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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2020-09-23

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク2019年台湾での録音報告 第5回 ルリチョウ

今年2019年3月の台湾録音旅行で、ぜひ録りたい野鳥の声ナンバーワンにあげていたミヤマテッケイは、このシリーズ連載の一回目で「大成功だった」と報告させていただきました。この録音時に、じつはバックでとても印象的な声で鳴き続けていた鳥がいます。それが「ルリチョウ」です。台湾固有種で大型のツグミ科の鳥です。
私は前回2014年に続いて、今回も大雪山の1800m地点で間近に出合えて、その独特な鳴き声も録音することができ、また下手な写真も写すことができました。
毎度申し上げることですが、鳥の声をどう書き表すかは本当に困難な作業で、じつに悩ましいことです。単純な鳴き声で誰もが知っている鳥だと表記は簡単ですが、あまりなじみがなく、かつ微妙な音を出す鳥の場合は本当に困ってしまいます。私自身の録音と、台湾の有名な野鳥研究家で、今年も私のサポートをしていただいた孫清松先生のCDを何度も聞いてその声をカタカナで書き表したいと思います。
その鳴き声は、「ピシィーッ」、「プシューッ、シューッ」と言った高い機械音に似た声を連続して数回出す、と表現するのが最も妥当でしょうか。
身体の色は名前のとおりで、全身が濃い藍紫色一色、目と嘴、そして足が黒く見えます。大きさはL:30cmもあり、とてもツグミの仲間とは思えない大きさで、ずんぐりした体形からむしろ鳩のような体つきです。
私も実際2mぐらいの至近距離に姿を現したところを見ることができたのですが、その姿を目の当たりにして素直に“大きい”と感じました。
もう一度鳴き声の話に戻りましょう。
私が前述のミヤマテッケイの素晴らしい鳴き声に出会ったのは、午前5時ごろの大雪山1800m辺りの森林に面した道路の端でしたが、まだ森の中は真っ暗でした。その暗闇の深い森からまずミヤマテッケイ独特の大きな鳴き声が聞こえて来たので、もう夢中になって手持ち録音をする一方で、孫さんにお願いして2ヶ所に放置録音用のレコーダーを置いてもらいました。
その時は他にもタイワンコノハズクやヒメフクロウと言った重要な目的とする鳥が鳴いていて、それらがあっちからこっちから、と聞こえてくるのでもう平常心を失うほど興奮して録りまくっていたのでした。
ルリチョウの素晴らしい録音が入っていたのに気がついたのは、その日の午後に宿泊させていただいていた孫先生の農場のロッジに帰って一休み後、その朝の録音成果を聞きなおしていた時でした。
ルリチョウの英名はTaiwan Whistling Thrush です。つまり笛を吹くツグミの意です。前述のように、端的に書き表せば「ピシィーッ」、「プシューッ、シューッ」と聞こえる鋭い声なので、“台湾の野鳥300図鑑”にも「鳴き声は長く、鋭く、車のブレーキ音に似ている」と書かれています。
なるほどそう言えば、確かにそのようにも聞こえますが、暗い森を引き裂くように響き渡る声には迫力があり、音というよりは、切れ味鋭い長い日本刀で、森の暗い空気を一刀のもとに切り裂くという映像をも感じさせるほどの力を感じました。
他にこのような声(音)で鳴く鳥は私には思いつきません。しかも、身体が大きい為にその音量は大きくて力強く、不思議な魔力のようなものを感じてしまい、帰国後、台湾での録音を整理する作業の中で、ルリチョウの声に私はすっかり虜になってしまいました。
もう一つ、ルリチョウの声には別の魅力的なところがあるのですが、じつは高いブレーキ音のような空気を切り裂く迫力満点の鋭い高音のほかに、まるで真逆の柔らかい、ちょうど人が口笛を吹くような音で「ピィーピーポー」と聞こえる声を交える時があることです。私はもともと中・低音の柔らかい声質で鳴く鳥(例えばイソヒヨドリやフクロウ類)が好きなので、ルリチョウが時折り出している「ピープーポー」というゆっくりした優しい声にとても魅力を感じます。森の空気を引き裂くような鋭くて高い声を続けた後、突然出す別種のような柔らかい中音域の声は、前者が鋭ければ鋭いほど対比がハッキリしてより魅力的です。
鳴き声とは離れた話ですが、ただ一つ残念なことがあって、前にサンケイが大雪山に多く訪れる登山客などに餌付けされてしまい、変に人馴れしてしまっていて、自ら人間に近寄ってくるところを見ましたが、ルリチョウにも幾分そうした悪弊があるのかもしれないことを感じました。
私がたまたま出会った1羽のルリチョウも、私がいる車道の端、つまり道路と森との境目の目立つところに出て来て、そこに人がいることに気がついているはずなのに、急いで身を隠す様子が見られなかったからです。ただ、その時の私は慌ててしまっていたことと、あたりがまだ薄暗くて十分な光がなかったために残念ながら撮った写真の全てがピンボケ写真になってしまいました。(私の写真はいつもその程度ですが。)その後、私の背後を車が通過してしまったので、そのルリチョウ君は残念ながらすぐ森の縁にある潅木の繁みに姿を隠してしまいました。
毎度申しますが、私は基本的に“鳥を見ない”人間です。と言うよりは、あえて鳥の目を避けて、こちらから姿を隠して鳴き声を録ることに重きを置きます。それなのに私のようなものに写真を安易に撮らせてくれたルリチョウのほうが不自然だったと言えます。この時のルリチョウと同じ個体ではもちろんないのでしょうが、今回の大雪山での録音では、ルリチョウ単独で、あるいは大好きなミヤマテッケイのバックで、この鳥ならではの独特の迫力ある声を私にもたらしてくれました。5メートル先も良く見えない、夜明け前の雲霧林の深い森の中に響き渡るルリチョウの鋭い鳴き声は、今年の録音行の印象深いシーンとして今も思い出すと興奮が蘇えってきます。
日本や韓国では見ることのできない台湾固有種の大きなツグミ。いかがです? 台湾未経験の皆さんも、他の魅力的な鳥たちと一緒にこの鳥を見に出かけませんか? 生息地は大雪山以外にも広くあるようです。

(第5回おわり)

(「野鳥だより・筑豊」2019年9月号・通巻499号より転載)

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