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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2018-11-20

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク遠く旅立つ鳥、渡りの旅を終えた鳥

相変わらず里山での録音を続けている私ですが、春も桜が散る頃から俄然忙しくなります。季節的には、冬鳥と夏鳥が入れ替わる頃となりますから、同じ状況が生じる秋なら一息入れて、日ごろはなかなかできないデスクワークなどに集中できます。
しかし、春は逆で、むしろ忙しくなる頃となります。それは、暖かい九州で冬を乗り切った冬鳥たちが、体内をめぐる繁殖ホルモンと脳のどこかに仕込まれた生命活動についての情報が命ずるままに、北の繁殖地に旅立たなくてはならなくなり、本来なら旅を終えて繁殖地についてから出すべきさえずりを、ついつい旅立ちまえに始めてしまうものがいるからです。
最近出版された石塚徹著「歌う鳥のキモチ」では、繁殖期に鳴くさえずりは「歌」と表現されています。つまり春は鳥たちが本格的に歌う季節となるのです。私はその中でも、とくに日本を離れておもに北の国々に渡りをして後に繁殖する鳥たちの鳴き声に、生命の強さや不思議さ、なによりも季節感を強く感じます。
そうした鳥の中で代表的な例はシロハラです。秋に南東ロシア、中国東北部、そして朝鮮半島から日本に渡って来て、皆さんご存知の冬の声「チャッ、チャッ、キョキョキョ」と激しく鳴いて低山の林から市街地の公園、農耕地の回りの繁みから存在を知らせてくれるあの鳥です。
シロハラの声はとてもはっきりしていて良く通り、しかも頻繁に出すので、先月号で取り上げたルリビタキなど弱い声でさえずる鳥を録音する場合にしばしばバックにその賑やかな声が入ってしまい、迷惑に思うことすらあるほどです。
そのシロハラも桜が散る頃になると様子が変わってくるようになります。今まで私たちがいつも聞く「チャッ、チャッ・・・」と激しく鳴いていたかと思うと、突然優しい低く柔らかい声で「ポピリョン、ポピリョン、ジリリ」と歌いだすのです。と思ったら、また突然「チャッ、チャッ、チャッ」と激しく高い声を出します。
放置録音という手法を多用するので、私はその様子を実際に目にしたことがありませんが、鳴いた(歌った)シロハラ本人が「あれ?今の何だったのだろう、俺の声だった?」と自分のしたことに自分で訝るシーンが目に浮かびます。
歌と言ってもウグイスのそれと同じで、歌いはじめの頃は声も小さくてかすれ、メロディもどこか変です。それでも「まだ早いから歌うまい」と思っているかどうかは分かりませんが、思わず歌ってしまっている声の頻度が段々と増えていく様子がとても可愛く思えます。やがては開き直ってしまったのか、点数をつけると50点ぐらいだったのが、日を追うごとに上手くなって行き、85点ぐらいになったある日突然そこからいなくなってしまいます。
私が最近よく足を運ぶ糸島市の北部の里山では、シロハラのこうした歌いはじめのはにかむように聞こえるソングが良く聞かれ、やがていなくなってしまいます。すぐ前がもう玄海灘なので、「ポピリョン、ポピリョン」と鳴いたあと海に向かって飛び出して行くのでしょう。今月(4月)上旬から中旬にかけて、よくこうした歌いはじめの、まだ稚拙に感じる歌と地鳴きを交互に聞く機会がありました。「ポピリョン、ポビリョン、ジリリ、チャッチャッ、この続きを聞きたければ韓国においでよ、向こうではもっと上手に歌っているところを聞かせてあげるよ、じゃ、バイバイ」と言っているように私には聞こえます。
そんなわけで、誘われたら断れない性格の私は一昨年、昨年と2年続けて韓国の慶州などに行って、すっかり上手に歌えるようになったシロハラの声を十分に聞く(録音)することができました。
同様のケースはジョウビタキ、カシラダカ、ミヤマホオジロなどにも言えます。
昨年は、韓国・慶州の町外れの里山でカシラダカが、日本では聞いたことがない長いさえずりを歌ってくれました。
ほかにはセイタカシギ、ハマシギ、クサシギなどのシギ類などにも同じことが言えるのだろうと思います。しかし、残念ながら、シギ類の多くはシロハラなどより遥か北の国に渡って繁殖するので、彼らの本格的な歌をいくら聞きたくても私にはどうすることもできないのですが、きっとその季節が来ると、遥かに遠い北の大地の広大な繁殖地でシギ類は精一杯に自然が命じるままに歌っていることでしょう。
こうして旅立って行く鳥がいる一方で、まさに入れ替わるように、時には重なるように南から渡って来て早々に歌う鳥たちもいます。前述の糸島市北部の里山では、シロハラが渡り前の下手な歌を我慢できずに歌ったと思ったら、すぐそばの藪でコマドリが鳴き、頭上ではサシバが「今年もやって来たよー」とでも言いたげに「ピックーイ、ピックーイ」と今年初めて聞く歌声をサービスしてくれました。
コマドリの声も昨年の4月に、韓国・釜山郊外の山中の寺で聞いた声に比べると、どこか稚拙で声も小さく感じました。まだ繁殖地に向かう旅の途中だからでしょうか。
私は皆さんと違って、歌っている(鳴いている)鳥の姿を見ることはほとんどありません。(前述のサシバのように、低い空を舞いながら歌う鳥は例外的に見ながら録音することはあります。)しかし、季節を追って録音を通し観察をしていると、彼らの季節による変化が、その鳴き声の僅かな変化から垣間見えてくるような気がします。
こうして晩春の一時期は、旅に出る鳥、長い旅の途中の鳥、旅を終えてやって来た鳥たちがそれぞれに歌ってくれる、私にとってはとても大切な季節となります。
渡り途中のシギたちの声を聞きに干潟にも行きたい、玄海に面した里山にも出かけたい、一足早く繁殖期に入っているフクロウの雌雄の歌の駆け引きも録音したいと、身体が二つも三つも欲しい季節となのです。
折から山肌がモコモコと膨らんで、七色の新緑(緑でなくても新緑)で彩られる頃でもあり、それを眺めるのも楽しみです。やがて里山でも深山でも、キビタキやオオルリ、カッコウの仲間をはじめとして夏鳥が勢ぞろいして歌を競ってくれます。
「今年も忙しくなるぞ」そう心と頭は働くのですが、年老いた身体がはたして動いてくれるのか、そこが勝負どころとなってきた昨今です。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2018年5月号 通巻483号掲載)

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