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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2018-12-16

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク鳥名の由来雑学あれこれ・その2

前号の話と重なりますが、ウグイスの“ス”やスズメの“メ”は、鳥の名につく接尾語というのが今まで言われてきた原則であり、常識です。じつは私もそう考えるのが妥当なのだろうと思う部分が多いのですが、それにしては“ス”や“メ”が語尾につく鳥名が少なすぎるではないか、と素朴な疑問を覚えたことから、もう一度鳥の名前について勉強してみようと思い立ちました。
そして前号ではかなり無理やりな感じのこじつけで、“ス”が必ずしも鳥の意味を表すものではないかもしれないとしてウグイスとカラスについて斜め目線の検証をしてみました。
今回は、その続きとしての“メ”について勉強したいと思います。“メ”が語尾につく鳥の代表はスズメです。ほかにはツバメ、それぞれニュウナイスズメやアマツバメなど同属の仲間がいます。カモメも数少ないメがつく鳥です。でも“メ”がつく鳥の名はこれらのほかにはありません。メが鳥の名を表す接尾語である、と言うのであれば、もっとたくさんいても良さそうなものです。“メ”の本当の意味について考察を試みるのも、鳥を良く知る上で面白いかもしれません。
そんなわけでまずは“スズメ”です。スズメは、数ある野鳥の中で人間の暮らしとともに生きてきた唯一と言ってよい野鳥かもしれません。今回取り上げるもう一つの“メ”、ツバメもわざわざ人の傍で繁殖する鳥ですが、ツバメが季節限定であるのに対して、スズメはほとんど一年を通して人と近しい場所で暮らしています。
私はまずこのことにスズメに“メ”がついた大きなヒントがあると考えます。スズメはすでに奈良時代にスズミと呼ばれていたことが分かっています。そして平安時代にスズメとなりました。北から南まで全国で人間の暮らしとともにずっとスズメはいましたから、地方名や俗名があるにしても基本的には現在までずっとスズメです。もっとも人の暮らしに近い野鳥であるにもかかわらず、じつは不思議なことに万葉集にはスズメを詠った歌が一首も無いのです。(当時も人家や田畑の周りにスズメは見かけられたはずなのに)この理由について、スズメがあまりにもありふれた存在であった、取るに足らないものであった、またわざわざ和歌に読み込むまでも無い卑しい存在であったと思われていたと考えられないでしょうか。スズメが人と近しい鳥であった一つの証左として、平安以後「スズメの子飼い」が行われるようになったようです。枕草子でも「心ときめくもの」にスズメの子飼いがあげられていますし、源氏物語の中にも大切に飼っていたスズメの子を逃がしてしまった紫の上の話が登場します。以後鎌倉から江戸、明治・・と人はスズメの子を飼い、手元に置いて親しく楽しみとしたことが多くの文献に見られるようです。
また、鳴き声については、私たちが今聞いている「チュンチュン」ではなく、古くは「しうしう」または「しゅうしゅう」と聞きました。ここからしゅしゅめ、転訛してスズメとなったとする説が有力なのですが、問題は“メ”がなぜついたか、です。
“め”には奴の字があてられて「め」と読んだ。「物の名に添えて見下げていう語」(広辞苑第七版)。「人や動物をののしったり、見下したりする時に用いる」(大辞林)。例:あいつめ、馬鹿め、など。
広辞苑、大辞林の記述を肯定した上でさらに考えを進めて、“め”には軽蔑やののしるのほかに、そうした感情とともに軽い親しみや愛情がわずかに込められる場合があるのではないかと思うのですが、これはうがち過ぎでしょうか。
突飛な例を引き合いに出しますが、中国の著名な文豪・魯迅の作品の一つ「阿Q正傳」に登場する一人の人物に「小D」なる者がいます。この“小”は前述の“奴”に近い感じですが、もう一つの意味合いとして親しさを表す“ちゃん”的な感じもあります。
私のよく知る中国人に、下の名が衛(発音はウェイ)と言う人がいます。この人を彼女の両親が呼ぶ時は、衛の頭に小をつけて「小衛」(シャオウェイ)と呼びます。つまり小の字は、自分の側の人間を謙遜する意味と、「衛ちゃん」と愛称として使っているのです。これが一般的な中国語の「〇〇ちゃん」の言い方です。ちなみに最近作者がなくなった「ちびまる子ちゃん」は中国でも大ヒットしましたが、向こうでは「小丸子」と呼ばれていました。文字通り「ちびまる子ちゃん」です。
前置きが長くなりました。結論を言いますと、スズメの“メ”は結果的に確かに鳥を表す“メ”ではあるのですが、元をただせば身近な親しい存在を呼ぶ“奴”であり、“ちゃん”であったのではないか、“我ときて 遊べや親の ない雀”一茶にとってこの時の雀は、まさに心の中では“雀ちゃん”と呼びかけていたと思うのです。
次はツバメです。奈良時代から早くも、つばくらめ、つばびらく、つばめと呼ばれていました。ツバは鳴き声からで、クラはカラと同じで小鳥を表す語(シジュウカラ、ヤマガラが好例)、メは私流には親しみや愛着を込めた接尾語。なぜならツバメもまたスズメとは少し異なるものの(ツバメは単純に益鳥、スズメは時に稲を食す害鳥)人の暮らしとともにあった鳥だからです。本流的には、「土食み」の転訛説。つばが光沢、くらが黒、めは単純に鳥の意。などあります。
またもや脱線ですが、今の中国の首都は北京ですが、かつては“燕京”と呼ばれたことが歴史上何回もありました。明の時代になり、明の元々の首都であった南京から燕京に首都を遷したことから南に対して北京となったと理解しています。
中国のビールといえば「青島ビール」が有名ですが、「燕京ビール」もあってこちらも結構なものです。なお、燕の字も、もとは鳥の字と同じく象形文字です。下部の点々が広げたツバメの尻尾を表しているのはすぐ理解できます。中央部の口の両側にある北は左右の翼を表しているのもわかりますね。
今回最後の“メ”はカモメです。これは簡単に行きましょう。鴨に似た群れる鳥(メ)です。古語では“め”は群れる鳥の意がありました。しかし、中西悟堂先生は「カモメの若鳥には褐色の斑紋があり、籠の目のような模様があり、ここから“かごめ”という」とも言われたようです。(現に土佐ではかごめの方言あり)ほかに、鴨に似て小さいので鴨妻(かもめ)、鴨に似て群れているので鴨群れ(かもめ)などありますが、いずれも大同小異です。
こうして改めて野鳥の名前を検証してみるのもとても面白いことが分かりました。まだまだ面白い名は数多くありますが、今回はひとまずここまで。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2018年10月号 通巻488号掲載)

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