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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2019-06-16

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク勘弁して欲しいと思うほど、ヒヨドリの鳴き声

野鳥の鳴き声の魅力は、なんと言ってもその多様性にあると思います。
もちろん声以外にも外見や習性、そして彼らの多種多様な能力も知れば知るほど興味尽きないことであるからこそ、こん日バードウォッチャーもこんなに大勢いらっしゃるわけで、ほんとうに魅力と興味尽きない野鳥の世界です。
多様な鳴き声とは、高い声から低い声、上手で複雑なさえずりからじつに単純な鳴き声、魅力ある歌が歌えるものから単なるノイズ程度のものまでさまざまであるということです。「みんな違ってみんないい」金子みすずの詩のとおりです。
私はAからZまでのすべての鳥の声が皆好きです、と言いたいのですが、一つだけ好きは好き、でも心底から好きか、と問われると必ずしも100%好きと断言できない鳥がいます。それが“ヒヨドリ”です。
カラスも一般の人たちからは鳴き声の点でも好まれていない鳥の代表の一つでしょう。でも私はカラスでさえあの声を「嫌い」とは言いません、基本的には好きです。
ここで少し脱線しますが、じつは2018年の年末に自宅付近の里山で、これまでで初めて聞くカラスの面白い鳴き声を耳にしました。
今回聞いた声は驚くべき鳴き声で、なんと「スッポン、スッポン」と何回も鳴いていました。そこは里山の奥まった背の高い杉林で。そのハシブトガラスは小川に沿った杉の大木の梢を少しずつ移動しながら、少しかすれた声でその妙な鳴き声を出していたのです。
私は気がついたあと、すぐにショルダーバッグから手取り用のレコーダーを出してカラスに向けたのですが、すでにもっともクリアな部分はとり損ねてしまっていて、残りの7〜8声だけをどうにか録音することができました。観賞用には使えないものの、珍しい鳴き声の記録として、大切に保存しておくことにします。
話題をヒヨドリに戻して、このところ毎回のように申し上げている各地の里山の自然環境の悪化により、私が録音したい野鳥たちは残念ながら確実に数が減少している感覚を持っています。しかしその中で、むしろ数を増やしているのではないかと推定されるのがヒヨドリです。だからこそ余計に困るケースが増えているわけです。
じつは今号のタイトルは当初「冬の里山の林、朝一番に鳴きだすのは?」の予定でいました。確証を積み重ねようと、年末年始何回も里山の夜明けごろの録音を重ねたところ、ヒヨドリが思ったより早く目覚めて鳴き出すことに驚き、かつじつに困った音域と声量であることを改めて思い知らされ(過去にもずっと思い知らされはしていたのですが)、急遽ヒヨドリへの“恨み節”を書くことにしました。
ご存知のようにヒヨドリは留鳥と漂鳥の二つの顔を持つ鳥ですが、私は研究者でもないのでそのあたりは深く触れないでおきます。
ただ私の経験から単純に考えて、他の野鳥の録音時に困らせられてしまう低い標高の里山にいるものの多くは、渡りをするほうの漂鳥であろうと推測しています。
今更の話ですが、まずヒヨドリの鳴き声について。名は体をあらわすで、名前の通り「ヒィー、ヒィー、ヒーヨ、ヒーヨ」と鳴くのでヒヨドリ。鳥の語源ではカッコウに次いで二番目に簡単な鳥ではないでしょうか。
ただし、「ヒィー、ヒィー、ピーヨ、ピーヨ」と単純な鳴き方で鳴いている場合は確かにに多いとは言え、ほかの鳥と同じでヒヨドリも結構いろいろな声も出して鳴いています。私の録音では、以上の二通りの声の間に「ピチュ、ピチュ、ピチュ」を挟むケースをよく聞きます。これも周波数が高くて私が困ってしまう声です。
私のバイブルの一つとも言える「鳥の歌の科学」の著者・川村多実二さんは、いかにもその著書にふさわしい表記で、ヒヨドリの個体差として「ピーユ ピー」、「ピンク ピーユ」、「ピー ウイー ウイー」、「ピエロン キョッキョ」、「ピンユ エイヨ」、「ピーヨーピーヨン」、「ピツルン ツルン」、「プシー プシー」をあげ、それぞれどのようなケースでの声かを説明されています。(日本野鳥名鑑鳴き声420より)
以上はいつも申し上げるように、鳥の鳴き声表記が聞く人、書く人によっていかにバリエーションがあるかを物語るものですが、現実にヒヨドリの鳴き声はいかに変化が多いかを示すものでもあるとも言えます。
「日本野鳥名鑑鳴き声420」ではヒヨドリの声について著者の故蒲谷先生も三つのタイプに分類し、タイプごとのシチュエイションをあげておられます。
このように、単純に聞こえてじつはバリエーションが多い鳴き声ですが、それでも全体としての共通項として、ヒヨドリの声の特徴として「ピ」の音が含まれていることがほとんどで、この「ピ」がじつに厄介なので私は困ってしまうわけです。
「ピ」ではじまる鳴き声は7kHzを超えていて、ときに50dBをも超える大声です。それが越冬期の最中でも群れでいっせいに鳴きたてるのですから閉口してしまいます。基本的に鳥の声に分け隔てをしたくない私ですが、ヒヨドリの声だけはその甲高さや声の大きさで、正直なところついつい不快感を覚えてしまいます。
放置録音のレコーダーを確認再生した時、朝一番にほかの鳥の鳴き声がいい感じで入っていてニンマリした途端、ヒヨドリが突然大声で鳴き出したら、前日からの苦労もすべてが水の泡です。「勘弁してちょうだい!」と言いたくなる瞬間です。
その上、最近気になっているのは、意外にヒヨドリが早起きになっていることです。
以前「助かるのはヒヨドリが朝寝坊であること」との趣旨で拙文を書いたことがあるのですが、昨年晩秋から今年初めの録音を調べてみると、朝一番に声を上げるケースがあることが増えていることに気がついて愕然としました。
このことはもしかすると暖冬傾向と関係があるかもしれないのですが、ヒヨドリ君たちにはなるべく朝寝坊をして欲しいと言うのが録音者の正直な願いです。
しかし、ヒヨドリの鳴き声にはまんざら悪くない鳴き方があります。気がついておられる方も多いと思いますが、それは「ピィーピィルルルル」(日本野鳥名鑑・蒲谷氏)という少しのんびりとした柔らかい鳴き声です。
この声の表記については、私自身は「ピチクリピィー」としています。その訳は童謡「小鳥の歌」の歌詞中で「ピピピピピ チチチチチ ピチクリピイ」と歌われるあの小鳥は、きっとヒヨドリだと勝手に思っているからです。
蒲谷先生はこの「ピチクリピィ」を機嫌のよいときに出すと推測されています。
私自身は、以前はこの声をさえずりと思い、繁殖期に入る頃から出し始める声としていましたが、冬季も出しているので、今では繁殖とは関係ない声だと思っています。
ヒヨドリくんたち、せいぜい朝寝をして、優しい声で鳴いてちょうだい。

(終わり)

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