田中良介
目次
フクロウは里山の自然環境の指標?
“里山が日本の自然環境を下支えしている”というのが長年にわたり録音で野鳥とむき合ってきた私の思いなのですが、残念ながらその里山は住民の高齢化や生活様式の変化などにより耕作や林の管理が放棄されて、いたるところで本来の美しい姿を失いつつあります。
里山の悲しい変化はそのままそこにあった生態系に大きく影響を与えて、爬虫類や昆虫類が衰退したり、植生が大きく変わったりし、結果的に野鳥とりわけ里山を好んで棲みかにしていたキジやフクロウなどにダメージを与えていることは皆さんご承知の通りです。
里山の自然崩壊は、バードウォッチャーの皆さんにも当然淋しい思いを与えてしまうわけですから、私たち鳥好き人間共通の財産として何としてでも守りたい、その維持と保全を図りたいのですが、今となってはとても容易ではない状態となっているのはまことに残念なことです。
人々が里山を軽んじてしまったのをよいことに、勢力を広げ続けているのは竹類とイノシシだけと言っても過言ではありません。他に里山で目立つのは手入れの悪い杉林、また土手のそこここに目につくようになった外来種の雑草ぐらいなものでしょう。
しかし、私は福岡市と近郊のごく僅かな数の里山に、消え行きつつもなおしぶとく生きつづけようとする小さな自然を見つけて、この十数年間四季折々に通い続けてきました。
とくに最近は本来の鳥の鳴き声の季節ではないのを承知で晩秋から春先までを、たいして成果が見込めないにも関わらず録音し続けてきました。
はじめはルリビタキやオシドリなどを録音して楽しんでいましたが、最近はフクロウの声を最重点に場所を選んでタイマーによる放置録音を続けています。
というのは、フクロウはどうやら里山の自然環境の指標(バロメーター)とも言える存在ではないかと感じ始めたからです。
ここで今更ではありますが、フクロウについて少し基本的なことを確認しておきましょう。
フクロウ:フクロウ目フクロウ科、九州以北の日本列島全域、朝鮮半島を除くユーラシア大陸の北半球中緯度に広く分布。
食性は動物食でノネズミやウサギなど、爬虫類や両生類、小型の野鳥(コジュケイを襲った例も)、大型の昆虫類など。
わが国の例では都市に近い場所に住むものでは、コウモリやドブネズミも食べる。
年々数は減少傾向にあり、詳細は省きますが場所によっては絶滅危惧種、重要保護生物、希少生物に指定されています。それだけ種の維持が危うくなっている鳥だということになります。
フクロウは姿や鳴き声が親しみやすい、また“フク”が“福”に繋がるとして好まれ、都市によっては“市のシンボル”に選定されているところもあります(青森市、花巻市、つくば市、松戸市、北杜市、袋井市)。
繁殖は、多くは森林の中の樹洞を利用します。
ですから、樹洞を形成する大木、古木が多くある場所で、なおかつ食性からも食物連鎖の最上段にあるので、畑地と古い森林が混在するいわゆる“良い自然が残る里山”が彼らの棲息地として理想ということになります。
そんなわけでフクロウか多く棲んでいる里山は自然環境が良い(そんなに悪くない)と短絡的には考えられます。果たしてそうなのかというと、私のここ数年の録音の結果として必ずしもそう断言はできない一面も感じられ、その判断は難しいところです。
しかし甚だ大雑把に言えば“フクロウが多くいる里山は自然環境が良い(そんなに悪くない)”と判断してそう間違っていないと私は考えています。
基本的には昼間は姿が見えないフクロウを、夜間や早朝の録音で探すのはじつは容易ではありません。一応一年を通してなく鳥ではありますが、繁殖の初期を除いては、いつも鳴き声を出しているわけではないので、タイマーによる放置録音の成果がコンスタントに得られないところがフクロウ録音の難しいところです。
鳴き声がまったく録音できていないのは、フクロウがいないからだと判断するのはじつは早計で、いるのに鳴かないケースがあるからなお厄介です。
ここ数年の録音結果から、私が足繁く通っている福岡市早良区の里山では、現在4〜5羽の成鳥がいると推測していますが、今年の1月から2月の約2ヵ月間はまったく鳴き声が録音に入らず、もしかしてこのエリアでは全滅したのかと心配しました。
しかし3月に入って間もなくの早朝に、たった一声だけですが、少し遠いところから典型的なフクロウ♂の鳴き声が聞こえて来たので一安心しました。
問題の里山ではご他聞に漏れず、耕作地が縮小する一方で、その分竹やぶの面積がじわじわと増えてきています。そんな中、まさに“しぶとく”ごく少数のフクロウが命を繋いでくれているようです。
この里山のかなりの広さの土地を持つ人といつの間にか知り合いになり、自然環境の維持に尽力してくれるよう顔を合わせる毎に頼んではみるのですが、現実の問題としてはご本人も年齢が高くなり、また私などが感じるほど自然保護には関心がないので未来はまったく希望がありません。
そんな中糸島市のある地方では、一人の比較的若い年代の女性が中心となって里山の保全に力を入れる活動が始まっています。具体的には不要な竹を伐採して竹炭を作り、さらに竹炭を活用した二次産品の開発、販売をしています。
また、竹の伐採には地元だけではなくSNSを通して広くボランティアを募り、福岡市から参加する人たちも出て来るようになりました。
本当は竹を伐採した跡地を整地して、落葉広葉樹を植えるところまで行って欲しいのですが、とりあえずこのような活動が始まったことは評価すべきことだと考えます。
では私は何をすべきか、絶えず自問自答するのですが、“フクロウは里山の自然環境のバロメーター”を信じて録音による生息状況をこつこつ調べて、里山の保全活動をする(あるいは今後してくれる)人たちに情報を提供したいと考えています。
なお、このことこそが大切なことですが、“フクロウがいる森は他の野鳥の種類や数も多い”とも言えるのではないか、それを信じてこれからも地道に私の活動を続けて行けるよう願っています。
(終わり)
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