられるようになりました。野鳥への関心を自分だけのものにしないで社会のために役立てたい、そんな方のご協力を期待しています。知識があまりなくて自信がないと言われる初心者も大歓迎です。機材の貸し出しや講習も受けていただけます。
お気軽にご連絡ください。

田中ケータイ

(2017-09-20掲載 第59回)

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