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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2019-06-16

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク干潟でのシギ類の録音、楽しさと難しさ

私が1年に1作仕上げる“野鳥だより”CDはほぼ全国の行動困難な人々に無償提供されています。多くの人が癒しのひと時を持ってくださり、さまざまな感想とねぎらいの言葉をいただくのですが、最も多いのが「山に行く時は気をつけてください」です。皆さんが“鳥は山にいる”ものと思っておられるのです。
事実私も録音のほとんどは“山”で録ります。山では崖地があり、草の中に岩や倒木があり、イノシシもスズメバチもいて確かに危険も伴います。そんなわけで、「山に行く時は・・・」とねぎらいと励ましを頂くのは的を射ていると言えますが、一方で回数こそ断然少ないものの私は海、つまり干潟に録音に出かけることもあります。
3〜5月の春から初夏、そして秋9〜11月の渡りの頃に、福岡市内と糸島市の干潟にはいろいろなシギ類が姿を見せます。まずはどんなシギ類が姿を見せ、声を聞かせてくれるか、私の少ない経験ではポピュラーなハマシギ(代表的な鳴き声:ジューイ、ジュジュピュピュ)にはじまり、アオアシシギ(チョーチョーチョー)、ダイゼン(ピィーウィー)、ソリハシシギ(ビュルビュル、ビュビュビュ・・・)、ダイシャクシギ(ホーイホイ)、ホウロクシギ(チョーイー、カーリー)、チュウシャクシギ(ピピピピピ、ピュピュピュ・・・)などです。中でもとくに素晴らしいのはキアシシギ(ピューイ、ピューイ、ピ、ピピピ、ピーピー)で、春の鳴き声ではまるで山の中で鳴くさえずり上手な鳥たちと同様に、清清しい良い声で歌うように長く鳴き続けます。大好きな鳴き声のシギは?と聞かれると私は迷いなくキアシシギを挙げます。穏やかな晩春の玄界灘に面した海岸の岩場で、時折り寄せる優しい波音とキアシシギのさえずるような鳴き声を録音したことがありますが、まるで音楽を聞いているように素晴らしかった思い出があります。(拙作CD・野鳥だより2009年号に収録)
シギ類の声には、大まかに言って二つの共通点があります。まず鳴き声の中に「ピ」とか「ビ」と聞こえる音が多くて鳴き声が似ていること、二つ目には声の周波数が3〜4kHzである鳥が多いことです。声の高さで言うと、良い鳴き声として好まれる山の鳥たち、例えばウグイスやクロツグミ、イソヒヨドリ、イカル、アカハラなどツグミの仲間のさえずりなどとほぼ同じなのです。これらの鳥の鳴き声は柔らかくて耳に優しく、私も大好きな鳴き声の持ち主たちです。ちなみにメジロやオオルリは高い部分では5〜6kHzの音が含まれて高く聞こえます。そんなわけで、ほとんどのシギたちは私たちが耳で聞いて心地よい声で鳴いていることになります。
そして読者の皆さんがすでに経験でご存知のように、干潟は遮るもののない場所ですから、距離は遠くても彼らシギたちの姿は観察が容易です。観る皆さんがどれほど鳴き声を聞くことに注意しておられるのか私には分からないのですが、前述のようにじつはシギ類は春も秋もよく鳴く鳥たちです。姿が観やすい干潟は平らな水面と干潟という平らな地面があるので、音もまたよく伝わって来ますが、それでも概して距離が遠いので、ただ無計画に出かけてもうまく録音することはできません。やはり観察と同じで、距離が近ければ近いに越したことはなく、それだけノイズの少ないクリアな録音ができます。
そこで問題になるのが潮の満ち引きです。もちろん開けた場所ですから録音は風の影響も受けますが、何と言っても近い距離での録音を録ろうと思うと潮のタイミングと大潮、中潮、小潮と言った干満の差や潮位と時間がとても重要な意味を持ちます。
なぜかと言うと、一般的なシギ類は渚で採餌したり、休息したりしていることが多く、干満とともに渚を追って小刻みに移動しているからです。決して深い水の中にもいないし、また完全に干上がって乾いた浜にいることも少ないので、渚の位置がマイクから距離が程よく取れるように前もって潮見表やネットで潮の状態や時間をチェックしてから録音に臨むようにしています。
私の録音は90%がタイマーをセットした放置録音です。そのために、干潟に面した岸辺に放置する場合は、例え満潮になってもレコーダーが水に漬からない高さを確保して置いています。仕掛ける時は干潮時(渚が沖にあり、鳥たちも遠くにいる)に現場に行き、最高潮位になった時に海面に漬からないよう安全率も考慮に入れて、普通は例えば岸辺の低木ハマボウの枝などに固定しておきます。
しかし、今から10年ほど前にとんだ失敗をやらかしたことがあります。いつも出かけることがある糸島市の北西部に位置する干潟で(この時は夕方で干潮時だった)、遥か遠い水際でホウロクシギの姿を発見し、急いで干潟に下りて、岸から5mほど先にある高さ2mぐらいの棒杭の先端にレコーダーを取り付けて録音スイッチをオンにして車に戻って、やがて満ち潮とともに数羽いるホウロクシギが少しずつ潮に追われて鳴きながら近寄ってくるのを待つことにしたのです。
ところが、車の座席を倒して休んでいるうちにうとうとと眠ってしまいました。気がつくと辺りは真っ暗で、あわてて時計を見ると、レコーダーを置いてから4時間ぐらい経っていてもう夜の10時になっていました。「やばい!」私は大慌てで膝までの長靴を履いてレコーダーの回収に真っ暗な浜に下りましたが、すでに水位は高くなっていて、少し先では長靴の深さを超えてしまいました。しかし、このままではレコーダーが海水に浸かってしまうかもしれません。おぼつかない足取りでなおも水の中を歩いて行くと、水はどんどん深くなり、とうとうレコーダーの棒杭にたどり着いた時は腿の辺りまで水に浸かっていました。幸いレコーダーは海水に浸からないで回収できたのですが、安心したら急に水の冷たさが襲ってきました。急いで陸に上がり、濡れたままで車を走らせて家路に着いたのですが、帰宅までの約1時間、寒さが襲ってきて歯がガチガチと鳴るほどでした。ライブ録音は時としてこの様な失敗もあるのです。
それでもこの時にレコーダーに入っていたホウロクシギたちの「ホーイーン」、聞きようによっては「カーリー」(中国語のアクセントで言うと、ホーやカーは一声、イーンやリーは二声)という柔らかい鳴き声は水で濡れた冷たさとともに今も忘れないで私の脳裏に残っています。ただし、その時のホウロクシギたちは、潮に追われて陸に近寄ってくる時に、私の想像とは違って別の浅瀬に向かってしまったようで、録音そのものは距離が遠くて対岸を走る車のノイズに負けてしまい、使い物にはならない結果となりました。
思い出のこの場所は、その後、九州大学の移転にともなう車の通行量の激増によって、走行音が激しいノイズとなり、シギたちの録音も困難な悲しい状況です。

(終わり)

(「野鳥だより・筑豊」2018年12月号 通巻490号掲載)

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