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クマタカ
くまたか (日本野鳥の会筑豊支部)
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modify:2021-10-23

シンボルマーク

録音でつきあう
野鳥の世界

田中良介

目次

シンボルマーク録音活動を回顧して・外国での録音 台湾最終回・ヤマムスメ

台湾への探鳥ツアーに参加される皆さんが、もっとも関心が高い鳥は、やはり台湾の国鳥である“ヤマムスメ”ではないでしょうか。
ヤマムスメ(台湾名:台湾藍鵲、英名:Taiwan Blue Magpie)は、台湾固有種のカカケス科の鳥で、俗な漢字表記では山娘とされることもあります。美しさでは飛びぬけて目立ちますが、やはりカケスの仲間だけに、雑食性で荒々しい性格の鳥でもあります。繁殖期には、カラスと同じように、通りかかった人を襲うと言います。
私は2014年に録音のために訪台した折、最南部の街・恒春市でお世話になった劉さん(前回までRさんとしていますが、最終回でもあり、敬意を表す意味でお名前を出させていただくこととします)が、「ヤマムスメを見に行きませんか?」と誘い出してくれました。劉さんの車に同乗して向かった先は、街外れの一軒の民家、なんでもその家の庭にヤマムスメが遊びに来るのだとか、家の主は一人暮らしをされている郭さんという元教師の女性です。広い庭にはさまざまな樹種の木々とパパイアの木が混在していました。南国らしく緑で溢れた庭のテーブルと椅子に案内されて待つこと1時間あまり、結局お目当てのヤマムスメは姿を見せてくれませんでした。
私は毎度申し上げているように、野鳥を鳴き声で観察する人間です。当然のこととして鳴き声であれば、美しい良い声であったほうが嬉しいのですが、じつはヤマムスメはカケスの仲間なので声はいわゆる悪声です。
しかし、姿は大きくて美しい。綺麗な外見と、その姿にそぐわない悪声のアンバランスに私も大いに関心があったので、その後移動して、台中市でお世話になった孫清松さんに「ヤマムスメを見に行きましょう」と誘われた時も、二つ返事で同行しました。連れて行かれたところは、山間の木々が茂った中に遊歩道がある“八仙山公園”。残念ながらここでもヤマムスメは現れませんでした。
野鳥の専門家二人がわざわざ目的を明言して探しに出かけて観ることが出来なかったヤマムスメとは、そんなに数が少なくて「出会うチャンスが限られる鳥なのだ」私はそう思ってしまいました。
2014年の春、5日間お世話になった孫さんと別れて、私は台北市へと移動しました。市内のほぼ中央部にホテルを取って滞在2日目のことです。宿舎から程近い“大安森林公園”に朝早く出かけました。
ご存知の皆さんもあるかと思いますが、この公園は町の中にあるにもかかわらず、野鳥がたくさん見られるポイントです。さえずりが素晴らしい“シキチョウ”(籠脱けらしい)の声を偶然良い状態で録音できたり、池の中の樹木が繁茂した小島でコロニーを作って繁殖していた多数のゴイサギを見たり、草地を人を怖がらずにノソノソとあるの“ズグロミゾゴイ”に出会ったりと、楽しい時間に夢中で公園中を歩きまわり疲れました。
ちょっと一休み、と木陰のベンチに座って休憩したところ、突然大型の鳥のバサバサと言う羽音がしたので、目前の低木を見ると、なんとなんと、あのヤマムスメたちが枝に止まっているではありませんか! あわてて写真を撮りました。数十秒の間だったと思います。ヤマムスメたちは飛び去って行きました。夢を見ているようでした。
最南部の街でも、台中市でも、それも野鳥の専門家二人が「見せてあげる」と言って連れ出してくれたのに出会えなかったヤマムスメ。
大安森林公園でいとも簡単に出会えたことが信じられず、私は公園内を散歩していた男性に撮ったばかりの写真を見せて「これがサンニャン(山娘)ですか?」と聞きました。男性は私のカメラのディプレイを覗き込み「そうだよ、これがサンニャンだよ!
あんたが撮ったのか?なんと幸運な人だ。私なんか、二十年も毎朝この公園を歩いているのに、まだ一度も出会ったことがないのに。」そう言うと、少し離れたところを歩いている人々に大声で「皆、来て見ろ、この日本人がサンニャンの写真をとったぞ!」と呼びかけました。たちまち私の周りに数人の人垣ができて代わる代わる私のカメラを覗き込みます。
なるほど、台湾にヤマムスメはいるのだけど、どちらかと言うと里山のような木々が良く茂って畑があるような場所に多く、さすがに大都市の真ん中にある公園などにはあまり来ないのだ、私はそう理解しました。
だとすれば、私はなんと幸運な一人なのだ、二十年公園を毎日歩く人でさえ見ることが難しい鳥に、一発で出会えたのだから、そのあと飲んだ朝の台湾ウーロン茶の味は一入でした。
そのヤマムスメに何度も出会えたのが、2019年の春、場所も同じ台北市内でした。ただし、少し街外れとなる内湖区の里山でした。
1回目は、台湾野鳥長学会会員の葉さんが案内してくれた“内構”という元は炭鉱があった森です。流石に亜熱帯に位置する台北市の里山、今では木々がびっしりと繁茂しています。もともとは人も住んでいた地域なので、樹種も人の暮らしと所縁のあるものも多くありました。
突然葉さんが、「ジェッジェッ」とカケスの仲間特有の鳴き声が間近にした方向を指差しました。すると、桑の木が繁ったところで、一本の枝に一羽のサンニャンが止まって何かを啄ばんでいます。それは私にとっても懐かしい“桑の実”をヤマムスメが食べていたのでした。今の世代の人は味わったことが多分ないと思いますが、私の世代は田舎への疎開経験があります。私も幼児のころ、島根県の片田舎に疎開し、おやつ代わりに桑の実が熟す季節になると、桑畑に入って桑の実を夢中で食べたものです。
余談はさておき、いよいよ鳴き声が録音できた経験です。桑の実を食べるヤマムスメに出会った数日後、同じく葉さんの案内で、内湖区の別の里山に“カンムリワシ”に会いに行った時です。狙い通りに里山の向こうの低い稜線に数羽のカンムリワシが現れ、旋回しながら「ホエー、ホエー、ヒィーッ」と鳴いてくれ、良い録音を撮ることが出来ました。帰国後、この録音を改めて再生したところ、手前側で複数のヤマムスメが「ジェッ、ジュジュッ」と盛んに鳴いていたのです。突然出現したカンムリワシに、群れで行動するヤマムスメが気づいて、互いに鳴きあって警戒行動を取ったのだと思われます。オオルリやサンコウチョウのように姿と鳴き声がともに素晴らしい鳥種もいれば、ヤマムスメのように見た目はまことに美しいのに、鳴き声がまったくダメと言う鳥もいます。あれもこれも含めての自然界だとあらためて思いました。
今回をもって、いったん“録音でつき合う野鳥の世界”はお休みさせていただきます。ご愛読に感謝します。いずれ別のテーマでお目にかかりたく思います。(おわり)

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