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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2020-09-27

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク2019年台湾での録音報告 第3回 ヒメマルハシ

野鳥の声録音のためになぜ台湾まで遠征するのか、なぜそこまでする必要があるのか、私のリスナーさんから質問を受けることがあります。
正直なところ、私自身は日本国内でまだ録音に行っていない場所はたくさんあります。その代表的なところは北海道です。行きたいのは山々ですが、乏しい予算で活動しているので、やはり費用対効果を考えざるを得ません。また、現地では短い日数で効果を上げようとすると、やはり適当な協力者のお世話になったほうが良いかもしれませんが、そうした知己がありません。
その点、台湾にはまず台中市に孫清松さんと言うボランティア精神に飛んだ強い助っ人がいます。また、鳥相も日本と大きく違うので魅力的です。そんなわけで、今年も新しいネタ探しのために費用も安く済む台湾に遠征したと言うわけです。
さて、行った以上は成果を上げないといけないわけですが、今回の台中市では総じて天気に恵まれず、点数的に十分だったわけではありません。60点と言うところでしょうか。また、思わぬ伏兵に妨害されてしまいました。それは“土地開発の波”と“犬の数と放し飼い”という問題です。
前半の6日間を台中市郊外の標高600mを拠点に過ごしたのですが、孫さんが今回宿泊の為に提供してくれたロッジのある、本来は里山のもっとも奥まった農場の多い地区が、富裕層の別荘地として近年人気が高まりどんどん開発が進んでいました。そのため、すでに別荘が建ちはじめ、また保養施設としてのホテルが出来たりと急速に市街地区化していたのでした。
録音するものにとってそれがなぜ困るかと言うと、車の走行音やクラクション(日本ではほとんど聞こえないが中国、韓国、台湾ではクラクションがよく鳴る)、建設工事の騒音がノイズになるからです。
また、周辺にまだ多く残っている農場は、夜間には人がいなくなるところが多く、たいていは大きい番犬を2〜3頭買っています。それが全部“放し飼い”になっていて、自分の畑だけでなく、隣接地域を越えてまでうろうろして吠え合ったりします。ちなみに、今も台湾には“狂犬病がある!”にも関わらずです。
孫さんの農場は里山の農園地区のもっとも高台にあり、続きは山となっているので、ロッジのすぐ裏手の山の縁(ふち)のブッシュと林では、いろいろな鳥がさかんに鳴いていました。
駄目もとで何回かタイマー録音を試みたところ、夜はオオコノハズクも鳴き、少し遠いのですがズグロミゾゴイも鳴きました。早朝には台湾の野鳥を代表する鳥・シロガシラをはじめヒメマルハシ、タイワンオナガ、アオハウチワドリ、メジロなど多彩な声が入ったのですが、ことごとく前述のノイズに邪魔されてしまいました。
また、天気が悪い日が多く、雨風にも悩まされました。そんな中で、音質的には私の目的には使用できないのですが、ヒメマルハシがよく鳴きました。
この鳥は、とても複雑な鳴き声のバリエーションを持っている鳥で、今回の録音ではもしも前述のさまざまなノイズがなければ相当面白い成果となったはずです。
ヒメマルハシの鳴き声ですが、「ボーボボ、ビーボーボボ、ボーボーボ、ビーボーボー、ホイポロロロロロ、ブビブビ、ボビポロロロロ、ビィービィー」など長くて、複雑なさえずりをさかんにします。
毎度申し上げることなので、うるさく思われることでしょうが、このような複雑な鳴き声を文字で書き表す作業はとても困難で、私も自分の録音と、孫清松先生のCDを何度も聞いて上記の表記にしました。しかし、いつも引き合いに出す「台湾の野鳥300図鑑」では、ヒメマルハシの鳴き声として、「カグィー、カグィーまたはゴ、ゴ、ゴ」と鳴く、とあります。
もちろん鳴き声図鑑ではないので、ちょっとした紹介として鳴き声についても触れている程度なのですが、これでは「群盲象を撫でる」で、かえって本物の鳴き声に出合った時に間違ってしまうのではないでしょうか。まあ、まったくそう聞こえないかと言えば、一部にそのように聞こえる声も含まれていないわけではないという感じです。
折角孫さんのご好意で利用させていただいた600mの農園のロッジでしたが、確かに多種の野鳥がいてよく鳴いていたものの、障害となることが多くて、残念ながら良い録音をゲットすることは出来ませんでした。
あと良い録音にならなかった要因がもう一つあります。それは早朝などもっとも野鳥たちが鳴く頃に、一度にあまりにも多くの鳥たちが鳴いたので、当然のことながらそれも困った結果と鳴りました。
じつに私のような録音者は我が儘な者で、鳥が鳴く時は、できるだけ一種類ずつ鳴いて欲しいのです。つまりいっぺんにいろいろな声が重なると、どれがどれだかわけが分からない録音となってしまうからです。
しかし、現実はそんなにうまく行くはずがないので、複数の声が重なることはたいていの場合に起きてしまいます。しかし、それも程度問題で、例えば今回の例の場合はヒメマルハシがマイクの近くに来て独特の濁った声で長く鳴いてくれた時、すこし離れたところでシロガシラが鳴き、少し間を空けてタイワンオナガが鳴くと言ったことであれば、これはこれで自然な感じがして図鑑的な目的でない限り利用は可能です。
ですが今回私が体験したケースはそんなに甘くはありませんでした。皆がいっせいに鳴くのです。しかも、シロガシラもタイワンオナガも大声で自己主張する鳥たちですから、ヒメマルハシの大きな声に負けまいと張り合っているかのごとく鳴いたのでこれには参りました。
孫さんのCDを聞くと、見事に一羽のヒメマルハシだけが鳴いています。同じ録音をするものとして、それがいかに困難な作業であり、幸運に恵まれないと得られないものであるか、よく分かります。
孫清松という人物に長く接して(と言っても通算で10日ほどですが)、彼がどんな物事にも真摯に向き合い、いかに辛抱強く忍耐力があるかを知っているので、あのヒメマルハシの面白い鳴き声が彼のCDにあるかが分かるような気がします。
散漫な文章になりましたが、ヒメマルハシ(チメドリ科)の面白い鳴き声の一端が伝わったでしょうか。

(第3回おわり)

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