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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2020-10-22

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

シンボルマーク録音活動を回顧して・外国での録音 韓国編その2

前回から2011年初夏に敢行した韓国での録音の旅を書き始めました。事情のよく分からない始めての韓国、それも野鳥の鳴き声を探すという特別な目的での旅。
博多駅前にある“韓国観光公社"に通って得たこの国への旅行知識は、とても役に立ちました。そしてますます確信したのです。「韓国の寺に行けば山がある、山があれば鳥がいる」と。しかし、すんなりとは行かないのは一人旅の常です。
まずこの旅の最初に行った釜山北東郊外の通渡寺(つうどじ・韓国読みトンドサ)では、たまたま土曜日であったこともあり、子供連れの多勢の観光客(韓国大寺院は信仰の対象である以上に、環境が良いために観光スポットでもある)の賑やかな声に満ちていて、また始めて訪れる寺院の周囲にある自然に少しばかり分け入ってみる勇気もなくて何ら収穫を得ることがなく惨敗に終わりました。
次に訪れたのは、新羅千年の古都であった慶州市の有名大寺院・仏国寺でしたが、日曜日であったことで、人出は通渡寺よりさらに多く、その上予想外の台風の接近で天候が急変してたいへんな思いをしました。収穫もほとんどなかった仏国寺を後にして門前からバスに乗り、終点で下車、東洋一美しいとされる石造りの釈迦如来像がある石窟庵(ソックラン)への砂利道を歩く頃には雨は横殴りとなりました。
夏鳥たちが繁殖期の真っ只中の季節柄、山道のそこここでオオルリやキビタキの声もしていましたが、なにしろ人々の声と砂利道を歩く大勢の足音と風雨の音で録音を楽しむどころではなく、人の流れに乗って石仏にたどり着き、その美しさにため息をついただけで、この日もまたもや敗退の一日となりました。
はじめての仏国寺はこうして見るも無残な結果となったのですが、もともと良い自然に恵まれた広い寺院の魅力は十分に感じ取ることができたので、後日2016年にこの素晴らしい寺院を再訪して、今度はアカショウビンやコノハズクの素晴らしい録音をゲットすることが出来ました。いずれその時の成功談はご紹介したいと思います。
雨の仏国寺をあとにして次の目的地へ向かう為に山を路線バスで下り、慶州市のバスセンターから、今度はバスを乗り換えて約2時間北へ移動、その日の宿泊地である慶尚北道・安東市(アンドン)に着きました。
翌日は台風一過の快晴となりました。
韓国3日目の目的地は、安東市郊外にある有名な観光地である「河回村(ハフェマウル)」です。河回村を訪れる時、前もって知っておいたほうが良い知識があります。
それは韓国中世から長く続いたこの国の身分制度の歴史です。それは両班(ヤンバン)を最も上位の階層とする厳しい身分階級制度があったことです。
中世以降朝鮮の王朝では、中国に倣って科挙制度を取り入れ、この試験に合格した人々を両班(ヤンバン)と呼び、彼らは行政と軍事の文武両面で絶大な権力を握り、また富も手に入れました。
河回村はこのヤンバンを歴代多数排出したことで有名な土地です。今もかつての朝鮮王朝時代の建物(ヤンバンの住居とそのまわりにヤンバンの屋敷に仕えた使用人たちが住んだ小さな藁葺きの住居群)が保存されているところです。村をぐるっと取り囲むように流れる川があり、それが河回村の名前の由来だそうです。
ここで余談ですが、高倉健主演の映画「ホタル」のラストシーンが思い出されます。高倉健扮する元特攻兵生き残りの主人公とその妻が、特攻兵として亡くなった青年の遺品を、彼のふるさとである韓国の田舎の村に届けるところがあります。それがここ河回村なのでした。
さて、中世にタイムスリップしたかのようなここ河回村とその周囲の風景は、そこだけすっぽりと過去から切り取られたかのような佇まいで、不思議な感覚に浸れる場所です。緑が多く自然にも恵まれています。私はそこでいかにも韓国らしい鳥たちに逢えるような気がしたので、寺院ではないのにここを訪問地に加えました。
安東のバスターミナルから約30分で村の入り口に着き、何がしかの入場料を払って村内に入ります。穏やかな日差し、しかも月曜とあって訪れる人もありません。
まるで私一人の貸切りのような贅沢な半日が待っていました。
土のままの舗装されていない、ゆっくりとカーブする道の両側には、韓国の田舎独特の低い土塀が続き、その中に、朝鮮王朝時代を彷彿とさせる真っ黒な瓦が乗った木造建築が一戸、また一戸と続きます。穏やかな昼の時間にまるでその時代の人物になりきったような感覚の中で、ゆっくりと歩を進めて行くと、突然近くからコウライウグイスの、あの伸びやかで変化に富み、でも独特の柔らかい鳴き声が聞こえてきました。
前年に糸島市の南部の林の中で、偶然にもこの鳥の独特の歌声を録音した感動経験が鮮明によみがえりました。その時は、声だけでまったく鳥の姿は見えなかったのですが、河回村に入ってすぐに鳴いてくれたこのコウライウグイスは、なんと私からほんの3〜4m先の、低い塀のすぐ中の、声をかければ李朝時代の人が出て来そうなヤンバンが住んだ邸宅の庭木の枝で鳴いていたのでした。
そっと塀に寄って身を低くし、すぐにレコーダーの録音スイッチを入れてひたすら息を凝らしている私には気がついていないのか、そのコウライウグイスは明るい初夏の陽光を浴びて気持ち良さそうにさえずり続けてくれました。辺りに人気や物音はまったくないので良い状態の録音が取れたのは言うまでもありません。続けて写真も一枚と思った時、コウライウグイスは「ぷいっ」と言う感じで飛び去ってしまいました。
陽光の明るさのせいか、コウライウグイスの黄色がとても鮮やかだった記憶があります。「やはりここはさすがに韓国だ、コウライ(高麗)ウグイスが出迎えてくれた」私は幸福感に満たされて、さらに曲がりくねった河回村の道を進んで行きました。
その後、何度もそして何羽ものコウライウグイスと出会いました。その度に録音したのですが、最初の鳴き声がもっとも内容が良く、その年の秋に制作した「声の野鳥だより2011年号」に採用しました。
この村の道はぐるぐると曲がっていくつもの通りと交錯して、昼をとっくに過ぎていることにも気がつかずただ気持ちが良くて、迷路のような道を何キロも歩き回ったのだと思います。やっと空腹に気がつき、村の出口のたった一軒だけの小さな食堂でビールでまずは喉を潤して、簡単な昼食を摂り、もとの道に出た時、そこにあった背丈の低い庭の繁みから、今度は突然数羽のダルマエナガが姿を現してくれました。
距離はわずか1mほど。あまりの可愛さに見とれてしまいカメラを向けることさえ忘れていました。それでも鳴き声はしっかりと録音できました。他には村内外のいたるところで当然のようにカササギとコウライキジが鳴いていました。 (おわり)

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