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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2021-10-23

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

シンボルマーク録音活動を回顧して・外国での録音 韓国編その8

2011年に行った初の韓国録音旅行も、いよいよ終盤に差し掛かりました。
前回は南西部の大都市・光州市から順天市まで行き、そこから松広寺(ソングワンサ)を訪れた話を書きました。松広寺では大きな収穫もなかったのでしたが、唯一朝早くにジョウビタキがよくさえずってくれました。ほかには強いて言えばアカゲラの力強いドラミングが録音できたことぐらいでした。
次に順天市の東隣りに当たる求礼(クレ)の町から、全羅南道では一番有名な智異山・華厳寺に行くのですが、その前に、12月号で報告した全州市の金山寺ではたいした収穫がなかったとしましたが、あとで当時の記録を調べ直したら、早朝の無人録音に、その年の韓国録音旅行では始めてのコノハズク、そして2度目のコウライウグイスの声が録音できていました。お詫びして訂正させていただきます。
さて、華厳寺(ファーオムサ)は韓国の最高峰ハルラサン(済州島)に次ぐ高峰である1915メートルの智異山(チリサン)の大自然に抱かれた全羅南道の名刹です。辺りは広く国立公園となっていて公園全体の広さはたいへんなもので全羅北道、全羅南道、慶尚南道の三道にまたがる山紫水明の大自然と、信仰に支えられた韓国有数の観光地であり、ハイカーや登山客のメッカでもあります。
バスセンターからタクシーで人家も少ない門前町に着き、そこでバスセンターの案内所で教えられた民宿に投宿しました。宿の名前は「リトル・プリンス」としゃれていて、まだできたばかりの建物は明るくて清潔です。
例によって、荷物を置いた後ベッドにどっと倒れこみしばし休憩しますが、なぜか当たりが賑やかなので窓からすぐ近くを流れる川岸を眺めると、なんとそこには車、車、車、川の向こう岸にはテント、テント、テント、人、人、人。とくに子供たちの凄い大歓声が、これから鳥の声を録音しようとする私にはなんとも気になります。
韓国にウォーキングする人が多かったり、街に登山用品の店が多かったりするのには気がついていたのですが、こんなにも韓国の人々は自然が好き、リクリエーションが好きとは少し意外な気持ちがするほどでした。
この日は月曜だったのですが、土曜日から続く戦没者を悼む国民の休日「顕忠日」に続く三連休だったのです。ただ、この日が連休最終日だったので、結果的にはそんなに実害はなかったことが後になって分かることになります。
夕方が迫っているので休憩もそこそこにして山門を目指します。何処の寺院でも多くがそうであるように、ここでも寺院までは緩やかな登り道になっていて、連日の強行軍や風邪が治りきらない身体にとっては応えます。
ほとんど直線の道を息を切らせながら登って行くと、その途中に古刹らしさが感じられない明るい色使いの新しい門があり、ここで入山料を払ってさらに30分以上!進むと本来の堂々とした、瓦が何層にも乗った重厚な姿の山門に着きます。
その奥に立派な寺容と伽藍を誇る曹渓宗屈指の禅宗大寺院である華厳寺は広がっていました。前回の松広寺と同じく、いやそれ以上に多くの修行僧が学びと修行に明け暮れる大寺院です。
余談ですが、寺の名前の通り華厳寺はもともと華厳宗の寺院でした。華厳宗と云えば、わが国の奈良の東大寺は華厳宗であることはご存知の方も多いかもしれません。
現在の韓国仏教はすべて曹渓宗となっています。
それはともかく、ここでも午後6時に、前回の松広寺と同じように修行僧によって大太鼓と梵鐘が打ち鳴らされます。荘厳で宗教心に関係なく人の心を打つ見事な音すべてを録音することができました。
ところで、太鼓と梵鐘が鳴る前に私は寺の観光案内所を通して一人の日本人青年と出会いました。Tさんは大阪からこの寺院に精進料理の修業に来ているとのこと。
2、3年で帰るつもりだったが居心地が良くてもう8年もいるとか。
T青年は大太鼓と梵鐘の鳴る時には、一番良い位置を案内してくれ、その録音にも協力してくれました。おかげで迫力ある録音が録れたわけです。
太鼓が打たれている時、T青年は私の耳元に「よかったですね。今日は上手な人たちが打っていますよ」などと教えてくれました。はるか遠くまで来た見知らぬ地でのT青年とのこのような出会いは、滅多にあるものではないのですが、そうした思わぬハプニングもまた私のような気ままな一人旅をする良さでもあると思いました。
華厳寺でその日のうちにするべき作業を終えて、私はまた急いで長い道のりを下って宿舎に帰りました。「河の向こうに良い自然があります、私が案内しましょう」と言ってくれる宿の主人の後に続いて浅い川を渡り、向こう岸の薮の向こうに出ると、
確かに柔らかな緑一色の草地とその奥にはまばらに木の生えた林があります。さらに向こうには智異山の稜線が見えました。
低い木の枝にタイマー録音をセットして、その夜は宿舎付近の村の食堂でゆっくりとビールで疲れをほぐしました。仕上げは韓国の甘い焼酎“チャミスル”です。いかにも大寺院の門前町らしい山菜料理を肴にチビチビとチャミスルを飲んでいると、酔いが心地よく回り、心身にこびりついた感がある疲労感が抜けていきました。
しかし、やはりここは町から遠く離れた山の麓。気持ちよく飲んでいる私の顔に手にやたらとハエがまつわりつくのでした。なにしろ、その食堂はおよそ壁や仕切りというものがなく、緩やかな風が吹き通しに吹きぬけていて、村のそこここにある牛舎の匂いとハエがワンセットになって届いて来るのでした。
翌日、前夜にセットしたお寺と、川向こうのレコーダーを回収した後、そこから直接釜山に行くバスがあるというので、“求礼”のバスセンターには戻らず、各駅停車のそのバスに乗ったのですが、いやはやその遠かったこと。一体いくつの小さな町を通ったことか、途中海岸線も数箇所見え、3時間以上も一般道を揺られてやっと釜山西のバスセンターに着いたのでした。
さて、華厳寺と宿舎付近の収穫はどうだったかですが、華厳寺のほうは大して収穫なし。前日までの異常な賑わいが原因だったのでしょうか、本来鳴くはずのコノハズクの声は当然のようにありませんでした。しかし、宿の川向こうでの録音には、思いがけず複数のセグロカッコウの明るいコーラスとカッコウ、そしてコウライキジの鳴き声が鮮明に入っているという収穫がありました。なにより韓国南西部の田舎町で、日本人青年が親切に接してくれたこと、日本語の達者な宿の主人が、帰る日の早朝に庭の心地よいテーブルで、手作りのお茶を入れてもてなしてくれたこと。
一人旅の大切な要素をすべて満たせた経験ができたことが収穫だったといえます。 (おわり)

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