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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2024-09-17

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク2019年台湾での録音報告 第2回

前回では今年3月13日台中市のSさんのお世話になり、早速翌14日の午前4時に出発して、まだ暗い大雪山の1800mあたりで、憧れのミヤマテッケイやルリチョウの素晴らしい、そして迫力ある録音が録れたご報告をしました。
また、そのあとも、例えばタイワンコノハズクの「ポッポー、ポッポー」というフクロウの仲間とは思えない高めのクリアな鳴き声を録音できて感激しました。
ほかにもミミジロチメドリやカンムリチメドリ、キバラシジュウカラ、コシジロムシクイなど大雪山ではおなじみの鳥たちのよい鳴き声を複数台のレコーダーを使っての放置録音を実行してゲットすることができました。
それはそれでたいへん良かったのですが、一つだけ悔やんでも悔やみきれないミスを犯してしまいました。
今回の訪台の前に、ぜとも録音したい鳥種を10種以上リストアップして、あらかじめSさんにも送ってありました。その第1位はミヤマテッケイで、上位に挙げていたタイワンコノハズクも初日でクリアできて上々の滑り出しだったのです。
ところが録りたい音第2位に挙げていたヒメフクロウの録音に失敗してしまったのです。はじめすぐ傍で鳴いていたにもかかわらずです。しかも珍しいことに同時にほとんど同じ近い距離で2羽がコーラスを歌うかのように鳴いていたのです。
ヒメフクロウは「ポッポポッポーッ」と4音を一声としてこれを繰り返します。毎度繰り返しになって恐縮ですが、鳥の鳴き声をカタカナで表記することはとても難しいことです。例えば、同じ声を同じ場所で同時にA、B、Cの三人の人が聞いたとします。どう鳴いたかを直後に書いてもらったらA、B、C三人三様の表記になるはずです。このことが私たち録音したり、鳥を鳴き声で観察する立場の者にとってはたいへん悩ましいことになります。
前述のヒメフクロウの声は誰が聞いても、ポッポポッポーッ」と聞こえるはずと言えるほど分かりやすい(例えばウグイスがホーホケキョであるように)鳴き声なのに、私が参考にしている“台湾の野鳥300図鑑"では、「ホ、ホッホ、ホ」と記述してあります。ポがホになっています。読者の皆さんの中にももしかしたら大雪山でヒメフクロウを聞いた方があるかと思います、ぜひこのとても分かりやすいヒメフクロウの声がどう聞こえたか、ぜひ教えていただきたいと思います。
“台湾の野鳥300図鑑"はもともと漢字で書かれたものを日本語に翻訳したものだと思いますが、台湾では当然の事ながら鳥の鳴き声もカタカナの外来語も漢字で書き表します。例として挙げると鶏のコケコッコーは「喔喔(wo wo ウオ、ウオ)」、ハンバーガーのマクドナルドは「麦当労(mai dang lao マイダンラオ)」となります。
野鳥の声で例を引くと、皆さんご存知の方も多いカンムリチメドリの鳴き声は、私には「フーピーチョウ、フーピーチョウ」と聞こえるのですが、“台湾の野鳥300図鑑"では「トゥーミージュー、トゥーミージュー」と表記されています。ちなみに、「フーピーチョウ」は「ビール飲む」と言う言葉になります。
ある時Sさんにそのことを話したら「田中さんはビールが好きだからそう聞こえるのだよ」と笑われてしまいました。それにしても私には「フーピーチョウ」と聞こえるのに、台湾の人には「トゥーミージュー」と聞こえるとは。
このことは私が毎度も申し上げるように、鳥の声は聞く人それぞれに聞こえ方がまったく違うこと、さらにカタカナで表記する場合にそれぞれまったく違った表記の仕方があると言うことです。じつに悩ましい話と言わなければなりません。
私は前にもフクロウの項でお話したように、フクロウ類の声が大好きです。
日本のフクロウ♂の場合は、「ホ、ホ、ホ、ホ・・・」の連続音と「ゴロッホ、ホーホー」が一般的によく知られていて誰もが表記にもそのように書くに違いありません。
前述の“台湾の野鳥300図鑑"では、タイワンコノハズク、オオコノハズク、リュウキュウコノハズク、ヒロフクロウ、タカサゴフクロウ、オオフクロウ、アオバズクの7種が記載されています。このうちリュウキュウコノハズクは蘭嶼島に、またアオバズクはおもに夏鳥としてわが国で繁殖するのでこの二種は除外して、残りの5種はいずれも録音対象として期待していて、中でもヒメフクロウはぜひとも良い録音を録りたいと念願していました。
長い脱線を終わって本題に戻ります。
ミヤマテッケイを録音した時にヒメフクロウも鳴いていたと言いました。確かにすぐ傍で、それも2羽が「ポッ、ポッポツポー」の4節の素晴らしい鳴き声で鳴いていたので、私は手持ち用のレコーダーのスィッチをONにしました。最初の2〜3声を録音した後、なぜか私は歩き出していました。以後は私の足音と折から飛んできた航空機の音が大きくノイズとなってしまいました。
なぜ歩き出してしまったのか、今思い出してもその理由が分からないままです。当時の状況から推測すると、多分Sさんが放置録音をするための場所選びをしていて、そのことについて私を呼んだのだと思います。私は私で、この日のまだ薄暗い大雪山の状況の中でヒメフクロウはまだ鳴き続けると判断したのだと思います。
しばらくしてもとの場所に戻った時にはヒメフクロウはすっかり鳴きやんでしまっていました。以後この憧れの鳥の声は他の録音の背景音としてはるか遠くで聞こえるだけでした。
また、先ほど中国語では鳥の鳴き声や、日本ではカタカナで表記する外来語をすべて漢字で表記すると書きました。では、“台湾の野鳥300図鑑"ではフクロウ類の声をどう表記しているか、参考までに書いておきます。

  • アオバズク・・・二音節でフッフッ(日本では普通ホッホー、ホッホーですが)
  • タイワンコノハズク・・・ヒュー、ヒュー(私にはポッポー、ポッポー)
  • オオコノハズク・・・ポッポッポッという連続音(台湾では高い声でフホーッと一音ずつ間をおいて鳴くことが多い、日本ではさまざまな表記があり、最近では木魚鳴きという不思議な低音での連続した鳴き声が話題となっている)

最後に、SさんのCDの解説書にあるカンムリチメドリは「客気、客気、客気」と記述されています。私が音訳すると「クーチー、クーチー、クーチー」となり、私が聞く「フーピーチョウ」とはまったく異なります。同じ音を聞いているはずなのですが。
鳴き声の表記は本当に難しいとつくづく思います。ましてや表音文字がない中国語圏に於いては。

(第2回おわり)

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