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 背面飛行

日常やフィールドで出会ったいい話、困ったこと、奇妙な体験、ちょっと真面目な話など、みなさんの“野鳥風景”を掲載します。
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寿限無ジュゲムな野鳥たち

有働孝士 2022-05-04掲載

ウェブサイト(ホームページ)の多彩なコンテンツには時間を忘れます。なかでも国際鳥類学会議(International Ornithological Congress 以下IOC)のIOCワールド・バード・リストは世界の鳥を一望にできて素晴らしい資料です。ここに世界の鳥類10014種のリストを収めたエクセル・ファイルがあって、誰でも無料でダウンロード*できます。10014種といえば世界の鳥類全種。鳥類のすべてをわが手中にして思わず俗物気分をくすぐられます。このファイルには31種の言語表記による種名が収められ、もちろん日本語の標準和名および提案和名(拙稿では標準和名として認められていない鳥類の和名名称の意味)も収録されています。参照したのはMultiling IOC 11.2_c.xlsxです。*IOC World Bird List
この長大なファイルから10014種の全和名を抜き出してみました。ところが、つらつらとリストを眺めるうちに強い違和感を覚えるようになりました。種名のうち提案和名の文字数が多すぎる感じなのです。そこで和名の長い順(降順)に整列させてみました。最長の提案和名はフェルナンデスベニイタダキハチドリをはじめ17文字が4種(以下16文字24種、15文字92種、14文字229種..)。17文字といえば俳句1句分の長さです。確かにわが国は俳句の伝統ある日本語の国。とは言えプエルトリコヒメエメラルドハチドリなどと和名で俳句1句分はさすがに長過ぎませんか。最後の〜ハチドリまで読んだら、もう先頭を忘れそうです。
残念ながらミナミメジロマルハシタイランチョウ(文字合ってるか不安です)には残りの人生で出会う機会もないでしょうが、そうはいってもこの印象的な長さケープヨークオーストラリアムシクイには大いに驚き呆れてしまったのも事実です。そこで、この全リストから文字長の平均をとってみると9文字。同じことを「日本鳥類目録」改訂第7版(以下日本鳥類目録)で見てみると、最長はシロハラアカアシミズナギドリとこれも長すぎの14文字で1種、以下、13文字6種、12文字8種、11文字10種など極端例は少数ですが、わざわざ長い名前にした必要性や利点が不明です。しかし幸い文字長の平均は約6文字とこちらは穏当です。
よく知られた落語の「寿限無」では、“寿限無寿限無五劫のすりきれ〜”(以下97文字)という超長い名前が登場します。愛しいわが子の安泰と長寿を願い130字もの名前にしてしまった夫婦。元ネタになった長崎県の民話は、川に落ちたわが子の救助を村人に懇願するとき、この長い名前を全部言う間に溺れて手遅れになってしまうという悲劇ですが、別の子が川に落ちた時には助かりました。その名は「ちょい」。というわけで、この地方ではなるべく短い名前をつけるようになったのでした。
この悲喜劇から、名前についての教訓が読み取れます。名前は、他と区別するという大切な役割があります。しかしそれだけではなく、日常的に使われるコミュニケーションのツール(道具)でもあるのです。つまり、短い方が素早く伝わり、役に立つということです。名前は、命名という私的部分と、通用という公的・社会的な部分でバランスが求められます。「寿限無」ではわが子という私的な命名なので奇矯でも許されますが、和名は広く社会に通用するという強い公共性を持っています。
長い和名の何が不都合かというと、覚えにくい、言いにくい、書きにくい、伝えにくいの「4にくい」が障害になるからです。いずれも短かければ解消する障害です。逆に考えれば、望ましい和名の条件が明らかになります。すなわち、覚えやすい、言いやすい、書きやすい、伝えやすいの「4やすい」。
和名は、論文や会報に書き記されるばかりではなく、というよりもむしろ野外で発声される機会の方が圧倒的に多いことにご注意ください。和名は私たちバードウォッチャーにとって最重要のツール(道具)だということこそ声を大にしたいことです。もちろん私たちの占有物ではありませんが、最大のユーザーであることは間違いないでしょう。17文字もの提案和名を始めとする冗長族が、まかり間違ってもそのまま標準和名に昇格するような事態は避けていただきたい。また提案者は口頭など和名の日常使用を念頭に、ぜひとも再考していただきたいものです。

(2022-05-04掲載、「野鳥だより・筑豊」2022年5月号より一部加筆転載)

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