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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2020-09-27

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

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目次

シンボルマーク2019年台湾での録音報告最終回
記憶に残る鳥二種と台湾のある社会風習について

台湾の野鳥で心に残る鳥が二種あります。一つは、台湾ではごくありふれた鳥で、ほぼ台湾全土で見られるタイワンオナガです。カケスと同じ仲間、大きさもほぼ同じですが、顔のクローズアップを見ると、タイワンオナガのほうが野生的で鋭さを感じます。見てくれはともかく、私の心に残るのは当然のことながらその鳴き声です。カケスと近い鳥なので、基本的には「ジェー、ジェー」、「ジェッ、ジェッ」という声が多いのですが、じつは身体に似合わず高い声でもよく鳴きます。
はじめて台湾を訪れた 2014 年にも、タイワンオナガの声は印象に残っていて、今回訪台のチャンスでは、あらかじめ“録りたい鳥・声のリスト”を作成し、その上位に入れていました。
その良い声というのが「ジェ、ピロン」という声、「ピロン」の部分が高くて澄んでいて可愛く感じます。もう一つが「ピキピィーッ」と同じく高い声。体が大きいので、当然これらの声は声量があって周囲に広く響きます。「ジェー」というカケスらしい声が地鳴きで、「ピロン」、「ピキピィーッ」はさえずりだと思われます。重複しますが、体と面構えには似つかわしくない可愛い声として、今年良い録音が録れてとても印象に残りました。
もう一種、テッケイについても書いておきたいと思います。
私は恥ずかしながら、日本のコジュケイは台湾のテッケイを移入したものだとばかり思い込んでいました。勉強不足だったことは汗顔の至りというところです。そのことが分かったのは、台中市郊外、孫清松さんの農場に隣接する林から聞こえてきたテッケイの声を聞いた時です。あきらかに鳴き声がコジュケイとは違っていたのでした。鳴き方は確かに似ているのですが、声が濁っていてすぐ別の鳥だと思いました。改めて図鑑を見ると、外見もはっきりと違っています。コジュケイとテッケイに「ごめん!」を連発しなければいけません。
さて、台湾への今回の録音旅行での体験の中で、どうしても触れておきたいことがあります。特定の野鳥の種についてということではなく、野鳥に関する台湾のある社会慣行についてのお話です。
皆さんも「放生」(ほうじょう)という言葉をご存知かと思います。これはおもに仏教の世界で(神道や他の宗教にも似た思想はあると思いますが)よく実践されていることだと思いますが、“捕らえた魚や鳥を放してやる”ことで、この行為によって功徳を積むことを言います。中国・わが国をはじめとしたアジア諸国に広く行なわれています。
一例を紹介すると、かつて私も行って経験したのですが、中国・蘇州郊外に朱家角という水郷の観光地があります。町中に運河があって、明や清時代に建設された石橋が多く見られます。その一つに“放生橋”というのがあって、そのたもとで金魚が売られていました。つまり、この金魚を買って目の前の河に放してやると善行になるというわけです。願い事をしても良いし、病気が治ったお礼としても良いわけです。
また、タイでは王宮の広場に鳥を入れたカゴを持った人がいて、何がしかのお金を払うと鳥を一羽取り出して空に放してくれるのだそうです。タイは仏教国なので、鳥の命を救うことでいわゆる“功徳”を積むことが出来るとされているのでしょう。
インドでは街なかを堂々と牛が歩いていたり、どこかのヒンドゥー寺院では、信者が寺のいたるところにいる猿に持参した餌を与えるシーンも見たことがあります。
こうした命を救う行為も“功徳”を積む、あるいは善行をもって悪行を打ち消すことになると信じられている行為なので、“放生”の精神と同一のものだと言えます。
こうした“放生”が、現在も台北の街なかで堂々と行なわれていることを今回の旅で自分の目で確認することが出来たのです。それはある日、台北でお世話になった台湾野鳥学会会員である葉氏とバスに乗って移動した時のこと、台北の中心部に近いところで“放生”と書かれた看板を見たので、葉氏に尋ねたところ、それが鳥を放つ“放生”だと教えてくれました。つまり、無事な出産のお礼、子女が目的の大学に合格したお礼など、またそうした願掛けのために、あらかじめ捕らえられて店にいる野鳥を放つのだそうです。
鳥の種類は多い順にシロガシラ、カワラヒワ、スズメなどだと聞きましたが、葉氏は「この風習は台湾の古い悪弊なので、今日この看板を見たことは忘れて欲しい。」と少し悲しそうな顔をして私に言いました。
しかし、この事実はやはり報告しておかなければならないと思います。こん日、台湾はアジア屈指の近代国家です。それなのにこうした“放生”が、ましてや野鳥を捕らえて今も行なわれていることは社会慣行としてどうかと思います。捕らえられる時や、店で養われている間に命を落とす野鳥も少なくないようですから、私が感じていた「台湾は野鳥保護先進国」というイメージは少なからず後退してしまいました。
しかし、一方では、例えば“関渡自然観察センター”では、たまたま私が行った時には、大勢の小学生と思われる子供たちが先生に引率されて見学に来ていました。また屋外ではそうした子供たちのグループに、揃いのウェアを着たボランティアたちが野鳥について説明しているシーンも目にしました。こうして間違いなく「台湾は野鳥先進国」であることに変わりはない一面もあります。
“放生”の本来の精神は生き物の命を救うこと、です。その部分だけ見れば間違いなく台湾の“放生鳥”も善行に違いないのですが、残念ながらそれがビジネスとして行なわれていること、その目的のために生き物の命が粗末に扱われている裏側があることは葉氏だけでなく、悲しい思いをしている野鳥学会員は多いことだろうと思います。
台北の、走行中のバスの窓から見えた一軒の店の看板は、私の心の中に複雑な感情を沸き起こさせた経験となりました。しかし、やがてこの種のビジネスは台湾社会から姿を消す日がくることでしょう。世代交代が進むと、いつかこの習慣は廃れていくことだろうと私は信じています。
この号をもって「台湾録音旅行 2019」連載をひとまず終わらせていただきます。ありがとうございました。

(第6回おわり)

(「野鳥だより・筑豊」2019年10月号・通巻500号より転載)

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