田中良介
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里山の晩秋から初冬にさえずるルリビタキ
この欄をしばらくお休みしていましたが、私のように鳴き声の録音と言う方法で野鳥を観察されている人は少ないと思うので、そのような側面から野鳥の世界を感じてもらうことにも多少の意義があると思い、また再開させていただくことにしました。
ウォッチングの世界と同様に、録音のほうでも原則的にはオフシーズンというものはありません。ただ、強いて言えば8〜10月は鳴く鳥は少ないと言えるでしょう。それでも、私たちの活動、つまり行動困難な人たちに自然の音の風景をお届けするという原則に従えば、夏から秋はセミやコオロギなどの虫の声、また蛙の鳴き声と言った自然の音があるので、私の仲間であるM.Yさんなどはその道に詳しいこともあって、盛んにそうした音の風景的録音に取り組んでいます。
しかし、私は自分自身が中心となっている活動の、とくにデスクワークをこのいくらかでも野鳥たちの鳴き声の少ない時期を利用して捗らせるために、フィールドに出るのを敢えて止めて、溜まった雑務に多くの時間を使う日々を送ることにしています。
そうした季節が過ぎて、私がまた最近はとくに重くなった足腰を向けるのは晩秋からの里山です。もちろんいろいろな鳥の声も聞こえるのですが、おもに三種類の鳥の声に魅力を感じて、飽きもせずに毎年挑戦しています。その三種類とはルリビタキ、オシドリ、フクロウです。とくにルリビタキ。私がメイン・フィールドとしている、自宅から車で20分ほどの里山の奥まった部分にある林に、ルリビタキの鳴き声が聞こえ始めるのは毎年11月の上旬です。
多くの野鳥たちに共通するのですが、オオルリやクロツグミなどの夏鳥やメジロ、シジュウカラ、ヤマガラなどの留鳥を除いて、基本的に鳥たちは朝早い時間帯によく鳴きます。もちろん、昼間に林道を歩いている時に、目の前から鳴き声が聞こえて来るラッキーがないわけではありませんが、やはりタイマーによる無人録音がメインの手法です。
ルリビタキの可愛いさえずりの録音で難しいところは三つあります。一つは声がほかの野鳥に比べるとやや小さいこと。二つ目は、一ヶ所で鳴き続けないこと(1回さえずるごとに少し場所を変えることが多い)、三つ目にはさえずる期間が短くて、それもまったくさえずらなくなる12月中旬に向かって、鳴く回数が間遠になって行くことです。したがって、比較的に良くさえずる、渡ってきた直後から11月末頃までにできるだけ良い録音を録っておきたいところなのですが、ここでまた困ったことがあります。
モズなどもそうですが、縄張りを持って越冬する傾向の強い野鳥の場合、縄張りが確定するまでの間は、居場所を少しずつ変えることが多いようなのです。「昨日はここら辺りで鳴いていたのに、今日は声が遠くなってしまった」と言うことが起きてしまいます。さらに晩秋から冬は風が強かったり、気温が急に下がったりと、こちらのモチベーションが落ちてしまう季節でもあります。
そんなわけで、たかがルリビタキの録音なのに結構苦労させられるのが毎年のことです。でも重ねて申しますが、ルリビタキの声はほんとうに可愛いです。それに魅せられて足場の悪い里山の奥まった林の細道や斜面で、レコーダーの設置や回収で何度も転んだりしながら頑張っているというわけです。
その苦労の成果があったかですが、昨秋も十分に満足したとは言えない結果でした。そのため、今年の晩秋もまたルリビタキを頑張って見ようと思っています。ルリビタキの鳴き声は、ほかの野鳥と同じくさえずりと地鳴きと両方があるのは皆さんご存知の通りです。さえずりは「ヒッチョ、チョリチョリ」(筑豊の野鳥・観察ガイドブックより)、地鳴きはジョウビタキとほとんど同じ「ヒッヒッ、クワックワッ」です。ここでとても面白いことがあって、地鳴きの「ヒッヒッ、クワックワッ」の鳴き声を出す時に、「ヒッヒッ」は例えば地上4〜5mの高さから聞こえますが、同時に出している「クワックワッ」と聞こえる低い声は地上付近から聞こえます。とても不思議な現象ですので、皆さんにもぜひ体験していただきたいことの一つです。
なお、同じ様なことをする鳥がほかにもあります。もっとも身近なところではキビタキがこれをやります。さえずりは高い梢近くから聞こえるのに「プリプリプリリ・・・」と聞こえる声は地上付近から聞こえてきます。まるで別の鳥がもう 1 羽いるかのようですが、鳴いているのは 1 羽だけなのです。
もう一種類まったく同じ現象を起こして惑わす野鳥がいます。意外なことですが、それはヤマドリです。ヤマドリの鳴き声(鳴き音)として普通野鳥本に書かれているのは「ドロロロ・・・」という、いわゆるほろ打ちの音です。
しかし、私は過去に一度だけごく間近にヤマドリ♂の鳴き声を聞いたことがあります。はじめは「コゥーッ、コゥーッ、コゥー」と鶏のメスが卵を産んだ直後のような声を出していますが、やがて「ピチピチピチ・・・」という周波数の高い音を出します。この時にとても不思議だったのは、この高い声は地上にいるヤマドリの4〜5m上から聞こえ、低いほうの「コゥーッ、コゥー」は地面付近から聞こえたのです。
ルリビタキ、キビタキにせよ、また珍しいヤマドリのケースにしろ、なぜそのような不思議な現象が起きるのか、勉強不足でいまだにその真相が分かりませんが、このような声を出すことにより、敵に自分の居場所についての情報を撹乱するために備わった特別な能力ではないだろうかと考えています。
さて余談ですが、本誌3月号の探鳥会報告で「イヤヨ、イヤヨ」と鳴くカラスのお話が載っていましたね。この場合は多分ハシブトガラスであったのでしょうが、カラスは多種多様な声を出すので、私たち録音する者にとってもとても面白い対象です。遠い昔はカラスの仲間であるカケスを飼う家が結構多かったそうです。飼われている家の赤ちゃんの声から犬や猫の声、果てはその家でいつも聞こえる機織り機の音まで真似したと言います。
残念ながら、こん日は自然界にはカケスの数が減りました。M.Kさん、カラスはもちろん、ほかの野鳥の声も楽しんでくださいね。
(終わり)
(「野鳥だより・筑豊」2018年4月号 通巻482号掲載)
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