田中良介
目次
録音活動を回顧して・外国での録音 韓国編その9
2011年に野鳥の鳴き声録音の目的で訪れた、韓国一人旅のいよいよ最終回です。前回は、全羅南道の名刹である智異山・華厳寺と寺院を取り巻く素晴らしい自然の中で、セグロカッコウ、カッコウ、コウライウグイス、シロハラのさえずり、コウライキジなど韓国ならではの良い鳴き声にたくさん出会いました。
さて、智異山を後にして、延々3時間以上一般路を走るバスにさんざん揺られて釜山西ターミナルに着いたあと、今度は"沙上(サザン)“駅から地下鉄2号線に乗り、釜山市街中央に位置する“西面(ソミョン)"駅で1号線に乗り換えて、終点の“老園(ノポ)"の一つ手前の、その名も“梵魚寺"駅で下ります。
午前11時ごろに智異山の門前町を、リクライニングのないバスに乗って釜山に
着き、地下鉄を乗り換えて梵魚寺駅に着くまでおよそ5時間の移動でもうくたくたでした。長い階段をゼーゼー言いながら登って地上に出て、とりあえず宿を決めて、部屋のベッドにドゥッと身を投げ出します。まだ動悸が治まりませんでした。
ややあって、時計を見ると梵魚寺の閉門時間である午後6時まで1時間しかありません。「たいへん、たいへん!」とばかり、急いでレコーダーにタイマーをセットし、バス停に向かいました。梵魚寺まではおよそ3kmほどの緩やかな連続カーブの登り道をバスに揺られてはじめて訪れることになりました。
バスを降りて、疲れた身体に鞭打って、息を切らせて坂道を上ること約10分で梵魚寺の有名な山門に到着です。
ここで例によって、野鳥を離れて脱線です。
わが国でも、韓国でもそうですが、仏教寺院には“山門"呼ばれる門があります。
日本で山門と言えば、奈良・東大寺の“南大門"が有名です。
しかし、韓国仏教寺院建築では、寺の入り口である山門がとても重視されている印象があります。
ここ梵魚寺の山門は、数ある韓国の寺院でももっとも有名で国宝にもなっているのすが、それは“一柱門"という独特の様式の門で、柱の太さ、全体の姿が図抜けて立派だとされています。
“一柱門"という形式は、瓦がたくさん乗った門の大きく分厚い、そして重い屋根を一列に並んだ四本の太い柱が支えている建築様式です。毎度申しますが、私は宗教心が無い人間ですが、今までに4回この門をくぐっていますが、いつ見ても美しく、堂々とした姿に感動します。
さて、梵魚寺の背後には“金井山"という海抜801.5mの山があり、韓国ではとくに多いハイカーにとても人気があるルートが多く整備されているといいます。
この山自体はそんなに緑が濃い印象はありませんが、山懐に抱かれた梵魚寺の左右と背後は緑と水に恵まれていて、訪問するたびに野鳥が多いと感じられました。
2011年当時、はじめての韓国だったので、私は見る鳥、鳴く鳥をなんでもいいから貪欲に観察しようと、二週間の旅の最後なので疲労した自身の身体のことも忘れて、
目を皿にし、耳の感度を最大に上げて梵魚寺の境内の中と、周囲の道を歩き回ったものです。
まず心に残ったのは、寺に向かって左手にある幅の広い浅い川です。川の中に無数にある飛び石状の岩の上に立つと、周りからカササギの鳴き声が聞こえてくるのがとても不思議な感じがしました。
カササギは畑や浅い川の周辺の疎らな木立の中に多い印象があります。それがこの鳥のあるべき自然な姿だと思っていたからです。
梵魚寺の脇にある山深い、広い渓流の水音に混じってカササギの声がするのは、まことに不思議な感じのする音の風景でした。時折り山から下りてきたハイカーの話し声も聞こえます。それらが入り混じって、ここは日本の筑後平野ではなく「韓国」なのだ、とつくづく感じさせられました。
3ヵ所にレコーダーを設置した後、全羅南道の松広寺や智異山・華厳寺でも聞いた、若い僧侶による大太鼓の演奏と梵鐘の音を録音してまたもや感激して初日の寺を下りました。その夜は今回の2週間の録音旅行の最後の夜です。
門前町の小さな食堂に入って、よく冷えたビールとマッコリでしみじみと一人で乾杯しました。その後、たまたま店内に居合わせた韓国人の男性と意気投合して、お互いに相手の言葉はぜんぜん分からないのに大声で歓談してマッコリの乾杯を続けました。こんな体験も、気ままな一人旅ならではの楽しい部分ではないでしょうか。
さて、野鳥体験はどうだったか、です。
いささか二日酔いの状態で梵魚寺に出かけて、最初に私の目と耳に飛び込んできたのはブッポウソウの飛ぶ姿と「ジェッ、ジェッ」と飛びながら出す悪声でした。
もちろんブッポウソウを見るのは初めてだったので、かなり興奮したことを覚えています。渓流の飛び石を渡り、対岸の林を抜けると、そこには一般の人が耕している畑があり、その脇ではシロハラがさえずっていました。もちろん、コウライキジも頻繁に錆びた大声で鳴いていたり、センダイムシクイやコマドリも鳴いていました。
回収したタイマーレコーダーは帰国後に聞いたのですが、ゴジュウカラ、シジュウカラのほかシロハラ、ブッポウソウなどが入っていて、内容的には直接聞いた音と変わりはなかったのですが、いかにも韓国の野鳥の種類や数の多さを改めて感じるものとなっていました。
はじめに書いたように、韓国は半島で、その先は中国東北部さらにはロシアとユーラシア大陸につながっています。韓国での留鳥と、渡りの季節にはたくさんの種類が通過する土地です。私はいつも韓国は日本の3倍、台湾は5倍野鳥が多いといっているのですが、そのことをはじめて実感する旅となりました。
私の旅は録音という目的の関係もあって、いつも一人旅です。野鳥の姿や声に接するだけではなく、その土地に暮らす多くの人々と、また文化に触れることの出来る旅でもあります。
振り返れば、安東市郊外の両班(やんばん)を多く輩出した村でのコウライウグイスの身近な姿と声にはじまり、慶尚北道羅で聞いたジョウビタキの複雑で早口のさえずり、百済滅亡の地で聞いたカササギとオナガのコーラス、全羅北道・金山寺ではじめて録音できたコノハズクの声、智異山・華厳寺ではセグロカッコウの二重唱にカッコウが加わっての三部合唱など、楽しくて素晴らしい録音もたくさんゲットできた旅でもありました。皆さんも、コロナが終息したら、身近な外国である韓国への探鳥旅を計画されてはいかがでしょうか。 (おわり)
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